癒しが欲しい魔導師さん

エウラ

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73 騎士は魔剣士団長と話す 1

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※ロザリンド視点

今いるここはリヴァージュ王国の王城敷地内にある国賓用の離宮の一室。
あのあと、意識を失ったセイリュウをそのままルラック公爵家に連れ帰ることも出来ず、案内されて渋々来たのがこの離宮だった。

さすがにここの警備は王族を護るのと同等のレベルだというのでひとまずホッとする。
・・・・・・が、アレは腐っても大公子息。準王族だから油断は出来ない。いつまた乗り込んでくるか───近衛騎士達を増員して貰おう。

そんな中でやや緊張感に欠ける発言をする者が一名。

「あー・・・・・・迂闊だった。彼氏、かなり繊細な人だったんだな」

頭をポリポリと掻きながら眉に皺を寄せて溜め息を吐く魔剣士団長スザクに俺はイラッとした。

「どういうことですか。今回呼び出したことと今日のアレは関係あるんですか?」

思わずキツい口調で問い詰めると、罰が悪そうな顔で応えた。

「・・・・・・あー、ちょっとな。───うおっ! 危ないな! 悪かったって! ちょっと落ち着け!」

思わず剣を抜く───のはさすがにマズいので、鞘ごと首元に突き付けると慌てて避けやがった。チッ!

「そう思っているなら全部吐け」
「おおう、見かけによらず気性が荒いなぁ。あっ、イヤだな冗談・・・・・・っておい、マジヤメロよー!」
「茶化すなら遠慮なく伸すぞ」

睨みつけて脅すと困ったように笑う魔剣士団長。

「はいはい・・・・・・彼氏もこんな嫉妬の激しいヤツ、よく婚約者にしたよなぁ」
「・・・・・・その口、話せないように───」
「わーっ! タンマ! 話す、話すからもう。先に進まねえよ!」
「・・・・・・」

進ませなくしてるのはお前だ、という言葉を呑み込む。本当に進まないからな。
ひとまず、セイリュウを寝かせた部屋の続きの間のソファに座る。

ルラック公爵───お祖父様は陛下と話すために今は陛下の私室にいる。人払いがされているのでここには俺とスザク団長しかいない。
部屋に用意されていたお茶をスザク団長がサーブしてくれる。
一口飲んで唇を湿らせ、気持ちを落ち着かせると話を促した。

「・・・・・・で?」
「あー、もう今更だからタメ口で話すが、とりあえず俺の話を聞け。あとでいくらでも質問に応えるから。あ、途中で俺から質問はするかもだが、いいな?」
「・・・・・・分かった」
「あと、俺のことはスザクでいい。俺もアンタをロザリンドと呼ぶがいいな?」

俺も否やはないので頷く。

「じゃあ、まず最初に。今回の対談は純粋に俺がセイリュウ殿と会って話をしたかったから申し入れたことだ」

そう言って話し出すスザク。

「その、確認なんだが・・・・・・。アンタ、セイリュウ殿のことをドコまで知ってる?」
「・・・・・・ずいぶん広い聞き方だな。ドコまで、とは?」
「あー、そうだな・・・・・・例えば、そう・・・・・・今とは違う記憶を持ってる、とか?」

躊躇いがちに言われた言葉に一瞬で警戒する。それこそコイツはドコまでセイリュウのことを知っているんだ?

