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「サヤ。その皿とスプーンをこっちに頂戴」
「え? は、はい」

 晩ご飯終了後。小首を傾げるサヤから食器類を受け取り、シンクに運んでフライパン、まな板等と一緒に洗い始める。
 これは一人暮らしを始めてから身についた習慣で、食べた後に洗わないとすぐに溜まってしまう。面倒でもいずれは自分がするのだから、気が付いた時に行動に移すのが一番なんだよね。

「順平さーん。私も手伝いますよー」
「いいからいいから。そこでのんびりしてて」

 恩人にここまでさせるのは気が引けるし、いつも使っているキッチンだから流れに乗って洗浄、乾燥、収納が出来る。
 食器さん達への労い作業は十分程で全行程を終え、ピカピカになった皿を棚に戻してテーブルにつく。

「順平さん、お疲れ様でしたー。さてさて、今宵はどうします?」

 これから、か。時計を見ると、今は九時過ぎだから……。

「もう眠ろうか」

 予定も決まったしね。今日はさっさと

「えええっ!? 断固反対、断固反対です!」

 テーブルを手の平で連打して、反発をあらわにする。アンタは子どもか。

「明日は折角のお休みですよー! ディスコで踊りましょうよ! サタデーナイトでフィーバーしましょうよ!!」
「この近くにディスコはないし、今日は火曜。どっちも不可能だよ」

 表現方法の古さといい、そろそろこの人の年齢が気になってきているのだが、知らぬが仏だろうか。きっと、仏なんだろうなぁ。

「今日は朝から色々あって、疲れたんだよ。明日は精一杯はっちゃけるから、ゆっくり無心で眠らせてよ」

 とにかく、精神的に疲れた。トランプに神経衰弱ってあるけど、あれの百倍くらいは衰弱したよ。

「そ、それならば仕方ないですねぇ。私もこちらに来る準備で二日ほど寝ていないので、そろそろお休みしましょうか」
「うん。キミは、今すぐにでもお休みした方がいいと思うよ」

 さらっととんでもないこと言った。流石に連続徹夜は身体に悪いぞ。

「それじゃあ、サヤは母さんのベッドか和室の布団、どっちがいいか選んでよ」
「私、ですか? 私はあちらで結構ですよー」

 そう言って指さしたのは、リビングにあるソファー。一応睡眠時に使用できるが、寝具にはカウントされない代物だ。

「おいおい。今更遠慮なんてしないでよ」

 あれは俺も昼寝に使うけど、好き好んで寝る必要はない。母さんのベッドは無駄に金かかっててフカフカだし、布団は羽毛入りで心地よさは雲泥の差なんだよね。

「いえいえ、遠慮してませんよー。お恥ずかしながら私は残業や宿直でソファーで睡眠を取ることが多いので、いつの間にかマイベスト寝具になってるのです。職業病というヤツですね」
「……。気楽そうに見えて、苦労してるんだね」

 二日不眠不休の上にソファーで安眠できる身体になるなんて、シガミの仕事はどんだけハードなんだろう。労働基準法はあるのだろうか? と、上の世界の法律が気になる今日この頃。

「じゃあ、掛布団だけ持ってくるからね。ちょっと待ってて」

 よっこらせと腰を上げ、和室へ向かう――とここで、実は皿を洗っている時から気になっていた質問をしてみることにした。
「あのさ。俺って、どうやって死ぬ予定だったの?」
 傍から見れば気が狂った内容だけど、やっぱり気になる。そういうのは知っておきたいよね。
「あ~、それはですねー。三輪車に轢かれて死にます」
「ふっ」

 なんつーシュールな最期。こんなんじゃ末代までの笑い種で、自分で吹き出すんだからさぞかし葬式は愉快になるんだろうなぁ。

「正確には遅刻をして横断歩道で信号待ちをしている時に、背後から幼稚園児が操る三輪車に衝突されバランスを崩して一歩前へ。そこを大型トラックが通過して、十数メートル吹っ飛ばされてエンドですよ」
「俺は、なんとも器用な死に方をすんだね……」

 明らかにふざけている、というかバカにしている。もはやギャグの世界じゃないか。

「………………………………」

 そんな話を聞いてそんなことを思っていたら、今までの不幸を思い出して憎悪が生まれてきた。その負の感情の矛先は、名も知らぬ神様だ。
 アンタ、絶対に人間――特に俺が困る姿を見て楽しんでるよなっ? もしかして、不幸の具合を弄ったのアンタじゃないのか? 絶対そうだろ! なんだあれは! サヤがいなければ、重傷を負った夜に顔面火傷と同等の不幸が来てたんだぞ! 俺にどこまでの苦行を与えるつもりだ! アンタドSにも程があるぞ! もしかして俺は前世で神に反乱を起こして、現世で罪を償ってるってのか? 俺が悪いってか? なんか言ってみろよコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「じゅ、順平さん。背後に阿修羅が見えますよ。こ、これはあくまで予定ですからねっ」
「ああごめん、サヤを責めてるんじゃないだ。今のうちにソファーに行っててよ」

 つい爆発してしまった。まあ、不幸の件は濡れ衣かもしれないし、始まってしまったことをとやかく言っても後の祭りだ。
 頭の熱を冷ましながら和室で掛布団と枕を取り、リビングへ戻ると、サヤはちょこんと座っていた。

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