18 / 22
18 悪夢
しおりを挟む
※◇◇◇の後半アビス視点。
青空がやけに綺麗だった。
その空を背後にして、真っ黒くて大きな熊みたいな獣が立ち上がって鋭い爪を振るう。
吹き飛ばされて動けない俺を覆うように父と母が被さってきて、力の限り抱きしめてくれる。
『あなたは生きて』
『お前だけでも生きろ』
朧気な意識の中、そう声が聞こえて胸の辺りがほわんと温かくなった気がしてすぐに俺の意識はブラックアウトした。
次に目覚めたときには孤児院で院長先生に両親の死を知らされて、お墓の下に眠る両親にお別れをして──。
本当は泣きたかった。叫びたかった。俺をおいていかないでって、一人にしないでって。
「─────っ!」
声にならない自分の掠れた悲鳴で目が覚めた。
アレ、夢? それとも今が夢?
アビスもといシンが王都に着いたと言って俺を抱えて運んでくれたのは覚えてる。
そのあと俺はどうしたんだっけ。
上半身を起こしてみると、脂汗をかいてじっとり湿って貼り付くシャツと見覚えのない天蓋。震える手。
「……おれ……あれ? どこ……ここ、夢? 生きてる?」
シンは?
のろのろと顔を上げて視線を彷徨わせるがどこにもいない。
「──シン?」
返事がなくて、人の気配もない。天蓋の重たい布地に遮られて暗くて、今が何時なのか分からない。
暗い、怖い──こわい。
「──っシン! どこっ、いないの!? ヤだ、一人にしないで……置いてかないでっ」
俺は今まで触れたこともない広くて大きなベッドを這いずって移動した。暗い中を手探りで進むと伸ばした手が端っこでずっこけてベッドから転げ落ちた。
「──ぃった……シン?」
顔を上げるも、シンはいない。薄暗い闇が広がっているだけ。
ただ落ちたときの音が伝わったのか扉らしきものの向こうが騒がしくなったが、そんなことに気を回す余裕は今の俺にはなかった。
「シン、どこ……一人にしないで」
いつの間にかボロボロと泣いていた俺は、滲んだ視界の端に映ったトリニティとエヴァンスに気付かずにとっさに『転移』した。──シンを思い浮かべて。
「──っノヴァ様!」
トリニティの叫び声はすでに転移した俺には届かずに。
◇◇◇
ノヴァの休んでいた寝室で騒ぎが起きていた頃、王宮内の王族のプライベートな区画の王の私室に俺はいた。
「──というわけで、今は眠って──」
「シン!」
その声にハッと視線を兄王から逸らすと、目の前に涙でぐちゃぐちゃの顔のノヴァがいた。
──は?
俺と目が合ったノヴァは、ホッとしたように涙でぐちゃぐちゃの顔で微笑んだ。
「シン、一人にしないで……置いてかな……」
「っノヴァ!? おい、まさか転移してきたんじゃ──」
「……」
そう言いきる前にガクッと崩れ落ちそうになったノヴァを慌てて抱きかかえる。
前に言っていた、魔力枯渇だ。
「おい、彼は眠っていたんじゃなかったのか」
「確かに眠っていましたよ。こんなに取り乱すなんて、いったい何が……」
抱きかかえてひとまずソファに座ると、涙を拭う。
魔力枯渇で気を失ってしまったノヴァをそっと抱きしめる。本当は口付けて魔力を流してやりたいが、さすがにここでそれをするのは憚れるので我慢する。
少ししてエタニティが控えめにノックをしてきた。
「アビス様、もしやそちらにノヴァ様が転移していらっしゃいませんか?」
「あー、いるが、どうした」
「トリニティから、ノヴァ様を見失ったと今報告が入りまして」
ああ、おそらくトリニティが止める間もなく目の前で転移してしまったんだろう。
「では無事だと伝えてくれ。魔力枯渇で意識はないが、心配いらない。私が部屋に連れ帰る」
「畏まりました」
俺は兄王の前だが思わず溜め息を吐いた。
「大丈夫なのか」
苦笑してそう言う兄王に自分も苦笑する。
「静かに眠れるようにとノヴァを思って人払いをしていたのが徒となったようです。私やトリニティ達の姿がなくて驚いたのかと」
しかも見慣れない寝室だったろうし。
「それにしては少々取り乱しすぎたようだが」
「……あとで目覚めたら聞いてみます。申し訳ありませんが今日はこれで失礼します」
「ああ、気にするな。数日はゆっくりするといい。──しかし小柄で可愛らしい方だな。これでお前より年上とは」
「あげませんよ」
「心配せんとも手は出さんよ」
冗談だと分かっているが気分は悪い。ムッとしていうと笑われた。
「ではまたな」
「はい、おやすみなさい」
そう言って兄王の私室を出ると、控えていたエタニティがノヴァにローブをかけてくれたのでしっかり包んで、先ほどまでノヴァが寝ていた俺の寝室に戻った。
寝室にはエヴァンスとエタニティが控えていた。乱れていたらしいベッドのシーツも綺麗になっている。
「申し訳ございません」
「ああ、いい。この通り無事だ──と言いたいが、寝汗が酷い。着替えを」
「畏まりました」
テキパキと動くトリニティ達を見ながらノヴァを窺う。
「……何か怖い夢でも見たのかな?」
俺はよく眠れるようにと、おまじないのようにノヴァの額に口付けた。
青空がやけに綺麗だった。
その空を背後にして、真っ黒くて大きな熊みたいな獣が立ち上がって鋭い爪を振るう。
吹き飛ばされて動けない俺を覆うように父と母が被さってきて、力の限り抱きしめてくれる。
『あなたは生きて』
『お前だけでも生きろ』
朧気な意識の中、そう声が聞こえて胸の辺りがほわんと温かくなった気がしてすぐに俺の意識はブラックアウトした。
次に目覚めたときには孤児院で院長先生に両親の死を知らされて、お墓の下に眠る両親にお別れをして──。
本当は泣きたかった。叫びたかった。俺をおいていかないでって、一人にしないでって。
「─────っ!」
声にならない自分の掠れた悲鳴で目が覚めた。
アレ、夢? それとも今が夢?
