7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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三人目の元婚約者は、隣国の王弟殿下

第54話

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 だが、シキに言葉を返したのは国王だった。


「深い想いをお持ちのようですね、殿下の婚約者は。素晴らしい方ではないですか」

「……お、恐れ入ります」

「どうでしょう、皇女殿下。この国の者たちのために、一曲踊ってはいただけないでしょうか?」

「わたくしたちが? 良いのですか?」

「もちろんです。帝国の洗練されたダンスを見たいと思っている貴族は多いのですよ」


 国王はにこにこと笑みを浮かべているが、少し冷や汗をかいていた。宗主国の皇女に対して王妃の物言いがまずいことは、ちゃんと理解しているらしい。
 気持ちを立て直したクリスティーナは、ここが引き際だと判断した。
 この国のトップである国王がまともな人間であることが、この国を保ち、王族の品格を守っているのだと、クリスティーナは見ている。


「せっかく陛下がおっしゃってくださっているものね。では一曲躍らせていただきますわ」


 ちらりと視線をやればシキがうなづき、エスコートをしてくれる。国王夫妻に軽く会釈をしてその場を離れた。

 シキによってダンスフロアへと誘われると、絶妙なタイミングで楽団の演奏が帝国調の曲に変わる。
 ダンスの輪の中に入れば場所が自然と空き、シキのリードでクリスティーナはステップを踏んだ。
 優雅な二人のダンスは、ドルレアンの貴族たちの目を釘付けにした。


「さすがはティナですね。美しくて流れるように踊る。リードのし甲斐があります」

「あなたこそ。軍人なのに踊りやすいわ。さすが公爵令息といったところかしら」

「お褒めにあずかり光栄です。婚約者殿」

「でも、少しやりすぎでなくて?」

「何がですか?」


 そらとぼけたように言うのに、わざと顔を近づけてくるシキ。
 それに対して、クリスティーナは目元を赤く染め、小声で抗議した。


「…もう、そういうところよ」

「でも、効果はあったでしょう?」


 クリスティーナは唇を尖らせた。
 結果的にユメノを黙らせたのは、恥ずかしかったがシキの行為だ。
 今まで恋人のような触れあいをしたことがなかったから、心臓が飛び出るかと思った。あの場面で叫ばなかった自分の精神力をほめてあげたいくらい。
 でも、あの時見せつけておかなければ、ユメノは止まらなかっただろう。


「ひとまず切り抜けましたね」

「そうね。これで諦めてくれればいいのだけれど」

「国王陛下が読める方で良かったです」

「王妃の手綱が握り切れていないことは問題だけど、あの方はまともな方よ。今のところは大きな失点がないから、お兄様も静観しているわ」

「今のところは、ね」

「ええ。今のところは」


 曲が止み、クリスティーナたちが優雅に礼をすると、大きな拍手が沸き起こった。
 宗主国への忖度が見える白々しい拍手に、クリスティーナは冷めた目でその場を後にした。


「ティナ、疲れたでしょう。何か飲み物を持ってきましょうか」

 シキに一目のつきにくい場所へエスコートされ、ソファへ座るように促された。


「ありがとう。お願いするわ」


 シキの後姿を見ながら、ふうと溜息を吐いた。
 軍人であるクリスティーナは、あまりこういった場所が好きではない。
 皇女である限り避けられないので、場数だけはこなしているに過ぎない。
 早く帰りたい、そう思ってしまうのは致し方ない。


「あの、皇女殿下でいらっしゃいますか?」


 声をかけられ視線を上げれば、そこに着飾った三人の令嬢が立っていた。





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