【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
220 / 302
思惑と誤算

17-13

しおりを挟む
「目の…前で…?」
「ああ。皆で一緒に別荘を出たとこだったんだ。お前んちの車が先に出て…。それで、あの坂道で事故に遭った」

初めて聞く話に、冬樹は瞳を大きく見開いて力の話を聞いていたが、
「そう、だったのか…」
そう小さく呟くと、冬樹は再びトレーの上へと視線を落として目を伏せてしまった。


自分は、あの現場に足を運ぶのにさえ八年掛かった。
現実を認めたくなくて。認められなくて…。
でも…。

(事故の瞬間を目の前で見てしまった力は、現実を認めるしかなくて、きっともっと辛い思いを抱えてきたんだろうな…)

それは、夏樹への想いどうこうじゃない。
まだ、幼い小学生が知り合いの事故の瞬間を目の当たりにして、平静でいられる訳がないのだから。

初めて力の心の痛みを垣間見たような気がして、冬樹は胸が締め付けられる思いがした。

「俺の目には、あの時の光景が焼き付いてしまっているんだ。だから、本当は俺だって、夏樹が生きていてくれれば良いと思っていたいけど…お前のように想い続けることは実際難しかったかな…」
珍しく素直に話す力の本音に、三人は静かに耳を傾けていた。
「でも、想い続けることは難しくても、忘れられないんだ。夏樹程の女は探してもなかなかいないんだよ」

「………」

思わずシリアスだったのに、再び会話の方向性が変わって来たような気がして、冬樹はチラリと横目で力を見遣ると、気を取り直すように止まっていた手を動かして再び食事を始めた。
「…っていうか。二人にそこまで言わせちゃう夏樹ちゃんっていったいどんな娘なのよっ。超!気になっちゃうんだけどっ」
長瀬が、暗くなってしまった場を盛り上げるように明るくおどけて言った。



(ここにいるけどな…)

雅耶は、心の中で呟きながらその本人へと視線を移した。
冬樹は事故の話を聞いていた時、少し泣きそうな顔になったが、今は何故か黙々と食事に没頭しているようだった。
そんな様子を見ていて、思わずクスッ…と笑みがこぼれてしまい、雅耶は自身の拳で口元を隠した。

「でも、神岡さぁ…。お前さっき夏樹ちゃんを嫁に貰うつもりだったって言ってたじゃん?本人と約束でもしてたのか?」
長瀬がもっともな質問を口にする。
雅耶も気になっていたことだったので、力の返答を静かに待っていた。
だが、力は調子に乗ったのかとんでもないことを口走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

たかなしポン太
青春
【第7回カクヨムコンテスト中間選考通過作品】  本編完結しました! 「どうして連絡をよこさなかった?」 「……いろいろあったのよ」 「いろいろ?」 「そう。いろいろ……」 「……そうか」 ◆◆◆ 俺様でイメケンボッチの社長御曹司、宝生秀一。 家が貧しいけれど頭脳明晰で心優しいヒロイン、月島華恋。 同じ高校のクラスメートであるにもかかわらず、話したことすらなかった二人。 ところが……図書館での偶然の出会いから、二人の運命の歯車が回り始める。 ボッチだった秀一は華恋と時間を過ごしながら、少しずつ自分の世界が広がっていく。 そして華恋も秀一の意外な一面に心を許しながら、少しずつ彼に惹かれていった。 しかし……二人の先には、思いがけない大きな障壁が待ち受けていた。 キャラメルから始まる、素直になれない二人の身分差ラブコメディーです! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...