月の至高体験

エウラ

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本編

48 皇城でお泊まり会 その弐

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スオウがサクヤを抱えて各務と共に私室を去った後。


「お小言は後にして、先に魔導具の方を済ますぞ。おいライナス、凹んでないでさっさとやれ!」
「・・・はい」

意気消沈のライナス。

「父上、しっかりして下さい。皇帝陛下でしょう! サクヤが幻滅しますよ。これ以上株を下げたいんですか?」
「イヤだ、うう、ゴメン、サクヤ」
「はいはい。とりあえず魔力を登録して身につけて。この部屋は皇族は魔法を使えるから、試しにこの中で移動してみて」

リオネルがサラッと告げたそれに皆がキョトンとする。

「え? 兄上の邸に跳ぶんじゃないの?」

「うち以外にも、お前達の私室にも跳べるように設定してあるそうだ。私室なら皇族の魔法は弾かれないし、何かあってもお互いの部屋を行き来出来れば安心だろうとサクヤがね」

それを聞いたライナスが苦しそうな顔をした。

「サクヤ・・・こんなに私達を思ってくれてたのに、私は・・・情けない」
「・・・私も最初は驚いたさ。だが、サクヤの、自分よりも他人の為にふるう力を見て、この子は優しい子だと。他人の為にこの力を手に入れたのだと思ったら、私達大人が護ってあげないと駄目だと思ったんだよ」

領地を視察するため覚えたって言っても、あの家から転移で何時でも逃げ出せたのにそれをしなかった。今でもたぶん、領地を気にしている。

あの子は心の壁を漸く壊し始めた所なんだ。
不安定で、距離感が掴めない。
皆でそっと見守ってあげないと・・・。

「だからね、きちんと自分の気持ちを言葉にしてサクヤに謝りなさい。賢い子だから、ヘンに斜め上に物事を考えてしまうんだ。しっかり言わないと伝わらないよ? 超天然だからね」

「・・・確かにそうだね。ありがとう、兄上」
「大切な兄弟がサクヤに嫌われるのは忍びないからね。義理の親になるサクヤにとっても」

その後は、魔導具を使い、問題ない事を確認した。



「それで、明日と明後日は学園も休日であろう? サクヤちゃんを皇宮うちに泊まらせたいのじゃが、義兄上、良いかな?」

皇妃様が縋るように見てくる。
皇子様方も期待の目で見つめた。
これには苦笑するリオネル。

「そうですねえ。ライナスがサクヤと和解出来たらいいでしょう。私達はサクヤが一番ですからね、サクヤがいいと言ったら外泊を認めますよ」

まあ、サクヤが嫌がるなら連れ帰るまで。
たぶん大丈夫だろうけど、スオウがなあ・・・。
まあ、いいか。

「じゃあ、サクヤの顔を見てから私も帰るよ。君、サクヤの部屋へ案内頼めるかい?」
「畏まりました。大公閣下。こちらへどうぞ」
「じゃあ、またねライナス。頑張って」
「頑張る!」



そうして案内された場所は、陛下と皇妃様のすぐ側の一室だった。

まあ、たまにしか来ないだろうサクヤを可愛がりたい気持ちも分かるが、他の皇子様方は文句を言わなかったのか?
末の姫だってまだ甘えたいだろうに。
・・・言わなかったんだろうな。

先程の懐きようを見れば、イヤでも歓迎しているのが分かる。
サクヤが珍しく戸惑っていたくらいには。


ま、サクヤを大事にしてくれるならいいんだ。


リオネルも大概親馬鹿だった。


「スオウ、サクヤの様子は?」
「父さん。落ち着いてるよ。そっちは?」
「ライナスにはしっかり言っておいた。そのうち謝罪に来るから、サクヤとしっかり話させて欲しい。後、サクヤ次第だけど、週末は休みだから、今夜泊まっていかないかって。サクヤがいいって言ったらスオウも泊まるといい」

スオウははあ、と溜息を吐いて、分かったと一言言った。

「・・・うん。穏やかな顔で安心した。じゃあ私も帰るよ」
「気を付けて」

後ろ手にヒラリと手を振ってリオネルは帰って言った。



それから少しして、サクヤは目を覚ました。

暫くぼーっと見慣れない天蓋を見つめていた。

どこだ、ここ?
俺は誰だっけ?
何をしてた?

