高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「さてさて、五時間目は古典でしたよねー」

 サヤの、弁当の箱を片付けながらの一言。学校にすっかり馴染んでいる。

「そーそー。あの先生は厳しいから注意が必要だよ。あ、そういえば一時間目の休み時間に先生が言ってた授業で使う参考書、転校生トリオは貰いに行った?」

 古典の授業では先生独自の内容とかあって、時々参考書を使うんだよなぁ。そこから余計な宿題が出たりして、実に面倒だ。

「わたくしは、二時間目に行きました」
「……ワタシも」
「私、順平さんに恋い焦がれるあまり、忘れてました」

 お気楽なヤツだからそうだろうと思った。俺を言い訳に使うのは如何なものか。

「先生忘れ物したらすぐ廊下に立てするから、職員室に急がなきゃだね」
「職員室ですかー。ええと……どこでしたっけ?」

 学校二日目だからまだ知らないか。仕方ない、案内してやる――

「ぼ、ボクでよければ案内するよ。丁度先生に、プリント運び頼まれてるから」
「本当ですか! 小神さん、さんきゅ~です」

 悠人、この授業の前は頻繁に荷物持ちをさせられるんだよなぁ。ったく、従順だからって召使いか何かと勘違いしてるんじゃないんだろうか。
 それに、どうせ午後に授業があるんならわざわざ呼ばなくても、来た時に参考書を渡せばいいだけだろ。ホント、融通の利かないおばさんなんだから。

「サヤさんが行くのなら、わたくしも御一緒しましょう」

 と、愚痴ってる間に旅のお供が一人加わった。
 アリスさんはサヤに張り合っているか、先生方の掌握に入るってとこだな。

「皆が行くなら面白そうだしあたしも同行するぜぃ。順平もカモン」
「いや、俺は帰ってる。サヤ、弁当箱は持って帰るから先に行って」

 どうして集団で職員室に行かにゃならんのだ。それにあの場所は妙に苦手。成績が悪いから、すぐ呼び止められて説教喰らうんだよ。

「では、お任せしましたですー」
「おう」

 四人を見送ってから風呂敷を包んで……くっ、意外と手こずる。……で、出来た。俺、昔から手先が不器用だって言われてるんだよね。さて、俺もっ――

「あれ? まだ居たの?」
 立ち上がると、ナナが直立不動でこっちを見てた。
「……仲間外れ、可哀想だから一緒に帰る」
「……ありがとね」

 お前は一連の会話を聞いていたのかと小一時間問い詰めたい。けどまあ、優しさを無下にするワケにも行かず、黙って隣を歩く。

「……大丈夫。いつか、きっと」
「……そうですね」

 コイツの勘違いはもはや天然ものだ。俺が命狙われているのも、イキガミの性質のせいじゃねーのか?
 そんなことを考えながら屋上を出て、階段を降りる。

「はぁ~。満腹で動きたくないなぁ」
「……怠けてはパンダになる」

 パンダ。微妙な表現だ。

「……食後は睡魔が襲う。注意」
「まあね。授業がなかったらいいんだけど」
「……勉強は学生のほんぶ――あ」
「お、おいっ!?」

 踏み違えたのか、急にバランスを崩し――仰け反るような形になった。俺は咄嗟に背中に手を回して確保

「おわああああああ!?」

 したが、無理な体勢だったから俺まで姿勢制御できなくなり背中から階段を滑降。助けた意地でナナから手を放さなかったけど……。

((つぅっ))

 背中と手が、摩擦と打撲によりジンジンする。
 はあ、情けない。中ごろからだから良かったけど、一番上からだったら死んでたかもしれないな。

「……大丈夫?」
「ん、まあなんとか。って怪我したの!?」

 しりもちをついたまま、右足首をしきりに触っていた。

「保健室行こう。掴まって」
「……問題ない」

 スックと立ち上がり、スカートをはたき汚れを取った。
 その様子なら、嘘をついてはいないか。本当に問題ないみたいだ。

「……手」
「あ、サンキュ」

 差し出された手に掴まり立ち上がって、背中の埃を払う。

「……さっき。どうして、助けてくれた?」
「はい?」

 ズボンが破けてないか上半身を捻っていると、そんなことを言われた。

「……ワタシ、ジュンペイの命狙ってる。なのに、ジュンペイは痛い目に遭っても守ってくれた。それは、どうして?」
「貴方さぁ。本当に機械みたいなこと言うんだな」
「……?」

 俺が苦笑すると、不思議そうに首を傾げた。

「理由なんてないでしょ。困っている人がいたら助ける。そんなの常識だよ」
「……ジュンペイは変わっている。ワタシの周りにはそんな人、いない」
「別に俺が特別善人ってワケじゃないよ。偶々周りに居なかっただけで、他のところにはどっさりいるよ」
「……ううん。ジュンペイ、優しい」
「そ、そう? そりゃどーもです」

 まあ、そう言われて悪い気はしないよね。

「……ジュンペイの願い事、一つ聞く」
「はい?」
「……ワタシたちの決まり。恩を受けたら返す。だから、願い事聞く。何?」
「ああ、そういうことね」

 話す順序を考えてくれないと一回で理解できない。

「でも、そこまでしてなくてもいいよ」
「……ダメ。絶対に、一つ」
「俺は恩だと思ってないからさ。気持ちだけ受け取っておくよ」
「……絶対に、一つ」

 う~む。この調子だと、俺の言い分じゃあ到底納得しそうにない。サヤが言ってた通りで、超が付く生真面目さんだ。

「じゃあさ。命狙うの、やめてくれない?」
「……それ以外」

 うん。そこまでこの世は上手くできていないことくらいは承知してた。

「え~と……。今はないから、今度ってのはなし?」
「……じゃあ待つ。必ず、教えて」
「はいよ」

 俺たちはそこで話題を打ち切り、教室に戻った。ひと騒動あったから、サヤたちもすでに着席済みだ。


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