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王都観光 初日 4

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あの後、急いで服飾店に駆け込み、好意で貸して貰ったシャワーを浴びてサッパリと汚れを落としたあと、用意されていた着替えを身に着けた。
一応庶民的なデザインではある。

そこに何時ものようにヒューズの色をつけてくれている。
ベースの黒い服に銀色と琥珀色の刺繍が所々付いていて綺麗で可愛い。

この世界に来てずっと伸ばしている黒髪に琥珀色と銀色のリボンを編み込んで貰う。

ヒューズの色に包まれてる安心感、半端ない。

「サイズはよろしいようですな。既製品しかございませんでしたが、ようございました」

服飾店の老店主がほのほのと笑っていた。
稀人を見ても変に気を遣われなくて嬉しい。

「急な事なのにありがとうございます。凄く素敵です!」
「ルカ様、こちらの店は辺境伯家のタウンハウスにも出入りなさっておりますので、ルカ様のサイズや好みもしっかりと把握なさっておいでです」

セバスが追加で情報をくれた。
なるほど、どおりで趣味が合う訳だ。

「お目にかかれて光栄でございます。店主のクリスフォード・レイモンと申します」

綺麗なお辞儀と共に挨拶をされた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」
「滞在中に何かございましたら遠慮なくお申し付け下さい。迅速に丁寧に仕上げてお届け致しますので」
「ふふ、ありがとうございます。あの、この髪につけたリボンをもう少し欲しいんですけど、あります?」

この色とデザイン、気に入ったんだ。
だってヒューズを思い起こさせるんだもの。

精悍でしなやかで、格好いいのに可愛いところもあって・・・。

思わず照れちゃって、顔が赤らむ。

「ございます。太さも幅の広いものから組紐のような物まで多種多様に揃えてございます。よければサンプルをお持ち致しますが、お時間は・・・」

ちらっとイライアスに目線を向けて窺う。

「ああ、お茶の時間が潰れてしまったので空いている」
「それでしたら、是非こちらでお茶をして頂きながら拝見して頂きましょうか」

そういって老店主が奥に声をかけると、テーブルにお茶とケーキが運ばれて来た。

「先ほどの喫茶店のケーキでございます。店主が、先ほどは大変不快な思いをさせてしまったとお詫びに・・・。差し出がましいのですが、彼は私とは古い幼馴染みなのです。本意では無いのです。・・・どうか、寛大な処置をお願いいたします」

そういって頭を下げた。
イライアスは気まずそうに言った。

「アレは私もカッとなって言ったが、もちろん店には問題は無かったようだし、重い責任を問うことはしないとここで誓うよ」

そうそう。
僕も聞いてたけどむしろ被害者だったよね。

「どう見ても痴話喧嘩?でケーキ投げてきたあの人達のせいで、店は被害を被っただけだしね。僕も全然怒ってないよ。それにここでゆっくり食べられて、嬉しい」

そういって、頂きますねとケーキを口にした・・・というかヒューズに給餌された。

「---! 美味しい! これ、凄く美味しい。甘過ぎなくてクリームが滑らかで、でもサッパリしてる。不思議・・・いくらでも食べられそう!」

にこにこしながら頬張るルカにデレデレのヒューズ。

安定の溺愛ッぷりにイライアス達は呆れ、店主は驚いた後に泣き笑いのような顔で『ありがとうございます』と言って、サンプルを準備しに奥へと戻っていった。


美味しいケーキを食べて気に入ったリボンも買えて、ルカはほくほくの笑顔で店をあとにした。

もちろんリボン代も衣装代もヒューズが払った。
ルカは、今日はヒューズに甘えようと思って、何も言わずにヒューズにお礼の口づけを贈って、ヒューズが赤面するのを『可愛い!』と悶えていたのだった。


「とりあえず、ヒューズがキレなくて良かった」
「・・・ルカにかかりきりでそれどころじゃ無かったからな。ある意味助かった」

ダグラスとイライアスはこっそりと溜息を吐いた。
ヒューズの戦闘力は一騎当千と言われるほど。
そんな男があの場で剣を抜いたらどうなっていたか・・・・・・。

偶然だろうが、あの時ルカが着替えを言いだしてくれて本当に助かったのだ。

「まあ、アルカエラ神が出た方が恐ろしいがな・・・・・・」
「言えてる」

ルカとヒューズ以外の者はブルッと震えたのだった・・・・・・。


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