迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
506 / 538

498 これがノアの常識 1

しおりを挟む
「・・・・・・大賢者の養い子?」
「精霊王の義息子とは聞いていましたけど・・・・・・」
「あの───古竜って言いました?」
「・・・・・・へ?」

再び唖然としたリオラル達の言葉に俺はキョトンとした。アークが片手で顔を覆って天を仰いでいる。・・・・・・あれ?

「・・・・・・ノア、心の声がダダ漏れだったぞ」
「・・・・・・マジ?」
「マジ」

───うわぁ、ヤバい。古竜が父さんって秘密だったっけ!?
俺は慌ててアークを見た。アークはすぐに立ち直り、心得たように頷いて俺の代わりにリオラル達に説明してくれた。

「本人がうっかり暴露したから言うが、一応公式に発表されていなくてな。ここにいる全員に誓約魔法を使わせて貰う」
「・・・・・・それは決定事項なんだね。私は構わないよ。皆もいいね?」

リオラルが獣人国側の皆にそう言うと頷いてくれたので、俺は調薬室全体に更に防音魔法を重ねがけしてから誓約魔法を使った。

「ノアが精霊王の義息子なのは何人かは知っているようだが、一応俺も義息子になってる。まあそれは別にいいんだが」
「・・・・・・いいのか」
「ああ、それは些細なことだ。本題の方がヤバいからな」
「それは大賢者のことと金竜で古竜ってことですか」

アークの『別にいい発言』にリオラルがえっという顔で言い、オウランが神妙な顔でそう聞いてきた。

「そうだ。大賢者とはラグナロク・ニヴルヘイムのことを指す。言わずともここにいる者は分かるだろうが・・・・・・」
「伝説級の魔導師ウィザードだな。私も噂でしか知らないが、数多くの逸話が残っている」
「えっ? ラグ爺さん、そんなに凄かったの?」
「・・・・・・そんな方を『爺さん』呼ばわりということは、本当に・・・・・・?」

俺が思わずそう呟くと、リオラルが信じられないような目で見てきた。だって俺には偏屈で頑固だけど優しい爺さんだったから。
魔法も調薬も錬金術も凄い人だとは思ったけど、俺のたった一人の家族だった。それだけだ。

「その大賢者に育てられたから今なってる。・・・・・・常識は二の次だったらしい」
「・・・・・・なるほど。うん、それは確かにと言いたくなるな。分かった。それで?」

話を聞いたリオラル達は頭を抱えたり目を瞑って上を向いたりしている。皆、思い思いのポーズで情報を呑み込んでいるのだろう。
そんな中、リオラルがアークに続きを促す。

「それ以上にヤバいのが実の父親がってことだ」

アークが真剣な表情でそう言った。リオラル達も嘘ではないことを分かっているのだろう。真剣に聞いている。

「古竜って、存在したんだね。しかもって言ってなかった? 絶滅したって聞いてたけど・・・・・・」
「ああ、俺達竜人も今のところその古竜の父親とノアしか知らないな」
「・・・・・・ちょっと待って下さい。大賢者様って、当時は竜人の冒険者とパーティーを組んでいませんでしたか?」

ふと気付いたようにギンカがそう言って、リオラルもハッとした。ああ、うん、そこまで分かれば何となく気付くよね。

「まさかその竜人が古竜でノア殿の父親ってことか!? その繋がりで大賢者様が養い親になった?」
「・・・・・・正解」

俺が思わず苦笑するとアークも同じく苦笑して言った。

「それを知ったのがごく最近で、まあ色々と訳ありで詳しくは話せないんだが」
「それで誓約魔法って訳か。うん、私達はもとより口外する気はないし、誓約魔法を使ってくれてよかった」

情報が凄すぎて、正直聞きたくなかったと思ってるんだろうな。ごめんなさい、迂闊な俺のせいで。

「特製胃薬、あとでたくさんあげるね?」
「・・・・・・いや、うん、嬉しいが何とも言えない気持ちだな」

リオラルが苦笑した。
俺特製の胃薬は効果抜群らしいから、それで許して?
アークを見ると苦笑いで頷かれた。アークも本当にごめん。

「・・・・・・じゃあ、そういう訳でこの話はおしまいにして錬成していいかな?」
「ああ、そうだった。他が衝撃的すぎてうっかり忘れそうになってた。頼むよ」

そう言って笑いながら作業台の前に再び並ぶリオラル達を見て、俺は内心ホッとした。

だって、サラッとぶっちゃけたけどとんでもない内容だった訳で、普通はおそれたりよそよそしくなったりすると思うんだよね。
それなのに話をする前と全く変わらないでいてくれてる。

嬉しくて、何か泣きそうになって喉の奥がグッと鳴った。そのとき、俺の背をそっと撫ぜてポンポンとしてくれる、優しくて暖かくて大きな手のひらが───。

ハッとしてそっちを見ると、優しく微笑んだアークが目に入って・・・・・・

「よかったな」
「───うん」

そう言って頭を撫ぜてくれるアークに俺も微笑むと、それをリオラル達が見守るように見ていたのに気付いて気恥ずかしくなった。

「えっと、じゃあ、錬成やります!」

恥ずかしさを誤魔化すように俺は声を張り上げた。











しおりを挟む
感想 1,191

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...