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優しい手のひら

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『あのね、あのね。ぼく、おおきくなったら、しりうすのおよめさんになる!』

『---そうか。待ってるよ』

そういって麦色の僕の髪を梳きながら優しく頭を撫でてくれた大きなを俺は覚えてる。

アレは確かに夢じゃなかった。




---唐突に意識が浮上して、一瞬、どこにいるのか混乱した。

ここは街道から少し離れた森の中。
野営のためにテントを張って眠っていたのだった。

「---夢か・・・」

どうやら夢を見ていたようだ。
いや、夢の中の出来事は夢じゃなかったのだが。

「夜明けだ。起きる頃合いだな」

熾火を使ってスープを温め、堅焼きパンをふやかしながら食べると、火の始末をしてテントを片付け、マジックバッグに仕舞う。

マントを羽織り直して、野営地をあとにした。
目指すは次の街。

今日はあと半日も歩けば着くだろう。
急ぐ旅ではないが、青年にはある目的がある。
その為に冒険者になり、大陸中を旅してまわっているのだ。

「さぁて、行くか」

何処かにいるだろうシリウスを探して・・・。



「はい、次の人ー!」

自分の番になって呼ばれたので進んでいくと、入街審査の門衛が待ち構えていた。

「身分証明になる物か、無ければ水晶に触れて入街税を銀貨1枚払って貰う。ギルドで登録すれば、出るときにお金は戻るから言ってくれ」
「ああ、ありがとう。大丈夫、ギルドタグを持ってるよ」

そういってタグを見せると、本物かどうか魔導具の水晶で確認してから返してくれた。

「ありがとう。確認した。ようこそサインの街へ!」
「どうも。ああ、おすすめの宿はあるかな?」
「それならここから東に向かった先にある『牧場亭』に行くと良い。俺の甥っ子が経営してるんだ。門衛のロベルトからって言えばサービスしてくれるよ!」
「---サンキュ。行ってみるよ」

40代と思われる厳つい顔の門衛が他の人にも聞かれるたびにそう言っていた。
商売上手だな。

とりあえず宿の確保と、ギルドに顔出しだな。

少し歩くと、見えてきた宿屋の看板が確かに『牧場亭』となっている。

「・・・すみません、門衛のロベルトさんに紹介されたんだけど、部屋、空いてる?」
「はいはーい! 叔父さんから? 部屋はあるよ!」

受付に顔を出した30歳くらいの男性が甥っ子らしい。
言われてみればちょっと厳つい顔が似ているかも。

「じゃあ、とりあえず1週間、大丈夫かな?」
「はい、全然オッケーです! 前払いになりますけど、一泊素泊まりで銀貨2枚、朝と晩の食事はここで食べられるけど、その都度、銅貨3枚の支払いになります」
「安いね」

普通に外食したら銅貨5枚はかかるな。

「代わりにメニューは選べないんです。その時の日替わりで。あとお酒はまた別料金になります。叔父さんの紹介だから、1週間で銀貨14枚のところを12枚にまけときますね! 金貨1枚と銀貨2枚です」
「おお、そんなに引いて良いの? 嬉しいな。じゃあソレで。お金はタグから引いといて」

そういってタグを魔導具の水晶に翳すと残金から引かれた。

「ありがとうございます! 宿帳に記入を・・・します?」
「ああ大丈夫、書けるよ」

そういってペンを受け取って記帳した。
冒険者の中には字は読めても書けない人も多いから、宿などでは従業員が書くことも多い。

「ありがとうございます。えっと、アルクトゥルスさん?」
「ああ、呼びづらいからアルクで良いよ」

アルクトゥルスはそういって笑った。

その後、部屋を案内して貰い、ギルドに行くことを告げてから一旦宿をあとにした。



ギルドは宿からほど近い場所だった。

一歩中に入ると、昼前という時間帯だからか、人気が無く、閑散としていた。

一通り中を見渡して、クエストボードを見つけて近付く。
ここではどんな依頼が多いのだろう。
その傾向で自分に向いた依頼が多いかどうかが分かる。

俺の目的は金を稼ぐ事じゃ無い。
だから合わない依頼を無理に受けるつもりはないのだ。

---討伐系が結構多いのかな。
それとも受けられるランクの冒険者が少ないのか・・・?

ザッと見た感じ、A、Bランクの討伐依頼が残っている。

ジッとクエストボードを見つめていた俺を不審に思ったのか、声をかけてきた男がいた。

「やあ、この街は初めてかい?」
「・・・ああ、さっき着いたばかりなんだ」

俺よりも年上、20代後半くらいか?
襟足が長めの銀髪に紫曈の、着痩せするタイプなのか、細い見た目で背が俺よりも頭一つ分高い男だ。

俺だって170cmはあるのに、羨ましい。

見ると腰に小振りな剣を二つ佩いている。
胸当てやローブも質の良いモノだ。

上位ランクの冒険者と見た。

「俺はセイリオスという。セインと呼んでくれ。Aランクだ。アンタは?」
「アルクトゥルスだ。アルクで良い。俺もAランクだ」

やはり上位だったが、おそらくSでもおかしくは無いレベルだな。
俺よりもよほど強いと思われる。

「そうなんだ。宿は何処かに取った?」

見た目クールなのに話すと人懐っこい感じだな。
色合いと身長が近寄りがたくさせるのか・・・。

「ああ、牧場亭を。門衛に薦められたんで」
「あのおっさん、上手いことやるよな! 俺もそこに泊まってるんだ。そうだ、暇なら街を案内するぜ?」
「・・・・・・そうか? なら頼むかな。少し買い取りに出すから待ってくれるか?」
「もちろん。付き合うよ、買い取りカウンターはこっちだ」

そういって案内してくれたセインはここに来て長いのか、ギルド職員とずいぶん親しそうだった。

「エミル、彼が買い取り希望だって。アルク、彼はこのカウンターの主でエミルって言うんだ。買い取りの査定は厳しいけど、キチンと仕事してくれるから安心して」

そう紹介されたギルド職員は小柄で茶髪に薄い茶目の可愛い系の男の人だった。

「ちょっと、セイリオスさん、ひと言多い。ごめんなさい、いらっしゃいませ。買い取り希望ですか? こちらに出して下さい」

苦笑しながら俺に声をかけてきた。

「ああ、俺はアルクトゥルスだ。アルクで良い。色々あるんだけど、どういう種類のが欲しいんだ? 希望があればソレを優先させるよ」
「え、本当ですか? それでしたら回復薬系の薬草とか、後は魔石とかってあります?」

目を輝かせて遠慮なく指定してくる様子に笑って、マジックバッグから幾つか取り出すとさらに瞳を輝かせてきた。

「凄い! こんなに品質が良いのなんて久しぶり! あの、まだあります?!」
「ああ、腐るほどあるけど、どのくらい欲しいの?」

エミルの勢いに押されてちょっと引きながら応える。

「ええと、薬草は10本を1束で50、あればもっと欲しいです! 魔石はどのくらい出せますか?!」
「---ええと、その品質だと50・・・はイケるかな? もう少し質が落ちても良いなら100は大丈夫か」
「100!! マジですか?! 是非!! ヒャッホー!」

・・・興奮のためか、被せ気味に叫んでいた。
言葉が乱れてちょっとおかしくなっている。
大丈夫だろうか・・・?

チラとセインを見ると、苦笑して頷いている。
・・・うん、何時ものことなんだろうな。

他の職員に宥められているエミルを横目に、薬草100束と魔石100個を黙々とカウンターの買い取り用のケースに入れていった。







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