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アルクトゥルスの過去と凍った心
しおりを挟むエミルが落ち着いた頃、アルクも薬草と魔石を出し終わったので査定して貰う。
「あああ・・・! なんて素晴らしい! 今日は最高に幸運な日だ・・・・・・!」
「---あー、急いでないんで、ゆっくりで良いよ。何なら明日、また来るから」
「え、あっ良いんですか?! じゃあ明日の朝には金額を用意しておきます! これ、控えです!」
「ありがとう、じゃあ・・・セイン、行こうか」
エミルが再び興奮状態になったので、明日の約束をしてギルドをあとにした。
「・・・びっくりしたろ? エミルは素材が好きすぎて、質の良い物や珍しい物を見るとああやって興奮しちゃうんだってさ。だからこそ、まがい物や低品質の物をキチンと見分けられる実力があるんだけど・・・初見では俺もビビったよ」
セインが苦笑しながら話してくれた。
確かに俺もちょっと引いたもんな。
「あそこまででは無いけど、興奮されたのは初めてじゃ無いから、まあ、慣れてるかな」
「へえ、そうなんだ? そう言えば高品質の物をあんなに持ってたもんな。採取に何かコツでもあるのか?」
不思議そうに聞いてくるセインに、俺は緩く首を振る。
「特に何も。まあ、薬草なんかは自然と見分けがつくかな? 魔石は、まあ、運だろうけど」
「ふーん、凄いね。もしかしてめちゃくちゃ採取して覚えたとか?」
「あー・・・当たらずとも遠からず、かな・・・」
不意に思い出す両親の顔・・・。
俺の顔が曇ったのを見て、セインが慌てた。
「ごめん、イヤなこと思い出させた」
「・・・いや、まあ・・・うん。あのさ、昼飯まだなんだ、何処か美味いところ知ってるか?」
「え、あー、それなら焼肉亭って食事処が安くて肉のボリュームあって美味いぞ」
「焼肉亭って・・・まんま、肉料理?」
ぷっと吹き出すと、気まずい空気が霧散した。
セインがホッとして続ける。
「大丈夫だ。メインは肉だがそれ以外も美味いものがたくさんある。じゃあそこで食べよう」
「ああ、案内頼むよ」
クスリと笑うと、セインの骨張った大きな掌がアルクの真っ白い髪を撫ぜた。
ハッとしてアルクは大きな紅い瞳をセインに向けた。
「ん?」
にっこりして首を傾げるセインに、何でもないと首を振る。
そうして少し行ったところに、件の焼肉亭があった。
「いらっしゃい! お好きな席にどーぞー!」
昼前なのに店内は客で溢れていた。
奥の方にちょうど二人用の席が空いていたのでそこに座る。
「あら、セインじゃないか。今日は別嬪さん連れて来て、デートかい?」
注文を取りに来た女将さんがニヤニヤ笑って言った。
別嬪さん?って、誰だろうか・・・。
アルクが疑問符を浮かべて首を傾げた。
セインは女将さんの言葉に苦笑して、日替わり定食を二つ頼んだ。
「俺、注文しちゃったけど良かった?」
「料理が良く分からないから助かるよ」
「絶対、美味いから!」
「期待しておく。---あのさ、さっきの、薬草云々の事なんだけど・・・」
アルクが言い辛そうに口を開いたので、セインは慌てて言った。
「言いたくないなら良いんだよ。別に他意があるわけじゃ無くって・・・」
「うん。それは分かるよ。大丈夫、ちょっと気持ちいい話じゃ無いから、応えにくかっただけで」
「・・・・・・俺が聞いても良いの?」
「うん。何でかな・・・セインなら何も言わずに聞いてくれそうだなって思って」
「---よし、なら聞こう。聞くよ! さあ、どんと来い!」
「ふふっ、セイン、面白い」
それから、料理を食べながらアルクは簡単に自分の事を話した。
5歳の頃に、商人だった両親と買い付けに行った途中で魔物に襲われて自分以外は全滅。
親類はいたが、誰も引き取らずに教会の孤児院で過ごしていた事。
15歳で冒険者登録をして孤児院を出て、クエストを熟しながらランクを上げて旅をしている事など。
親が商人だったから、赤ん坊の頃から薬草や素材を良く目にしていて目利きが養われたんだろうということを話した。
「俺の上に両親が覆い被さって魔物から護ってくれてたって・・・遺体の損傷は激しかったけど、俺に必死にしがみついていたらしい。その時にさ、俺・・・・・・天狼に会ったんだ」
「---天狼?」
俺の声は震えていたと思う。
セインの戸惑う声が聞こえた。
「・・・天狼って、伝説の神獣だよな。・・・・・・会った?」
「---うん。魔物から助けてくれたんだ。他の人が駆けつける頃にいなくなっちゃったけど、俺、覚えてる・・・・・・でも、そう言ったら皆、妄想だって、怖い目にあっておかしくなったんだって・・・・・・だから、その・・・親戚連中は気味悪がって、俺を引き取らなかったし、孤児院でも遠巻きにされてて」
何時も孤独だった。
「・・・・・・アルク」
「俺、俺さ、髪は元々麦わら色で、くすんだ金色だったんだ。でも両親が死んだとき、真っ白くなっちゃった。瞳も、元は金色に近かったのに紅くなってた。周りはショックで色が変わったんだろうって言うけど・・・・・・この見た目でも嫌われててさ・・・」
だから、傷付かないように常に一線を引いて、最低限の関わりで人当たり良く穏やかに笑って接した。
ここにはもう、俺の過去を知る者はいないのに、どうしても止められなかった。
こんな話、きっとセインだって気味悪がって離れて行くに決まってる。
でも、セインには聞いて欲しかった。
ついさっき会ったばかりなのに、俺の髪を撫ぜた手が、あの時の、小さかった俺の頭を撫ぜる掌に似ていて・・・。
涙が出そうだ。
「・・・・・・そっか。苦労したんだな」
ポツリとそういって俺の髪を撫ぜた。
「・・・セイン? 気持ち悪く無いの?」
「何故? お前はお前が見て感じた物を信じれば良い。ソレを否定する術を俺は持たない。だから気にすることは無いよ」
そういって優しく撫ぜてくれた。
誰かに肯定されたのなんて初めてだ。
・・・・・・俺は、堪えきれずに一筋の涙を零した。
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