「あー・・・・・・そんなに警戒するなって言う方が無理なんだろうが・・・・・・。実は俺にもココとは違う世界の記憶があるんだ。一部の者しか知らないことだが」
「・・・・・・まさか、前世の・・・・・・?」
「ご名答。で、さっき謁見の間で口パクでセイリュウ殿にある言葉を言ったわけ。すると同じ言葉で返ってきた。ビンゴだと喜んだね」
「まさか、前世で同郷の・・・・・・?」
「そうだ。『日本人』だった」

それであのとき、ちょっと動揺したのか。それと前世での同郷と知ってホッとしたのかもしれない。

悔しいが俺には共感したり出来ないことだ。しかしそんな相手がいると思うと嫉妬してしまう。

「セイリュウからは前世のことはそこそこ詳しく聞いている。知っているのは俺とレグルス様だけだろう。確か社畜だったとか」
「あーなるほどね。だから馬車馬のように働かされても耐えられたんだ・・・・・・。経験者だったから、却って仕事チートだったわけか」

セイリュウの以前の仕事環境も調べて知っているのだろう。

スザク団長から詳しく聞けば、社畜とは以前の魔導師団での仕事ぶりとあまり変わらない、主に低賃金で劣悪な仕事環境の人を指すらしい。

仕事人間という言葉もあるが、こちらは仕事が好きで自ら進んで働く場合に使われるので、無理矢理長時間働かされる場合とは根本的に違う。

「会社に飼われる体のいい家畜で、奴隷みたいなもんだよ」

───言い得て妙だな。絶対に賛同は出来ないが。

「で、彼氏、この世界のことについては何か言ってたか?」
「・・・・・・セイリュウの母君がやはり記憶持ちで、亡くなる前にセイリュウの未来を危惧してレグルス様に助言を残したらしいと言っていた」
「ふむ。・・・・・・てことは、セイリュウ殿本人はこの世界のことは知らないってことかな」

しばらく無言で考えていたスザクは、それから俺に詳しい話を聞かせてくれた。

スザクいわく、この世界はスザクやセイリュウの前世の世界で流行った物語の舞台にそっくりなんだとか。

ただ、その物語ではセイリュウの母親はスピカ嬢ではなく、街娘とレグルス様との子で、セイリュウはその物語の主人公ポジションだったそうだ。

母親を生まれてすぐに亡くし、神殿に併設された孤児院に引き取られ、五歳の祝福の儀でセイリュウが特別な祝福を受けて、更に父親が王弟だと知る。

そこから紆余曲折を経て、複数人いる攻略対象の男達と仲良くなったり恋敵に邪魔されたりしながら好感度を上げて最終的には誰かと結ばれる───。

そんな物語だという。

「俺も物心ついた頃から記憶があって、色々調べてみたら俺が知ってる物語とは似通っているが大元から違っていたから、物語の世界とは別物だと割り切って生きてきた」
「・・・・・・そうだな。そもそもの出自が違う」
「おそらく、そのスピカ嬢が物語の記憶持ちで、物語を変えようと色々やった結果がこうなのかもしれない」
「・・・・・・どういうことだ?」
「物語は二つあって、最初の話はそのスピカ嬢が悪役令嬢でヒロインを虐めたりして第二王子から婚約破棄され、のちに早死にする。ヒロインは第二王子と結ばれ、めでたしめでたし」

それは、スピカ嬢は悪役令嬢とは違うがおおよそは合っているな。
実際、婚約破棄され、病気でセイリュウを生んだあとに亡くなっている。
ただ、スピカ嬢が前世を思い出したのは婚約破棄後ののあとだと聞いているから、最初から意図して改変したわけではないと思うが。

「・・・・・・じゃあもう一つは・・・・・・」
「さっき言った、街娘とレグルス様との子であるセイリュウの恋物語」

───ただこれは、スピカ嬢もレグルス様と結ばれてセイリュウが生まれるなんて思ってもなかったかも───そう言うスザク団長。

確かに物語通りに進めたかったら、セイリュウが生まれるきっかけを潰すようなことはしないかもしれない。
自分の産む子がセイリュウかどうかなんて分かりはしないのだから。

偶然なのか必然だったのか。

ただ俺は、今のセイリュウが生まれて生きてくれたことに感謝をするけどな。





※スザクが『前世の物語に似た世界』と言ってますが、ゲームと言ってもロザリンドには理解しにくいだろうとあえてそう言ってるだけで、スピカの閑話のゲームの話と同じモノを指してます。





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