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ヒトリデクエバ
しおりを挟む――トントントントントンッ!
急いで夕飯を作らないと。
俺が大根をせん切りにしていると、いつもはテレビを見たり、何をしているかは知らないけれど、自分の部屋に籠っている紅葉が、じっと俺の包丁さばきを恨めしそうにただ見ている。
まあ、理由は言われなても分かっているが。
そろそろなんか言ってくれ。
怖いわ。
俺が横目で視線を流すと、同じタイミングで紅葉も俺に目を合わせ、ゴクンと喉を鳴らせ、
「さっきの話の続きだけど……ちげーよってどういう事? みどりちゃんと居たんじゃないの? 最近、ホラ、あんまり一緒にいること見てないし……。そろそろ仲直りしたんじゃ……」
「そのままの意味。――西条は関係ない」
そう言ってやり過ごそうとしたが、紅葉はまだ納得してないようだ。
少し、怒ったような声で
「……西条は、って事は他の誰かといたことは事実なんだ。……誰?」
「言わねぇよ」
不満げに口を尖らせ、俺の口を割らせようとしてくるが、そんなのは俺には無意味だ。
大体、俺は皇と付き合う気などさらさらないわけで、既に一度丁寧に断っている。
終わった話だ。
紅葉の口の堅さは経験的に結構固いのは知っているけど、万が一ということもある。
黙っておくに限る。
……って思ってんだが、コレが紅葉のナニかに触れてしまったようだ。
紅葉はこれ以上俺が話さない事を察するや、軽く舌打ちをして、
「――この浮気者! お兄のバカ! どうせナンパでもしてたんでしょ!」
「は、はぁ? 俺が? 浮気? 誰に対して浮気するんだよ! 俺、彼女いないからな? ナンパもするわけないだろ!」
「本当?」
紅葉が疑いの目で俺を見てくるが――。
ナンパ?
そんな高等テクニックが俺に出来るわけないだろ。
冗談も休み休みに言ってくれ。
ナンパなんかできていたら、キスの一つや二つされたぐらいで…………あんなに気持ちがざわつくかよ。
……キスぐらいで。
キス、ぐらいで。
――悲しいかな。
俺には刺激的過ぎた。
頭から皇の事が離れない。
と、その時。
じぃとこちらを観察し続ける紅葉とまた目が合った。
(やべ)
顔に表れていた。
俺はすぐに元の表情を無理矢理作ったけど、時すでに遅し。
「私、今日コンビニで済ませるから!」
紅葉は、腹の虫が治まらないとでも言うように、床を大きく踏み鳴らして、外に出て行こうとした。
「ちょ、それじゃこれどうするんだよ。もう二人分作ってるんだぞ?」
慌てて、紅葉を呼び止めるが、
「ヒトリデクエバ」
まるでゴミを見る目つきで、そう言い残して紅葉は出て行った。
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