31 / 50
王都観光 初日 4
しおりを挟むあの後、急いで服飾店に駆け込み、好意で貸して貰ったシャワーを浴びてサッパリと汚れを落としたあと、用意されていた着替えを身に着けた。
一応庶民的なデザインではある。
そこに何時ものようにヒューズの色をつけてくれている。
ベースの黒い服に銀色と琥珀色の刺繍が所々付いていて綺麗で可愛い。
この世界に来てずっと伸ばしている黒髪に琥珀色と銀色のリボンを編み込んで貰う。
ヒューズの色に包まれてる安心感、半端ない。
「サイズはよろしいようですな。既製品しかございませんでしたが、ようございました」
服飾店の老店主がほのほのと笑っていた。
稀人を見ても変に気を遣われなくて嬉しい。
「急な事なのにありがとうございます。凄く素敵です!」
「ルカ様、こちらの店は辺境伯家のタウンハウスにも出入りなさっておりますので、ルカ様のサイズや好みもしっかりと把握なさっておいでです」
セバスが追加で情報をくれた。
なるほど、どおりで趣味が合う訳だ。
「お目にかかれて光栄でございます。店主のクリスフォード・レイモンと申します」
綺麗なお辞儀と共に挨拶をされた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「滞在中に何かございましたら遠慮なくお申し付け下さい。迅速に丁寧に仕上げてお届け致しますので」
「ふふ、ありがとうございます。あの、この髪につけたリボンをもう少し欲しいんですけど、あります?」
この色とデザイン、気に入ったんだ。
だってヒューズを思い起こさせるんだもの。
精悍でしなやかで、格好いいのに可愛いところもあって・・・。
思わず照れちゃって、顔が赤らむ。
「ございます。太さも幅の広いものから組紐のような物まで多種多様に揃えてございます。よければサンプルをお持ち致しますが、お時間は・・・」
ちらっとイライアスに目線を向けて窺う。
「ああ、お茶の時間が潰れてしまったので空いている」
「それでしたら、是非こちらでお茶をして頂きながら拝見して頂きましょうか」
そういって老店主が奥に声をかけると、テーブルにお茶とケーキが運ばれて来た。
「先ほどの喫茶店のケーキでございます。店主が、先ほどは大変不快な思いをさせてしまったとお詫びに・・・。差し出がましいのですが、彼は私とは古い幼馴染みなのです。本意では無いのです。・・・どうか、寛大な処置をお願いいたします」
そういって頭を下げた。
イライアスは気まずそうに言った。
「アレは私もカッとなって言ったが、もちろん店には問題は無かったようだし、重い責任を問うことはしないとここで誓うよ」
そうそう。
僕も聞いてたけどむしろ被害者だったよね。
「どう見ても痴話喧嘩?でケーキ投げてきたあの人達のせいで、店は被害を被っただけだしね。僕も全然怒ってないよ。それにここでゆっくり食べられて、嬉しい」
そういって、頂きますねとケーキを口にした・・・というかヒューズに給餌された。
「---! 美味しい! これ、凄く美味しい。甘過ぎなくてクリームが滑らかで、でもサッパリしてる。不思議・・・いくらでも食べられそう!」
にこにこしながら頬張るルカにデレデレのヒューズ。
安定の溺愛ッぷりにイライアス達は呆れ、店主は驚いた後に泣き笑いのような顔で『ありがとうございます』と言って、サンプルを準備しに奥へと戻っていった。
美味しいケーキを食べて気に入ったリボンも買えて、ルカはほくほくの笑顔で店をあとにした。
もちろんリボン代も衣装代もヒューズが払った。
ルカは、今日はヒューズに甘えようと思って、何も言わずにヒューズにお礼の口づけを贈って、ヒューズが赤面するのを『可愛い!』と悶えていたのだった。
「とりあえず、ヒューズがキレなくて良かった」
「・・・ルカにかかりきりでそれどころじゃ無かったからな。ある意味助かった」
ダグラスとイライアスはこっそりと溜息を吐いた。
ヒューズの戦闘力は一騎当千と言われるほど。
そんな男があの場で剣を抜いたらどうなっていたか・・・・・・。
偶然だろうが、あの時ルカが着替えを言いだしてくれて本当に助かったのだ。
「まあ、アルカエラ神が出た方が恐ろしいがな・・・・・・」
「言えてる」
ルカとヒューズ以外の者はブルッと震えたのだった・・・・・・。
260
お気に入りに追加
1,254
あなたにおすすめの小説
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※溺愛までが長いです。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる