上 下
181 / 181
番外編

銀狼のミるユメ

しおりを挟む
 銀狼は夢を見ていた。昔懐かしい夢だ。



「あなたの目は青空の色なのね。古代の言葉でルフトゥと言うらしいわ。だからそう呼んでもいいかしら?」

 初対面の幼い少女は、自分を見るなり勝手にあだ名をつけてきた。

 当代唯一の王女で、光の聖女になる可能性のある少女。彼女はまだ10歳になったばかりだった。

 ルフトゥと呼ばれた銀狼の青年は、そんな小さな少女をジロリと見下ろした。通常、人間以外の種族は許しを受けない限り、名を呼ぶ事は無い。あだ名をつける行為は、下手したら相手を縛る行為。

 一言で言って無礼な事だった。

 だが、目の前の少女はキラキラした純粋な視線を向けて来ていた。そして、あなたの目はとてもキレイね!と興奮していた。

 それがとても…面白かった。

「フッ、好きにしろ」

 それが東の銀狼の青年。後に聖獣と呼ばれるルフトゥと光の聖女の出会い。



◇◇◇



 グルル

 獣の呻き声が聞こえ、銀狼はうっすら目を開けた。

 ここは東の銀狼の洞。薄暗い巣の一つで彼は寝ていた。

 ヨロヨロと呻き声のした方に、力の入らない四つ足で向かう。

 洞の広間にあたる場所で、再びその呻き声が聞こえた。

「ガ…ソ…ル」

 うまく声が出ない。銀狼の声に、ガソルと呼ばれた獣はこちらを見た。その目は真っ黒に濁っていた。艶やかな筈の銀の毛並みも、汚れ薄黒くなっている。

 あぁ…とうとう、ガソルも闇堕ちしてしまった。

 それがまた銀狼の心を蝕む。



 聖女と勇者が消え、魔王の支配下になった世界は少しずつ瘴気に蝕まれた。初めに魔王が現れた北の地が。次に女神の加護が消えた人間の土地が。恐らく西ももう駄目だろう。

 東の土地は聖獣と呼ばれた彼が、長い間聖気を張り守り続けていたがー。

 彼の番が寿命で死んだ頃から、少しずつ、彼の聖気は衰え始めた。正確に言えば、それまでかろうじて保っていた気力が弱まり始めたのだ。

 その後は、少しずつ東の森にも瘴気が入り始め、弱い動物が数を減らし、銀狼達の闇堕ちも始まった。

 かつて自分を相棒と呼んだ聖女はもういない。
 魔王を封印できる者はいない。
 だけどー。

 もしいつか、再び聖女が現れたら今度こそ守り抜く。今ではその決意だけが彼を支えていた。

 ヨロヨロと銀狼は水場に向かった。近頃では水も食事も喉を通らなくなった。生きるにはせめて水だけでも口にしなければ。

 水に顔を近づけた銀狼は動きを止めた。

 そこには薄黒い毛並みに、目が濁ったケモノが映っていた。

「目ガ…」

 トウトウ、オレもヤミ堕ちガー。



◇◇◇



 クンクン。
 懐かしい匂いにその魔獣は鼻を動かした。

 イイ…ニオイ

 遥か昔に理性も意識も無くした筈の魔獣は、久しぶり嗅ぐその匂いに反応した。

 それは本能だった。闇堕ちした魔獣の魂に刻まれた匂いが彼を呼んでる様だった。

 匂いの元は木の下。

 魔獣が休んでいた木の下に人影が見えた。

 そして、魔獣は運命に巡り合うー。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ゆ
2024.03.21

初感想失礼します!お話がどタイプすぎて一気に読んじゃいました…。楽しみに更新待ってます( ꈍᴗꈍ)

秋空花林
2024.03.21 秋空花林

感想ありがとうございました。
その様に仰って頂けて嬉しいです。
この感想を支えに最後までがんばりたいと思います(*^^*)

解除

あなたにおすすめの小説

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶
BL
幼い頃はその美貌で誰からも愛されていた主人公は、顔半分に大きな傷をおってしまう。それから彼の人生は逆転した。愛してくれていた親からは虐げられ、人の目が気になり外に出ることが怖くなった。そんな時、王太子様が婚約者候補を探しているため年齢の合う者は王宮まで来るようにという御触書が全貴族の元へと送られてきた。主人公の双子の妹もその対象だったが行きたくないと駄々をこね…… ※本編完結済みです ※ハピエン確定していますので安心してお読みください✨ ※途中辛い場面など多々あります ※NL表現が含まれます ※ストーリー重視&シリアス展開が序盤続きます

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される

志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。 帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。 だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。 なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。 そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。 かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。