高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「順平さん!? 何を――」
「ありがとうね」

 サヤの頭上にポンと手を置いた。初めて触れる髪は、柔らかくて妙にくすぐったい。

「……サヤ、今までの不幸は全部お前に守ってもらっていた。だから……この、最後の不幸は俺自身で振り払うよ」
「ですがっ!」
「それにさ、普段偉そうなことばっか言っておいて肝心な時に何もできないのは、格好悪いでしょ?」

 俺もサヤの真似をして、上半身だけ振り返った不安げな顔にニッと笑いかけてやった。

「男にも、二言はないよ。……俺を信じて」
「…………はい。順平さんを、信じます」

 身体全体をこっちに向けて、しっかりと手を握ってくれた。
 温もりと一緒に、力を分けてもらった気がする。ううん、気のせいじゃない。

「と、いうわけだ。よろしく頼む」
「……わかった」
「サンキュ」
「……でも、今すぐこの空間を解除するわけにはいかない。人質にとったり、危害を加えたりしないから、我慢して」
「そんなこと思ってないさ」

 正直者のコイツがそんなことするなんて想像すらしてない。だから、苦笑して応えてやった。
 敵なのに、こういう所が憎めない。

「……ありがとう」
「当然だろ。…………サヤ」
「はいっ。私は離れて時間をお伝えしながら応援致しますので!」

 サヤが電子手帳を手に、数歩下がった。それに合わせて俺もナナと対峙する。

「……準備は、いい?」
「いつでも受けて立つ」

 ついに、俺の最初で最後の闘いが幕を開ける。


 かっと
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