優しい庭師の見る夢は

エウラ

文字の大きさ
上 下
8 / 89

7 指名依頼 2(sideシュルツ)

しおりを挟む
※先日のうっかりポチッとのせいで昨日の更新の通知が投稿時間(16時)に表示されてないみたいでした。昨日の更新(6話)、無かったのかな?と思った方、確認してこの話の前に昨日の更新を読んで下さいませ。




城をあとにしたシュルツは、城下街の外門を出て少し歩いた後、竜に変化した。

翼を出すだけでも良かったが、完全な竜の姿の方が断然速いからだ。

何故か本能が『早く行け』と言っている気がする。

「・・・こんな感じ、初めてだ」

何故か胸騒ぎがする。
精霊の森を意識しだしたら、どうも落ち着かない。
ザワつく胸の内を何とか宥めながら空高く舞い上がり、広大な精霊の森の中心となる【管理者】の山小屋へと向かった。

竜帝国からもその森の姿は垣間見えるとはいえ、途中に街を二つ挟むほどの距離はある。
乗り合い馬車で竜帝国と次の街の間を半日、その街からその次の街までやはり一日かかる。

二つ目の街からなら歩いて半日程度で精霊の森には辿り着ける。
そう、徒歩、あるいは馬ぐらいしか移動手段が無い。
街道ほど整備はされていない道故に馬車は通れないからだ。

もっとも聖域で結界があるので、よほどのことがないと善人でも森の浅いところまでしか入れないのだが。

そんな距離だが、竜となって翔んで行くシュルツには関係ない。
空には街道もないし、障害物もない。
直線距離で高速で進めるため、一日もかからなかった。
いや、恐るべき事にアレから数時間足らずで山小屋まで辿り着いていたのだった。

今の時間は午後4時過ぎ。

太陽が西にやや傾いてきた頃だった。

森の中央に開けた地面が見える。
ぽつんと建つ小振りな山小屋が見えた。

「・・・・・・庭に洗濯物が干されている。ということは、やはり誰かが住んでいるのは確定だな」

空中でホバリングをして様子を窺っていると、ちょうど帰宅したのか、緑色のローブを纏った小柄な少年らしき誰かが山小屋へと向かって歩いてきた。

「・・・・・・あの子が【管理者】か? 何だ? 妙に気にかかる・・・」

早くこちらを見てくれと、何故かそう思った。
それを感じたわけでは無いのだろうが・・・。

そのローブを下ろして自分にかかる大きな影に気付いて、その人は空を見上げた。

───目が合った、と思った。
少なくとも俺は、そう思った。

金色に近い薄茶色の髪に新緑色の透き通った大きな瞳。
そして髪から見える尖った長い耳・・・エルフだ。

可愛い顔の、子供のエルフだった。

その子はシュルツを───正確にはシュルツの竜の姿を見て驚いたように目を見張った後、暫く上空を見上げていた。

そのせいでくらりとしたのか、仰向けに倒れた。

「───危ない!」

気付いて思わず下へ降りていくが、それに気付いたその子は驚愕した後、気を失った。
俺は訳が分からず、ツッコんでいってから気付いた。

「───マズい。俺、今、竜だった!」

このままだと庭に降りられない。
慌てて途中で人型に戻り、側に降り立つ。
そしてやらかした事に気付いた。

「・・・・・・だから気絶しちゃったのか?!」

真っ黒い大きな竜が自分目がけて空から降ってきたら、普通は驚くよな、そりゃ・・・・・・。

愕然としていると、精霊達が寄ってきて何やら囁いている。

『竜の人、イツキ脅かしちゃ駄目だよ!』
『イツキ、はじめて。おどろく』
『かわいいイツキをこわがらせるな!』
『イツキをベッドに運んでくれる?』
「───す、すまない! 運ぶからロッジに入れてくれるか?」

慌てて、イツキと呼ばれているその子をそっと抱き上げてロッジの寝室に横たえると、椅子を持ってきて側に座った。

「───ゴメンな、早く目を覚まして」

そのまま少し見つめていると、睫毛が震えて瞳を覗かせた。

思わず顔を寄せて見つめていると、目が合った。

「───っ?!」
「えっ?!」

直後、声も上げずに目を見張った後、顔を赤らめながら再び気を失った。

───やっぱり俺のせい?!
何で? 人型だったよね?!

パニックになっていると、先ほどの精霊達が寄ってきて言った。

『あー、イツキ、コミュ障だから』
『ずっと、何年もボクたち以外の人と会ってないから、慣れてないんだよ』
『いっつもイヤーな視線ばっかり向けられてたからそういうのには敏感で、私たち以外はちょっと拒絶反応起こすんだよね』
『でも竜の人、カッコいいから、たぶんビックリしちゃっただけかも?』
『竜の人、大きいしねー。きょぜつ?はしてないと思うなー』

・・・・・・これは慰められた、のか?

それにしても、ちょっと気になる発言もあるのだが・・・。

人慣れしていないようだし、訳ありなのか?
とにかく、今は少し離れたところから見守ろう。


それから直ぐに目を覚ました彼は、今度はシュルツを見るなり謝りだして、それにシュルツも謝るという不毛な事になってしまい、結局精霊達が間に入って落ち着いたのだった。




しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。 ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。 黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。 黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。 本来なら白いはずの目玉は黒い。 「お帰りなさいませ、皇妃閣下」 男は美しく微笑んだ。 ---------------------------------------- ▽なろうさんでもこっそり公開中▽ https://ncode.syosetu.com/n3184fb/

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。 後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。 目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。 気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。 街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。 僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。 そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。 それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。 けれど、その幸せは長くは続かなかった。 前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。 そこから、僕の人生は大きく変化していく。 オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。 ✤✤✤ ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。 11/23(土)19:30に完結しました。 番外編も追加しました。 第12回BL大賞 参加作品です。 よろしくお願いします。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...