うーん、と唸っていたら誰か来た。

「サクヤ、目が覚めた? 気分は悪くないか?・・・・・・どうした?」

その人はホッとした顔をしてから俺を覗き込んで怪訝な顔をした。

「・・・・・・誰? サクヤって、俺のこと?」
「・・・・・・覚えてないのか?」
「・・・自分の名前は分からないけど、俺は病気でほとんど寝たきり・・・髪が黒い?何故?」
「まさか、前世の記憶が・・・?」
「前世?・・・・・・ああ、俺は死んで生まれ変わったんだ? じゃあ、君は今の俺の知り合い?」
「・・・・・・婚約者だ」
「え? 男だよね?」
「ここは同性でも子が出来る世界だ」
「へえ・・・・・・はあ?!」

嘘まじ、ええ、ちょっとまてなんてブツブツ言うサクヤに前世のお前もおんなじ反応なんだな、なんて考えてから、はっとした。

サクヤに簡単に説明する。

「今のお前はサクヤという。今までのサクヤの記憶というか意識はないのか?」
「エーーー、待って。・・・夢を見てたんだ。この体の子が殻に閉じこもってた。代わりに俺が出て来た感じ?」
「・・・現実逃避しちゃったのか。・・・失敗した」
「なんかあった?」
「うん、ちょっとな・・・」
「魂は同じで体も共有してるから、哀しい気持ちだったのは分かったけど、まあ、消えた訳じゃないし、そのうち復活するよ。それまでは俺で勘弁してな」
「別にお前も引っくるめて好きだけど」

サラッと当然のように告げる。

「・・・・・・うわあ、まじか、こんな奴に好かれてるのに引っ込んじゃって、好かれてるのに自信ないのか? うああ、恥ずかしい。・・・・・・アレか、俺の前世の記憶に引き摺られてるのかなあ。諦めやすいもんなあ」

ゴメンな、サクヤと自分に言い聞かせる姿が何とも言えない。

しかし困ったな。叔父上が謝罪に来てもこのサクヤじゃあ意味が分からないし。

「とりあえず、問答無用で今日はここに泊まろう。仕方ない」
「・・・そう言えばここってどこだ?」
「オクタヴィウス帝国の皇城のお前の部屋で、お前は養子で第2皇子殿下になった。俺は皇兄の大公家次男でお前の婚約者のスオウ」
「はいい?」

情報過多!
俺の記憶は普段深層部にあって出てき難い。
混乱状態だと割と出てくるんだよなあ・・・。

でも今は、混乱してるよりかはスオウが言った『現実逃避』が一番近いな。
ここの所ずいぶん精神的に辛かったようだし。

「仕方ないから、こんなガサツだけど暫くよろしくな。スオウ」
「ああ。で、こっちは俺の侍従で乳兄弟の各務だけど、俺よりサクヤを優先するから、世話に慣れてくれ」
「りょーかい。世話はね、入院中に散々されてたから全然オッケーよ!」
「・・・ソレはお世話しがいがありますね! サクヤ様は恥ずかしがってちっともさせてくれないんです。アレとコレとああして磨きをかけて・・・・・・」

うわあ、ヤバい人?!

「各務、サクヤが引いてる」
「あっ、失礼致しました。とりあえず湯浴みを致しますか。お召しものをご用意致します」

そう言ってルンルンしそうな足取りで出て行った。

「・・・・・・何時もああなの?」
「いや、たぶん世話し放題に浮かれてる」
「・・・・・・今のサクヤに戻ったときが怖い」
「今も前もおんなじサクヤだよ。変わらない」
「・・・スオウっていいやつだな」
「そうだろう。もっと愛してくれていいんだぜ?」

ちょっと色気が・・・・・・!
ん?

「スオウと婚約者って事は、ええと、もしかして子作りするのか?」
「ぶはっ」

スオウが吹き出した。

「大丈夫?!」
「お前、意味が分かってて言ってる?!」
「どうするのかは知らない」

まーじーかー・・・。
スオウが頭を抱えた。

「その件はすでにやってる。もちろん実地で」

なんならもう何度もシてる。

なんて言われても?

「ああクソ、サクヤが思い出すまで手が出せねえ! でもこれぐらいはいいよな?」
「え、ん?」

スオウが口づけて来た。
でもすぐに離れる。

「あーもー、我慢が効かなくなるからこれ以上は無理だあ・・・」
「・・・・・・ゴメンな?」
「いいよ。サクヤが大切だからね」

そう言ってニコッと笑う顔にドキッとした。

おい、今のサクヤ。お前、こんなに愛されてるよ。早く出てこいよな。

胸の奥がほんのり暖かい気がした。






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