アビスもといシンが王都に着いたと言って俺を抱えて運んでくれたのは覚えてる。
そのあと俺はどうしたんだっけ。
上半身を起こしてみると、脂汗をかいてじっとり湿って貼り付くシャツと見覚えのない天蓋。震える手。
「……おれ……あれ? どこ……ここ、夢? 生きてる?」
シンは?
のろのろと顔を上げて視線を彷徨わせるがどこにもいない。
「──シン?」
返事がなくて、人の気配もない。天蓋の重たい布地に遮られて暗くて、今が何時なのか分からない。
暗い、怖い──こわい。
「──っシン! どこっ、いないの!? ヤだ、一人にしないで……置いてかないでっ」
俺は今まで触れたこともない広くて大きなベッドを這いずって移動した。暗い中を手探りで進むと伸ばした手が端っこでずっこけてベッドから転げ落ちた。
「──ぃった……シン?」
顔を上げるも、シンはいない。薄暗い闇が広がっているだけ。
ただ落ちたときの音が伝わったのか扉らしきものの向こうが騒がしくなったが、そんなことに気を回す余裕は今の俺にはなかった。
「シン、どこ……一人にしないで」
いつの間にかボロボロと泣いていた俺は、滲んだ視界の端に映ったトリニティとエヴァンスに気付かずにとっさに『転移』した。──シンを思い浮かべて。
「──っノヴァ様!」
トリニティの叫び声はすでに転移した俺には届かずに。
◇◇◇
ノヴァの休んでいた寝室で騒ぎが起きていた頃、王宮内の王族のプライベートな区画の王の私室に俺はいた。
「──というわけで、今は眠って──」
「シン!」
その声にハッと視線を兄王から逸らすと、目の前に涙でぐちゃぐちゃの顔のノヴァがいた。
──は?
俺と目が合ったノヴァは、ホッとしたように涙でぐちゃぐちゃの顔で微笑んだ。
「シン、一人にしないで……置いてかな……」
「っノヴァ!? おい、まさか転移してきたんじゃ──」
「……」
そう言いきる前にガクッと崩れ落ちそうになったノヴァを慌てて抱きかかえる。
前に言っていた、魔力枯渇だ。
「おい、彼は眠っていたんじゃなかったのか」
「確かに眠っていましたよ。こんなに取り乱すなんて、いったい何が……」
抱きかかえてひとまずソファに座ると、涙を拭う。
魔力枯渇で気を失ってしまったノヴァをそっと抱きしめる。本当は口付けて魔力を流してやりたいが、さすがにここでそれをするのは憚れるので我慢する。
少ししてエタニティが控えめにノックをしてきた。
「アビス様、もしやそちらにノヴァ様が転移していらっしゃいませんか?」
「あー、いるが、どうした」
「トリニティから、ノヴァ様を見失ったと今報告が入りまして」
ああ、おそらくトリニティが止める間もなく目の前で転移してしまったんだろう。
「では無事だと伝えてくれ。魔力枯渇で意識はないが、心配いらない。私が部屋に連れ帰る」
「畏まりました」
俺は兄王の前だが思わず溜め息を吐いた。
「大丈夫なのか」
苦笑してそう言う兄王に自分も苦笑する。
「静かに眠れるようにとノヴァを思って人払いをしていたのが徒となったようです。私やトリニティ達の姿がなくて驚いたのかと」
しかも見慣れない寝室だったろうし。
「それにしては少々取り乱しすぎたようだが」
「……あとで目覚めたら聞いてみます。申し訳ありませんが今日はこれで失礼します」
「ああ、気にするな。数日はゆっくりするといい。──しかし小柄で可愛らしい方だな。これでお前より年上とは」
「あげませんよ」
「心配せんとも手は出さんよ」
冗談だと分かっているが気分は悪い。ムッとしていうと笑われた。
「ではまたな」
「はい、おやすみなさい」
そう言って兄王の私室を出ると、控えていたエタニティがノヴァにローブをかけてくれたのでしっかり包んで、先ほどまでノヴァが寝ていた俺の寝室に戻った。
寝室にはエヴァンスとエタニティが控えていた。乱れていたらしいベッドのシーツも綺麗になっている。
「申し訳ございません」
「ああ、いい。この通り無事だ──と言いたいが、寝汗が酷い。着替えを」
「畏まりました」
テキパキと動くトリニティ達を見ながらノヴァを窺う。
「……何か怖い夢でも見たのかな?」
俺はよく眠れるようにと、おまじないのようにノヴァの額に口付けた。
380
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません
ミミナガ
BL
この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。
14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。
それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。
ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。
使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。
ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。
本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。
コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる