1 / 11
優しい手のひら
しおりを挟む『あのね、あのね。ぼく、おおきくなったら、しりうすのおよめさんになる!』
『---そうか。待ってるよ』
そういって麦色の僕の髪を梳きながら優しく頭を撫でてくれた大きな手を俺は覚えてる。
アレは確かに夢じゃなかった。
---唐突に意識が浮上して、一瞬、どこにいるのか混乱した。
ここは街道から少し離れた森の中。
野営のためにテントを張って眠っていたのだった。
「---夢か・・・」
どうやら夢を見ていたようだ。
いや、夢の中の出来事は夢じゃなかったのだが。
「夜明けだ。起きる頃合いだな」
熾火を使ってスープを温め、堅焼きパンをふやかしながら食べると、火の始末をしてテントを片付け、マジックバッグに仕舞う。
マントを羽織り直して、野営地をあとにした。
目指すは次の街。
今日はあと半日も歩けば着くだろう。
急ぐ旅ではないが、青年にはある目的がある。
その為に冒険者になり、大陸中を旅してまわっているのだ。
「さぁて、行くか」
何処かにいるだろうシリウスを探して・・・。
「はい、次の人ー!」
自分の番になって呼ばれたので進んでいくと、入街審査の門衛が待ち構えていた。
「身分証明になる物か、無ければ水晶に触れて入街税を銀貨1枚払って貰う。ギルドで登録すれば、出るときにお金は戻るから言ってくれ」
「ああ、ありがとう。大丈夫、ギルドタグを持ってるよ」
そういってタグを見せると、本物かどうか魔導具の水晶で確認してから返してくれた。
「ありがとう。確認した。ようこそサインの街へ!」
「どうも。ああ、おすすめの宿はあるかな?」
「それならここから東に向かった先にある『牧場亭』に行くと良い。俺の甥っ子が経営してるんだ。門衛のロベルトからって言えばサービスしてくれるよ!」
「---サンキュ。行ってみるよ」
40代と思われる厳つい顔の門衛が他の人にも聞かれるたびにそう言っていた。
商売上手だな。
とりあえず宿の確保と、ギルドに顔出しだな。
少し歩くと、見えてきた宿屋の看板が確かに『牧場亭』となっている。
「・・・すみません、門衛のロベルトさんに紹介されたんだけど、部屋、空いてる?」
「はいはーい! 叔父さんから? 部屋はあるよ!」
受付に顔を出した30歳くらいの男性が甥っ子らしい。
言われてみればちょっと厳つい顔が似ているかも。
「じゃあ、とりあえず1週間、大丈夫かな?」
「はい、全然オッケーです! 前払いになりますけど、一泊素泊まりで銀貨2枚、朝と晩の食事はここで食べられるけど、その都度、銅貨3枚の支払いになります」
「安いね」
普通に外食したら銅貨5枚はかかるな。
「代わりにメニューは選べないんです。その時の日替わりで。あとお酒はまた別料金になります。叔父さんの紹介だから、1週間で銀貨14枚のところを12枚にまけときますね! 金貨1枚と銀貨2枚です」
「おお、そんなに引いて良いの? 嬉しいな。じゃあソレで。お金はタグから引いといて」
そういってタグを魔導具の水晶に翳すと残金から引かれた。
「ありがとうございます! 宿帳に記入を・・・します?」
「ああ大丈夫、書けるよ」
そういってペンを受け取って記帳した。
冒険者の中には字は読めても書けない人も多いから、宿などでは従業員が書くことも多い。
「ありがとうございます。えっと、アルクトゥルスさん?」
「ああ、呼びづらいからアルクで良いよ」
アルクトゥルスはそういって笑った。
その後、部屋を案内して貰い、ギルドに行くことを告げてから一旦宿をあとにした。
ギルドは宿からほど近い場所だった。
一歩中に入ると、昼前という時間帯だからか、人気が無く、閑散としていた。
一通り中を見渡して、クエストボードを見つけて近付く。
ここではどんな依頼が多いのだろう。
その傾向で自分に向いた依頼が多いかどうかが分かる。
俺の目的は金を稼ぐ事じゃ無い。
だから合わない依頼を無理に受けるつもりはないのだ。
---討伐系が結構多いのかな。
それとも受けられるランクの冒険者が少ないのか・・・?
