月の至高体験

エウラ

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本編

82 とあるギルド職員の独り言(冒険者を添えて)

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本日私は、いえ、私達は凄いものを見ました。

何の変哲も無い日常でした。ええ、あの方々がお見えになるまでは。

朝のクエスト受注の混雑が一段落した9時頃、フードを被ったその二人は、何の気負いも無くギルド入り口の扉を開けて颯爽と入ってまいりました。

何やら世間話をしているようですが、あの二人のうちの一人は大公家次男のスオウ様ですね。
・・・もう一人はどなたでしょう?
ずいぶん気安い間柄に見えますが。

ギルド内に残っていた冒険者を始め、職員一同で二人の挙動を見つめておりました。
どうやらクエストボードに向かっているようです。

ああ! 問題児が絡んで行きましたよ!
なんて命知らずな!
最近こちらに来たばかりで素行の悪い冒険者ですよ。
スオウ様の事を知らないなんてモグリですか?!

やれやれ、という空気を出してスオウ様がフードを取りました。
ああ麗しいご尊顔を今日ここで拝見出来るなんて・・・って、えええ-?!
次いでお連れの方がフードを下ろしましたが・・・女神?!
ナニアレナニアレナニアレ---!!

どうやら男性のようですが、中性的な美麗なお顔立ちです。
長い黒髪を後ろでポニーテールにし、切れ長の黒い瞳は・・・もしかしてジパング皇国の方でしょうか?

んん?
何やら周りの冒険者達がザワついていますね?
何でしょう?

ちょうどこの受付に来ていた冒険者の方にお伺いしてみましょう。

「すみません、冒険者ニックさん。お聞きしたいんですが、あのスオウ様の隣の方をご存知ですか?」
「あ、ああ。あの方はスオウ殿と同じ学園の生徒でサクヤ殿だ。少し前の例の野外授業の護衛依頼で見かけた方だ」
「はあ、そうなんですね。・・・ということはかなり身分の高い方なんでしょうか」

それを聞いたニックさんが渋い顔をした。

「そこは守秘義務で教えられないが、高位貴族とだけ・・・。だがソレよりも二つ名の方がヤバいぜ」
「二つ名が付くほど凄い方なんですか?」

とてもそんな風には見えません。穏やかそうで荒事をするような感じじゃないですよね?

びっくりして視線を戻すと、問題児がいきり立って大きな声で怒鳴っていました。

サクヤ様と仰る方は表情はほとんど変わらないようですが、スオウ様と話す時にはやや動いてますね。

「退け、雑魚」

おお!
スオウ様、煽ってますね!

「いや、だって雑魚だよね?」

・・・・・・サクヤ様も煽ってますね、辛辣ですね!
・・・アレ?
もしかして無自覚天然ちゃんですか?!

そして何故スオウ様にキラキラした瞳を向けているのですか?
どこにそんな要素が?

謎過ぎる。

そして遂にキレた問題児。
血の雨が---!!
間一髪、ギルマスの鶴の一声で止まりました。
そして語られた二人のランクとサクヤ様の二つ名・・・・・・。

『夜叉姫』

・・・・・・ヤバいですって!
アレですよね、ジパング皇国で超有名な年齢性別不詳。素顔を見せない謎のSランク冒険者。

こんな・・・、こんな学生で美人さんな貴族の方が噂の『夜叉姫』---?!

「まじだぜ。野外授業で出たキマイラを一太刀で倒してた。あの場にいた多くの冒険者は皆知ってる。あのクズな冒険者、命拾いしたな」
「・・・・・・」

もうびっくりして声が出ません。

ギルマスが二人を連れて執務室に消えていくのを皆が呆然と見送り。

ハッと我に返って、最初の時よりもザワついている中、それぞれ自分の仕事に戻った。


それにしても何が楽しかったのか、ほぼ無表情なのに魔力の花を撒き散らしていたサクヤ様を愛おしそうに見つめるスオウ様。

皆、ほのぼのと見守っていたけれど。

あの二人、絶対にデキてますね!




冒険者ニックさんは57話で出た副団長と話していた人です*









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