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32 遅い春
しおりを挟む今日も今日とて、日課の森散歩。
何時もと違ったのはシュルツがくっついている事と、全く気配が分からないけど影さん・・・本日はゼロとドゥエ・・・が見守ってくれてる事かな。
お茶会という名の影親睦会から残りの影さんともお茶して教えて貰ったんだ。
ゼロは(影さんは呼び捨てでと言われてるので)ウノの次に強い人で、ドゥエはゼロの次に強いんだって。
あと一人、トレと言う影さんがいるんだけど、その人もドゥエと同じくらい強いらしい。
この5人が持ち回りで僕に付いてるそう・・・。
・・・・・・ん?
もしかしてもしかしなくても、影さんの上位5人が僕の護衛についてるの?!
それってなんて贅沢!!
「僕なんかにもったいないよね・・・」
「何がだ?」
思わず零れた独り言を耳ざとく聞いたシュルツが聞き返してきたので、躊躇いつつも応える。
「・・・うん、影警備の人達ってもの凄く強くて優秀だって聞いたからさ」
「うん」
「こんな僕なんかの護衛にって、もったいなくない?」
「・・・・・・イツキ、僕なんかなんて自分を卑下することは無い。イツキはこの森に必要な存在だし、この世界に必要な存在で、何より俺にとっては唯一の番いでとても必要で大切な愛おしい存在なんだ」
眉を下げてシュンとした樹希の顔を覗き込んで目を合わせ、真剣な眼差しでシュルツはそう言った。
樹希は暫く考え込み、言われた意味を反芻して噛み砕いて理解すると・・・・・・。
「~~~~っ?!」
顔を湯気がでそうなほど真っ赤に染めて口をはくはくとさせた。
だが結局、何も言えずに両手で顔を覆うと俯いた。
首まで真っ赤に染めている樹希を見つめるシュルツは、優しく微笑みながら樹希の旋毛にチュッと口付けを落とした。
樹希がビクッと肩を揺らしてそっと顔をあげると、愛おしそうにこちらを見つめる紫水晶色の瞳とかち合った。
シュルツは涙目の樹希をそっと抱き上げて縦抱きにすると、何も言わずに森の中へと歩いて行く。
そのシュルツの首筋に熱い顔を押し当てて樹希は漸く自覚した。
───コレって、もしかして最初からシュルツ・・・僕のこと・・・す、す、好きだったって事?
だからあんなに世話焼いたり、護ってくれたり、心配してくれたの?
え? あれ? もしかして、僕も気付かなかっただけでシュルツの事、大好きなんじゃ・・・?
だからあの日、あんな夢見ちゃったのか?!
思い起こせば思い当たる節が多すぎる。
うわーうわーうわーっ?!
抱っこされてて身動きの取れない樹希のジタバタ具合を感じて、シュルツはご機嫌だった。
───漸く、気付いてくれたらしいな。
ほくほく顔でずんずんと歩くシュルツだった。
その様子を見つめていたゼロとドゥエは密かに思った。
『やっとか・・・』
そして精霊達も樹希に分からないような声で囁いていた。
『やっとだねー』
『鈍すぎだよー』
『両片想いが両想いになったかな?』
『精霊王様にご報告ー!』
樹希の心の様子を表すように、シュルツに抱っこされながら歩く樹希の周りでは草木の蕾が膨らみ、若葉が繁り、ポンポンと咲き乱れていた。
しかし当の樹希は恥ずかしさからギュッと目を瞑っていて気付いていなかった。
「イツキ? この先、何処に向かえば良いんだ?」
途中の分かれ道でシュルツにそう聞かれるまで一人悶々としていた樹希。
ハッとして目を開けた瞬間、咲き乱れてすっかり様子の変わった森に驚き。
「ココ何処?!」
と混乱して叫ぶくらい変化した森に困惑して、すっかり迷子になった樹希だった。
「・・・向こうは以前、俺と行った方角で、コッチがおそらくイツキがスライムに襲われて落ちた方」
「・・・・・・何で分かるんだよぅ・・・・・・。僕、全然分かんないのに・・・」
「───経験の差?」
「ええ? シュルツだってそんなに僕と変わんないよね?」
「ああ・・・そう言えば年齢は言ってなかったか。俺は250歳だ。イツキはまだ19歳だろう?」
「・・・・・・にひゃく・・・何だって?」
樹希が怪訝そうに聞き直した。
「250歳」
「・・・・・・嘘でしょ?!」
今初めて知った、と困惑顔で叫ぶ樹希に苦笑したシュルツ。
「竜人やエルフのような長命種は成人の15歳までは普通に成長して、そこからゆっくり、徐々に歳をとる。ある程度の成長のピークに達するとその容姿のまま数百年生きて、老齢に近付くとまたゆっくり老化していくんだ」
「・・・・・・へええ・・・え? じゃあ僕、もしかしてこれ以上成長しないかもしれないの?!」
これぞ異世界の神秘、なんて思っていたが、僕って転生してから髪以外成長してないよね?!
ガーンという顔でガックリした樹希にシュルツは笑ったのだった。
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