ザッと見た感じ、A、Bランクの討伐依頼が残っている。
ジッとクエストボードを見つめていた俺を不審に思ったのか、声をかけてきた男がいた。
「やあ、この街は初めてかい?」
「・・・ああ、さっき着いたばかりなんだ」
俺よりも年上、20代後半くらいか?
襟足が長めの銀髪に紫曈の、着痩せするタイプなのか、細い見た目で背が俺よりも頭一つ分高い男だ。
俺だって170cmはあるのに、羨ましい。
見ると腰に小振りな剣を二つ佩いている。
胸当てやローブも質の良いモノだ。
上位ランクの冒険者と見た。
「俺はセイリオスという。セインと呼んでくれ。Aランクだ。アンタは?」
「アルクトゥルスだ。アルクで良い。俺もAランクだ」
やはり上位だったが、おそらくSでもおかしくは無いレベルだな。
俺よりもよほど強いと思われる。
「そうなんだ。宿は何処かに取った?」
見た目クールなのに話すと人懐っこい感じだな。
色合いと身長が近寄りがたくさせるのか・・・。
「ああ、牧場亭を。門衛に薦められたんで」
「あのおっさん、上手いことやるよな! 俺もそこに泊まってるんだ。そうだ、暇なら街を案内するぜ?」
「・・・・・・そうか? なら頼むかな。少し買い取りに出すから待ってくれるか?」
「もちろん。付き合うよ、買い取りカウンターはこっちだ」
そういって案内してくれたセインはここに来て長いのか、ギルド職員とずいぶん親しそうだった。
「エミル、彼が買い取り希望だって。アルク、彼はこのカウンターの主でエミルって言うんだ。買い取りの査定は厳しいけど、キチンと仕事してくれるから安心して」
そう紹介されたギルド職員は小柄で茶髪に薄い茶目の可愛い系の男の人だった。
「ちょっと、セイリオスさん、ひと言多い。ごめんなさい、いらっしゃいませ。買い取り希望ですか? こちらに出して下さい」
苦笑しながら俺に声をかけてきた。
「ああ、俺はアルクトゥルスだ。アルクで良い。色々あるんだけど、どういう種類のが欲しいんだ? 希望があればソレを優先させるよ」
「え、本当ですか? それでしたら回復薬系の薬草とか、後は魔石とかってあります?」
目を輝かせて遠慮なく指定してくる様子に笑って、マジックバッグから幾つか取り出すとさらに瞳を輝かせてきた。
「凄い! こんなに品質が良いのなんて久しぶり! あの、まだあります?!」
「ああ、腐るほどあるけど、どのくらい欲しいの?」
エミルの勢いに押されてちょっと引きながら応える。
「ええと、薬草は10本を1束で50、あればもっと欲しいです! 魔石はどのくらい出せますか?!」
「---ええと、その品質だと50・・・はイケるかな? もう少し質が落ちても良いなら100は大丈夫か」
「100!! マジですか?! 是非!! ヒャッホー!」
・・・興奮のためか、被せ気味に叫んでいた。
言葉が乱れてちょっとおかしくなっている。
大丈夫だろうか・・・?
チラとセインを見ると、苦笑して頷いている。
・・・うん、何時ものことなんだろうな。
他の職員に宥められているエミルを横目に、薬草100束と魔石100個を黙々とカウンターの買い取り用のケースに入れていった。
35
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説

王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります

追放系治癒術師は今日も無能
リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。
追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる