22 / 74
(13)
しおりを挟む
「サヤ。その皿とスプーンをこっちに頂戴」
「え? は、はい」
晩ご飯終了後。小首を傾げるサヤから食器類を受け取り、シンクに運んでフライパン、まな板等と一緒に洗い始める。
これは一人暮らしを始めてから身についた習慣で、食べた後に洗わないとすぐに溜まってしまう。面倒でもいずれは自分がするのだから、気が付いた時に行動に移すのが一番なんだよね。
「順平さーん。私も手伝いますよー」
「いいからいいから。そこでのんびりしてて」
恩人にここまでさせるのは気が引けるし、いつも使っているキッチンだから流れに乗って洗浄、乾燥、収納が出来る。
食器さん達への労い作業は十分程で全行程を終え、ピカピカになった皿を棚に戻してテーブルにつく。
「順平さん、お疲れ様でしたー。さてさて、今宵はどうします?」
これから、か。時計を見ると、今は九時過ぎだから……。
「もう眠ろうか」
予定も決まったしね。今日はさっさと
「えええっ!? 断固反対、断固反対です!」
テーブルを手の平で連打して、反発をあらわにする。アンタは子どもか。
「明日は折角のお休みですよー! ディスコで踊りましょうよ! サタデーナイトでフィーバーしましょうよ!!」
「この近くにディスコはないし、今日は火曜。どっちも不可能だよ」
表現方法の古さといい、そろそろこの人の年齢が気になってきているのだが、知らぬが仏だろうか。きっと、仏なんだろうなぁ。
「今日は朝から色々あって、疲れたんだよ。明日は精一杯はっちゃけるから、ゆっくり無心で眠らせてよ」
とにかく、精神的に疲れた。トランプに神経衰弱ってあるけど、あれの百倍くらいは衰弱したよ。
「そ、それならば仕方ないですねぇ。私もこちらに来る準備で二日ほど寝ていないので、そろそろお休みしましょうか」
「うん。キミは、今すぐにでもお休みした方がいいと思うよ」
さらっととんでもないこと言った。流石に連続徹夜は身体に悪いぞ。
「それじゃあ、サヤは母さんのベッドか和室の布団、どっちがいいか選んでよ」
「私、ですか? 私はあちらで結構ですよー」
そう言って指さしたのは、リビングにあるソファー。一応睡眠時に使用できるが、寝具にはカウントされない代物だ。
「おいおい。今更遠慮なんてしないでよ」
あれは俺も昼寝に使うけど、好き好んで寝る必要はない。母さんのベッドは無駄に金かかっててフカフカだし、布団は羽毛入りで心地よさは雲泥の差なんだよね。
「いえいえ、遠慮してませんよー。お恥ずかしながら私は残業や宿直でソファーで睡眠を取ることが多いので、いつの間にかマイベスト寝具になってるのです。職業病というヤツですね」
「……。気楽そうに見えて、苦労してるんだね」
二日不眠不休の上にソファーで安眠できる身体になるなんて、シガミの仕事はどんだけハードなんだろう。労働基準法はあるのだろうか? と、上の世界の法律が気になる今日この頃。
「じゃあ、掛布団だけ持ってくるからね。ちょっと待ってて」
よっこらせと腰を上げ、和室へ向かう――とここで、実は皿を洗っている時から気になっていた質問をしてみることにした。
「あのさ。俺って、どうやって死ぬ予定だったの?」
傍から見れば気が狂った内容だけど、やっぱり気になる。そういうのは知っておきたいよね。
「あ~、それはですねー。三輪車に轢かれて死にます」
「ふっ」
なんつーシュールな最期。こんなんじゃ末代までの笑い種で、自分で吹き出すんだからさぞかし葬式は愉快になるんだろうなぁ。
「正確には遅刻をして横断歩道で信号待ちをしている時に、背後から幼稚園児が操る三輪車に衝突されバランスを崩して一歩前へ。そこを大型トラックが通過して、十数メートル吹っ飛ばされてエンドですよ」
「俺は、なんとも器用な死に方をすんだね……」
明らかにふざけている、というかバカにしている。もはやギャグの世界じゃないか。
「………………………………」
