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「こ、高坂君。大丈夫なの?」
「おー順平。仮病は良くなったかい?」

 これは遥と悠人。やっぱ遥には見破られてた。というか、あれを信じる悠人が純粋すぎる。

「順平さん、今日はわたくしも御一緒させていただきますね」

 と、アリスさん。多分、今朝のことがあったから対抗心で来たんだろう。

「……回復したの?」

 さらにはイキガミまでいる。
 移動中に聞いた話によると今は一時休戦中だし、俺の言動のせいで俺の関係者だと思われている。のけ者にすると色々とややこしくなるため、参加することになったらしい。
 ちなみに俺の正面がアリスさんで、右隣がサヤ、左がイキガミだ。

「それじゃあ全員揃ったから、昼食スタートっ!」

 遥の声で皆弁当を出し、食べ始める。

「順平さんの分ですよー」
「うん。ありがとう」

 八頭さんから頂いた弁当の箱を受け取ると、漆塗りみたいになっていて見るからに高級感溢れている。
 さすがはのり弁で2000円。さて、中身はどうなっているのだろう――

「アリスっちのお弁当すごいじゃん!」

 蓋に手をかけたところで遥の弾けるような声が聞こえたから顔を上げると、アリスさんの前にはお重があった。ここから覘いただけでも、伊勢えびやらステーキやらが存在を主張している。

「よろしければ、一口いかがですか? このステーキはシェフ自慢の一品なんですよ」
「いいの? じゃあ、ご相伴に預かって」

 厚さ3センチはある肉を箸でつまみ、大口を開けて頬張った。

「おおっ、口の中で溶けた! これが……最高級品! ホントにお肉、これ?」
「お気に召したのならば、いくらでもどうぞ」

 無邪気な遥の感想に気を良くしたのか、さらに薦めるアリスさん。
 さて、俺も蓋をオープンする。そうしたら目に飛び込んできたのは、サイコロステーキにクリームコロッケ、厚焼き玉子と干ぴょう巻、さらには高級食材フカヒレ。俵型の米まである。和洋中の主役が目白押しのラインナップ!

「…………」

 えーと、これはのり弁ではないよね。海苔が入ってないし。この内容、アリスさんに勝るとも劣らない高級ディナー弁当じゃないか。
 まさか、八頭さんがこっそり変更して――いや、それはない。俺は電話で注文するのを見ていたし、サヤが食べているのはのり弁。片方だけ豪華にするなんてことはしないはず。

((じゃあ、どうしてだ……?))

 考えられるのは、お店側の受注ミスか。
 ん~。本来は電話して交換してもらうべきなんだろけどそんな時間もないし、この際有難く頂戴しよう。

「順平のもすっごい豪華じゃん! 自分だけどうしたのさそれっ!」

 目ざとい遥が、俺の弁当の存在を全員に知らせてしまった。
 ああ、アリスさんが冷たい笑顔でこっち見てる。……即座に隠すべきだったか。

「はて? 順平さんは私と同じお弁当のはずなのですが」
「俺もよくわからないんだけど、別の注文と間違えたらしいよ。俺だけ食べるのもなんだし、サヤも半分どうぞ」

 アリスさんの視線に怯えながらおすそ分けして、食べ始める。お味は……フカヒレの美味しさは貧乏人だから今一つわからないけど、他は形容しがたい美味しさ。

「……お弁当」

 隣から起伏のない小さい声が聞こえので見てみると、丁度弁当箱を開けるとこだった。興味本位でおかずを覗き見ると――中身は、全部黄色だった。
「な、なあ。イキガミさん……?」

 不倶戴天の敵だけど、思わず訊いてしまった。

「……ナナ。ワタシの名前」
「ああ。ナナさんね」
「……ナナでいい」
「だったらこっちも呼びすてでいいよ。その方が楽でしょ?」
「……ジュンペイ。わかった」

 予想外の自己紹介だったけど、これは今だけは敵対関係ではないということだろうか。

「……ジュンペイ、何?」
「えっと、ナナ。それ、何だ?」
「……ニラと卵の卵とじ」

 それは、ニラの卵とじでいいんだよ。

「見たところ主食がないけど……。ニラの卵とじ好きなの?」
「……好き。ニラ、大好き」

 そう言うと、感情がなかった顔に僅かだけど笑みが浮かんだ。
 へぇ、こんな表情もできるんだ。改めて近くで見ると、文句のつけようがないくらい綺麗な顔してんだよなぁ。サヤも黙ってりゃいい線いってるし、イキガミとシガミは美形揃いなのだろうか。

「ニラのどこが好きなの?」

 なぜ、ここまで踏み込んだ質問したのか自分でもわかんない。もしかしたら、さっきの笑顔をもう一度見てみたかったのかもしれない。

「……ニラなところ」
「ふふっ。さいですか」

 存在が好きとは、さぞニラも幸せだろう。そういえば、昨日ニラの編隊飛行で隙が出来たのはこれのせいか。
 ここで話を止めて、再び箸を進める。
 いや~、本当に美味。これを「いくらでも食べられる」って言うんだろうなぁ。

「……いただきます」

 このサイコロステーキ、肉汁がたまんない。頬っぺたが落ちるを実際に体験する日が来るとは思わなかったよ。

「……ごちそうさま」
「はえーなおい!」

 振り向きざまにツッコむと、弁当箱は空。俺がまだ咀嚼している間に食べ終えたよ。

「あ、あわわわ……」

 斜め前方では悠人が膝の上に箸を落として唖然としていた。……一部始終を見ちまったんだな。

「……あ、デザート忘れてた」

 ナナが取り出したのは、タッパーに入ったヨーグルト。当然ニラ入りだ。

「ね、ねえ。それ、どこが好きなの?」

 ニラと返答を聞きたくて、意地悪な質問をしてみた。

「……乳酸菌」

 コイツ、読めねえや。
 そんなことがありつつ、予鈴が鳴る頃に全員の食事が終了した。
 ちなみに最後は俺。今後こんなご馳走を食べる機会は確実にないから、よ~く噛んでよ~く味わった。


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