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290 晩餐会は混沌(カオス)の極み 1
しおりを挟むもうじき晩餐会の時間だというので、各々、割り当てられた部屋へ入り、着替えをして玄関へ集合ということになった。
「・・・そういえば、大祖父様達って、旅装のまま食堂で寛いじゃったね。大丈夫だったのかな」
「割と豪快な性質だから気にしてないだろう。そもそも陛下が率先して食堂に向かってたし」
「それもそうか。でも楽しかった。内緒話をこっそりするのって、ドキドキワクワクなんだね。独りだったからちっとも知らなかった」
そう言ってはにかむノアが愛おしくて思わずちゅっと口付けをすると、ノアは途端に顔を赤くした。
---何時もそれ以上もやってるのに、慣れなくて初心で可愛いな。
このままだと止まらなくなりそうなので堪えたが。
今日の晩餐会に出席すれば、後は離宮で自由に食事をしても良いらしい。
歓迎の意向を示すのと、関係者の顔合わせだろう。
そういえばカフカ達も招待されているらしいが、メンタル大丈夫・・・・・・かな?
彼等は問題ないだろう。
ウチの大祖父様と比べればこのくらい・・・。
・・・うん、ギギルル兄弟にフォローを頼んでおくか・・・。
諦めの境地で挑みそうだな。
確か以前、竜王陛下と話したときに顔が引き攣っていたなぁ。
アークが頭の中でメモっていると、ノアに袖を引っ張られた。
「ねね、この衣装、おかしくない?」
「あっああ、よく似合ってる。俺とお揃いだしな」
「えへへ、嬉しいな」
上目遣いで見つめられて、内心『ぐはっ』と悶えていたが、表面は貴族仕様で澄ました顔をしながら応えた。
---ああっ、何故これから晩餐会なんだ!
ノアを今すぐこの部屋に閉じ込めて朝まで貪りたい!!
欲望ダダ漏れだったが、幸いノアは気付かず、フェンリルのヴァンに呆れた半目で見つめられた。
そのヴァンは仔狼サイズでノアに抱き上げられていた。
部屋を出るとクリカラ達も支度を終えて集まっていた。
侍従の案内で竜王陛下を先頭に王城の大広間へと移動していく。
その合間にアークは後ろを歩くギギルル兄弟に話しかけた。
「ギギ、晩餐会なんだが、ギルマス達のフォロー頼めるか?」
「---ああそうだな。良いぜ、なあルル?」
「もちろん。俺達はだいぶ慣れたけど、あの二人はさすがに緊張するよな」
「そつなく熟しそうに見えるんだけど、結構抜けてるっぽいぞ」
ニヤリと笑ってそう言うギギ。
ノアはそれを聞いてキョトンとしたあと、少し考えた。
「へえ、そうなんだ? 慌ててるところとか想像できないな」
「役職付きだと顔に出さないもんさ。昨日の魔王陛下がおかしいんだ」
「ああ・・・床に蹲って滂沱の涙・・・凄かったな」
思い出したのか、アーク達は苦笑した。
実は先ほどのお茶会で、記録媒体魔導具を再生してその時の様子をクリカラやウラノス達に見せていたので、聞こえていたらしいクリカラ達も笑いを堪えていた。
「さっきは少しだったけど、これから顔を合わせたとき、どういう反応をしたら良いのか困るよね」
「とりあえずは猫被りの状態を維持できるように触れないでやれば良いんじゃないかと」
「言えてる」
「猫が旅に出たらツッコんでやろう。面白そう!」
「ヨシ、その線でいこう!」
「・・・・・・ただの晩餐会だよね? 何かを攻略しに行くんじゃ無いよね?」
わいわいと騒がしくするアーク達の会話を耳にした侍従から魔王陛下のヘタレッぷりがバレるのはもう少し後で・・・・・・。
晩餐会の会場入り口へ到着すると、カフカとラミエルもすでに待機していたようだった。
「おう、この間振りじゃな」
クリカラが気軽に声をかけるが、カフカ達はやはり緊張気味だ。
「言っておくが、堅苦しい口上は要らんぞ」
「・・・分かりました。遠路遥々お越し頂きありがとうございます。明日以降もよろしくお願い致します」
「うむ。ひとまずは晩餐会だな。何、美味いモノを食べられてラッキーぐらいに思っておけば良い。マナーなんぞある程度出来ていれば問題ない。・・・・・・というか出来るよな?」
「・・・おそらくは・・・。だいぶ縁遠いですけれど」
「なら、体が覚えているから大丈夫だ」
そう言ってはっはっはとカフカの背中をバシバシと叩くから、カフカが思わずつんのめりそうになって、ラミエルが咄嗟に抱きとめる。
ソレを見て微笑ましそうに笑うクリカラ。
「お主らも番い同士じゃったな。仲が良いのう。よきよき」
「大祖父様、もっと優しく接しないと。カフカさんも細いんだから。ごめんなさい、カフカさん、ラミエルさん」
「いえ、大丈夫です」
「・・・カフカ、痛くない?」
「大丈夫だよ、ラミエル。私はこう見えても頑丈だから」
「どれ、緊張も解れたようだし、行くとするかの」
どうやらカフカ達の緊張を解くためだったようだ。
「だからといって、他所様の番い様にむやみに触れてはダメだろう」
リュウギが思わず乳兄弟の立場で苦言を呈するとバツが悪そうに頭をポリポリかいてカフカ達にスマンと謝る。
それに慌てたカフカ達をまた宥めて、と晩餐会が始まる前にすでにこの場は混沌としていた。
「---竜王陛下達、まだかな? 何かあったかな?!」
晩餐会会場では、すでに猫が逃げかけている魔王陛下が不安そうにラヴィアを見ていた。
「・・・大丈夫ですよ(たぶん)」
「ねえ、今何か言った?」
「何も?」
「えええ・・・・・・はぁ、胃が痛い・・・食欲が・・・」
「貴方が食べないと始まりませんけど?」
「ううう・・・ラヴィアが辛辣過ぎる・・・」
などとボソボソ話して待っているのだった。
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