そんな話を聞いてそんなことを思っていたら、今までの不幸を思い出して憎悪が生まれてきた。その負の感情の矛先は、名も知らぬ神様だ。
アンタ、絶対に人間――特に俺が困る姿を見て楽しんでるよなっ? もしかして、不幸の具合を弄ったのアンタじゃないのか? 絶対そうだろ! なんだあれは! サヤがいなければ、重傷を負った夜に顔面火傷と同等の不幸が来てたんだぞ! 俺にどこまでの苦行を与えるつもりだ! アンタドSにも程があるぞ! もしかして俺は前世で神に反乱を起こして、現世で罪を償ってるってのか? 俺が悪いってか? なんか言ってみろよコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「じゅ、順平さん。背後に阿修羅が見えますよ。こ、これはあくまで予定ですからねっ」
「ああごめん、サヤを責めてるんじゃないだ。今のうちにソファーに行っててよ」
つい爆発してしまった。まあ、不幸の件は濡れ衣かもしれないし、始まってしまったことをとやかく言っても後の祭りだ。
頭の熱を冷ましながら和室で掛布団と枕を取り、リビングへ戻ると、サヤはちょこんと座っていた。
「え? は、はい」
晩ご飯終了後。小首を傾げるサヤから食器類を受け取り、シンクに運んでフライパン、まな板等と一緒に洗い始める。
これは一人暮らしを始めてから身についた習慣で、食べた後に洗わないとすぐに溜まってしまう。面倒でもいずれは自分がするのだから、気が付いた時に行動に移すのが一番なんだよね。
「順平さーん。私も手伝いますよー」
「いいからいいから。そこでのんびりしてて」
恩人にここまでさせるのは気が引けるし、いつも使っているキッチンだから流れに乗って洗浄、乾燥、収納が出来る。
食器さん達への労い作業は十分程で全行程を終え、ピカピカになった皿を棚に戻してテーブルにつく。
「順平さん、お疲れ様でしたー。さてさて、今宵はどうします?」
これから、か。時計を見ると、今は九時過ぎだから……。
「もう眠ろうか」
予定も決まったしね。今日はさっさと
「えええっ!? 断固反対、断固反対です!」
テーブルを手の平で連打して、反発をあらわにする。アンタは子どもか。
「明日は折角のお休みですよー! ディスコで踊りましょうよ! サタデーナイトでフィーバーしましょうよ!!」
「この近くにディスコはないし、今日は火曜。どっちも不可能だよ」
表現方法の古さといい、そろそろこの人の年齢が気になってきているのだが、知らぬが仏だろうか。きっと、仏なんだろうなぁ。
「今日は朝から色々あって、疲れたんだよ。明日は精一杯はっちゃけるから、ゆっくり無心で眠らせてよ」
とにかく、精神的に疲れた。トランプに神経衰弱ってあるけど、あれの百倍くらいは衰弱したよ。
「そ、それならば仕方ないですねぇ。私もこちらに来る準備で二日ほど寝ていないので、そろそろお休みしましょうか」
「うん。キミは、今すぐにでもお休みした方がいいと思うよ」
さらっととんでもないこと言った。流石に連続徹夜は身体に悪いぞ。
「それじゃあ、サヤは母さんのベッドか和室の布団、どっちがいいか選んでよ」
「私、ですか? 私はあちらで結構ですよー」
そう言って指さしたのは、リビングにあるソファー。一応睡眠時に使用できるが、寝具にはカウントされない代物だ。
「おいおい。今更遠慮なんてしないでよ」
あれは俺も昼寝に使うけど、好き好んで寝る必要はない。母さんのベッドは無駄に金かかっててフカフカだし、布団は羽毛入りで心地よさは雲泥の差なんだよね。
「いえいえ、遠慮してませんよー。お恥ずかしながら私は残業や宿直でソファーで睡眠を取ることが多いので、いつの間にかマイベスト寝具になってるのです。職業病というヤツですね」
「……。気楽そうに見えて、苦労してるんだね」
二日不眠不休の上にソファーで安眠できる身体になるなんて、シガミの仕事はどんだけハードなんだろう。労働基準法はあるのだろうか? と、上の世界の法律が気になる今日この頃。
