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王都観光 初日 3
しおりを挟む周りがひときわ大きくどよめいた。
さっきまでヒューズに熱い視線を送っていたヤツらは、フードを下ろしたルカの額に口づけをしたのを見てキャーキャー騒ぐ。
一方で、子供のようなルカがフードを下ろして口づけを受けた瞬間に真っ赤になったのを見てしまったヤツらも呆然としたあと、ギャーギャーと喚いた。
周囲で離れた位置で護衛をしていた騎士達がザッとルカ達の周囲に現れて周りを警戒した。
腰の剣には辺境伯の家紋が付いているため、私服であろうと気付く者がいて・・・。
「・・・あれ、辺境伯家の家紋だ」
「辺境伯って、ノースライナ家?!」
「どうして王都に・・・?」
「・・・・・・ねえ、あの子、黒髪よ!」
「黒髪って・・・・・・稀人様?!」
ザワザワと情報が広がっていく。
ルカは恥ずかしさの余り、ヒューズに抱き上げられながらヒューズの首元に火照った顔を押し当ててぎゅうっと抱きついていた。
ヒューズがそんなルカの髪を梳くように髪に指を入れる。
「---っ見て、お二人の指にお揃いの指環が・・・・・・!」
「えっ、じゃあ婚姻してるって事?!」
「アルカエラ神に祝福されてるのね・・・羨ましい」
さすがにコレで俺達に絡んでくる馬鹿はいないだろう。
「ちょっと別の意味で騒がしくなっちゃったけど、文句を聞かされるよりは良いでしょ?」
ダグラスがルカの耳元で囁く。
---そっか、僕の為に、こんな・・・。
「ヒューズ、ダグラス・・・皆、ありがとう」
「気にするな」
「周りなんて放っといて、楽しもうよ」
「さあ、ルカ。何でも好きなものを買ってやるぞ。遠慮するなよ?」
「・・・・・・だから、そんなに買わないよ?」
クスクス笑いながらルカが言った。
確かに違う意味で騒がれたが、悪意ある言葉を言われなくなっただけでもの凄く気が楽になった。
「ルカ、このお店は王都で人気の喫茶店だそうだ。予約しているからお茶にしよう」
「---うん。楽しみ・・・」
「---巫山戯ないで!」
扉を開けた途端に怒号が聞こえて、はっとしたときにはちょうど立っていた僕の顔の位置に何かが飛んできた。
とっさに手を翳すも間に合うはずもなくて、ヒューズもダグラスも、護衛の騎士さん達も反応は出来たが防ぎきれずに、呆気なく僕の顔面に直撃してしまった。
「---・・・ぷはっ・・・苦しい・・・ヒュー」
「ルカ!! ああ、なんて事だ、ルカの可愛らしい顔がこんな・・・・・・!!」
ヒューズが慌てるのも無理はない。
だって僕の顔には前が見えないほどの生クリームがくっついているんだもの。
「---おい、一体どういう事だ! この店は客にケーキを投げつけるのが礼儀なのか!」
「っと、とんでも御座いません! お客様が急に喧嘩を始めてしまったので止めようと・・・!」
僕の世話に忙しいヒューズに変わりダグラスとイライアス、セバスが店内に入って詰め寄った。
護衛は僕の周りを固めてくれてる。
「---っルカ様、御身を護れず申し訳ございません!」
「・・・しか・・・な・・・よ。きゅ・・・・・・だもの・・・ぷはぁ・・・・・・ベタベタ・・・着替えたい」
何とかクリームを拭って貰い、息がしやすくなったけど、気持ち悪い。
やいのやいの詰め寄っている義父様達に声をかける。
「義父様、ダグラスにセバスも、もう良いよ。それよりクリームどうにかしたい」
「---そうだな! とにかく服飾店に行って着替えを用意させよう。店主、ノースライナ辺境伯のタウンハウスへ今日の夕方に来るように。それから予約は取り消す。ではな」
イライアスが厳しい声で店主に言いつけると、ルカはヒューズに抱き上げられ、護衛に囲まれながら店をあとにした。
残された店主と店内にいた客は呆然としていた。
先ほど怒号をあげてケーキを投げつけた女はブルブルと震えて顔も真っ青だった。
そして痴話喧嘩の相手と思われる男も青ざめている。
先ほどの客はなんて言っていた?
ノースライナ辺境伯と言ってなかったか?
お忍び姿だったが屈強な体の壮年の貴族。
騎士らしき護衛も大勢いた。
執事らしい老紳士も。
そして大切に護られているような、小柄な黒髪の・・・・・・。
「・・・・・・稀人様・・・・・・?」
「・・・・・・何?」
「さっき、通りで騒ぎがあったよね。稀人様と辺境伯の騎士様がお揃いの指環をしてたって」
「黒髪の綺麗な男の子と婚姻してるんだって、羨ましいって皆、騒いでた」
「・・・・・・」
それが事実ならとんでもないことに・・・・・・。
痴話喧嘩の男女は真っ白い顔色になった。
「---さあて、お客様? 先ほどの方々は今しがた予約でいらっしゃった辺境伯家の方々でございます。当店での器物破損に加えて高位貴族様への不敬罪、それとわが店への多大な損害請求をさせて頂きますね。夕方、彼の方々への謝罪の時まで衛兵の詰め所の牢屋でお待ち頂きましょうかねえ・・・」
アルカイックスマイルで淡々と告げられた内容に、もはや立っていられない二人は、駆けつけた衛兵達に引き摺られて行ったのだった。
もちろんこの後どうなったかなんて事はルカの耳には一切入らないのだが。
※観光初日がまだ終わらない・・・・・・。何故だ。
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