「じゃあ、掛布団だけ持ってくるからね。ちょっと待ってて」
よっこらせと腰を上げ、和室へ向かう――とここで、実は皿を洗っている時から気になっていた質問をしてみることにした。
「あのさ。俺って、どうやって死ぬ予定だったの?」
傍から見れば気が狂った内容だけど、やっぱり気になる。そういうのは知っておきたいよね。
「あ~、それはですねー。三輪車に轢かれて死にます」
「ふっ」
なんつーシュールな最期。こんなんじゃ末代までの笑い種で、自分で吹き出すんだからさぞかし葬式は愉快になるんだろうなぁ。
「正確には遅刻をして横断歩道で信号待ちをしている時に、背後から幼稚園児が操る三輪車に衝突されバランスを崩して一歩前へ。そこを大型トラックが通過して、十数メートル吹っ飛ばされてエンドですよ」
「俺は、なんとも器用な死に方をすんだね……」
明らかにふざけている、というかバカにしている。もはやギャグの世界じゃないか。
「………………………………」
そんな話を聞いてそんなことを思っていたら、今までの不幸を思い出して憎悪が生まれてきた。その負の感情の矛先は、名も知らぬ神様だ。
アンタ、絶対に人間――特に俺が困る姿を見て楽しんでるよなっ? もしかして、不幸の具合を弄ったのアンタじゃないのか? 絶対そうだろ! なんだあれは! サヤがいなければ、重傷を負った夜に顔面火傷と同等の不幸が来てたんだぞ! 俺にどこまでの苦行を与えるつもりだ! アンタドSにも程があるぞ! もしかして俺は前世で神に反乱を起こして、現世で罪を償ってるってのか? 俺が悪いってか? なんか言ってみろよコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「じゅ、順平さん。背後に阿修羅が見えますよ。こ、これはあくまで予定ですからねっ」
「ああごめん、サヤを責めてるんじゃないだ。今のうちにソファーに行っててよ」
つい爆発してしまった。まあ、不幸の件は濡れ衣かもしれないし、始まってしまったことをとやかく言っても後の祭りだ。
頭の熱を冷ましながら和室で掛布団と枕を取り、リビングへ戻ると、サヤはちょこんと座っていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
探偵はウーロン茶を片手にハードボイルドを語る
ナカナカカナ
キャラ文芸
探偵、金貸し、BARのマスター、泣きぼくろの女…4人の魅力的なキャラクターが織りなすミステリー(?)コメディ
ハードボイルド…風な探偵、早乙女瞳が巻き込まれた事件の一幕。
誰も結末を予想出来ない!いや、させない!
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
天之琉華譚 唐紅のザンカ
ナクアル
キャラ文芸
由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。
道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。
しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。
その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
人形学級
杏樹まじゅ
キャラ文芸
灰島月子は都内の教育実習生で、同性愛者であり、小児性愛者である。小学五年生の頃のある少女との出会いが、彼女の人生を歪にした。そしてたどり着いたのは、屋上からの飛び降り自殺という結末。終わったかに思えた人生。ところが、彼女は目が覚めると小学校のクラスに教育実習生として立っていた。そして見知らぬ四人の少女達は言った。
「世界で一番優しくて世界で一番平和な学級、『人形学級』へようこそ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる