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家に帰ると洗濯してから風呂に入り、臭いと一緒に疲れも取った。それから適当に時間を潰して程よく夜になった頃、晩ご飯にオムライスを作った。
あーそうそう。調理前にサヤから左のコンロは使うなって言われた。どうも、ガスがうんたらかんたらで暴発して顔面が焼ける予定だったらしいです。
「ほい。出来たよ」
「おお~っ! 有難うございます」
サヤが待っているダイニングのテーブルにオムライスを置き、俺も椅子に座る。そうして二人揃っていただきますを行い、早速サヤがスプーンを使って一口食べた。
「むむっ…………このとろとろの半熟に仕上げた卵。それに包まれたピーマン、玉葱、鶏肉入りのケチャップライスが奏でる絶妙な一体感っ。互いが互いを引き立たせ、かつ主張している。これはまさしく、卵の宝箱!」
「アンタはどこの美食家ですか」
思わずツッコまずにはいられなかった。卵の宝石箱って、ねぇ。
「それに、そもそもさ。俺が作る料理なんて大したことないよ」
続いて食べてみると、うん、やっぱりそう。二人分で予算が五百円以下の、本当に普通の宝箱(?)だ。
「またまた~、御謙遜を。良妻賢母ならぬ、良夫賢父ですよー」
「いやいや、本当に自慢できる程じゃないからね。まともに作れるのだって、本に載ってた基本だけし」
「いやいやいや、いやいやいや。何をおっしゃる兎さん。昨今、女性にモテるのはそういう男性なんですよ」
「ぇ、なにその喋り方――そっちはどうでもいいや。そうなの?」
そんなの初耳だ。それ、本当の話?
「これは、私の職場の上司の話なんですけどねー。お料理が趣味なのですが旦那さんが全くできない方で、一緒に料理ができないと苦言を呈したら、料理教室に通い始めたそうです」
「ふむ」
「そしたらめきめき腕を上げちゃって。するとどうでしょう。自分より美味しいお料理を作れるようになっちゃって、休日にはディナーを振る舞うまでになりました」
「ふーん。良い話じゃん」
愛する人に、心のこもった美味しい料理を出す。理想的な形だよね。
「ですが。ですがですよ。上司は得意分野を抜かれたことに腹を立てちゃって、大ゲンカ。言い争いはマンション中に響き渡り、三日三晩続きました。そしてつい先週、離婚しました」
「はい!? 離婚っ!?」
「つまり女性が求める男性像は、『出来過ぎても駄目、出来なさ過ぎても駄目』なのですよ。その辺を空気読んで自覚しろと憤慨してましたよー」
「へ、へぇ~」
そんなバカげた離婚って、あるんだ。いや、夫婦間にとっては大問題、なのか?
「女性は男性が思っているより、繊細な生き物なのですよ。しかし、その旦那さんだって良かれと思ってやったことで反感を買うなんて、たまったもんじゃないですよね。相手に理想を押し付ける前に、自分はどうなんだ? てことを一年ほど考えるべきですよね!」
「えーと……。アンタはどっちの味方なんだ?」
今一つ言いたいことがわからない。
異性に対して怒ってるの? それとも、同性に対して思ってるの?
「私、ですか? 私は正義の味方です!」
「そっか。今の話を聞いた時間を返してもらいたいな」
どうだ! と言わんばかりの様子だったからついスプーンを投げそうになったけど、ぐっと我慢した。
よっし、この話はお仕舞い。ここからは、ちゃんとした話題――これからの不幸に対する話題にしよう。しっかり打ち合わせしておかないと、不慮の出来事に対処できないからね。
「あのさ。これからどうするのかな?」
自分の命に係わることなので、真剣に尋ねてみる。
ことが起きるまでの数日間。どのように振る舞えばいいのだろうか?
「そうですね。二年以内に、結婚したいですね。順平さん、夢のマイホームで温かい家庭を築きましょうね」
救いようのない、飛躍し過ぎの妄想だった。
ああ、うん。今のは、俺の聞き方が悪かったよね。
「そうじゃなくて、三日間のこと。どうやって過ごせばいい?」
「ああそちらでしたか。それに関して、特に気を付けることはありませんよ。大きな不幸はその都度お伝えしますから、今まで通り天真爛漫に生活していただいて結構です」
俺はそこまで人生を謳歌してきたつもりはないんだけど、制限はないらしい。でもまあ小さい不幸があるから、学校が休みの明日は家に籠っていよう。
「じゃあ、明日は家でゆっくりと寛ごうか」
「はい。明日は、お買いものをするため街へと繰り出しましょう」
「…………。明日は、家で、ゆっくり寛ごうか」
「…………明日は、お買いものをするため街へと繰り出しましょう」
「……………………。……………………」
「……………………………………………」
俺は瞼を痙攣させ、対面ではニッコリ。現在家内には、真反対の感情がある。
「コホン。明日は家でゆっく」
「お買いものをするため街へと繰り出しましょう!」
「アンタ俺が言ってる言葉が理解できないの!?」
なんなんだこのノリは。いい加減にして欲しい。
「す、すみません調子に乗りましたっ。で、ですが順平さん、ちょっと買い物をするくらいですよ。駄目、なのですかぁ?」
「あのね。買い物云々じゃなくて、不幸が心配なんだよ。道をうろうろして、予想外の不幸に見舞われるのは御免だから」
「あっ、それなら心配はございませんよー。それどころかじっとして行動を制限すると、損しちゃいますよ」
ぱあっ。水を得た魚のように表情が明るくなった。
損? どういう、ことだ……?
あーそうそう。調理前にサヤから左のコンロは使うなって言われた。どうも、ガスがうんたらかんたらで暴発して顔面が焼ける予定だったらしいです。
「ほい。出来たよ」
「おお~っ! 有難うございます」
サヤが待っているダイニングのテーブルにオムライスを置き、俺も椅子に座る。そうして二人揃っていただきますを行い、早速サヤがスプーンを使って一口食べた。
「むむっ…………このとろとろの半熟に仕上げた卵。それに包まれたピーマン、玉葱、鶏肉入りのケチャップライスが奏でる絶妙な一体感っ。互いが互いを引き立たせ、かつ主張している。これはまさしく、卵の宝箱!」
「アンタはどこの美食家ですか」
思わずツッコまずにはいられなかった。卵の宝石箱って、ねぇ。
「それに、そもそもさ。俺が作る料理なんて大したことないよ」
続いて食べてみると、うん、やっぱりそう。二人分で予算が五百円以下の、本当に普通の宝箱(?)だ。
「またまた~、御謙遜を。良妻賢母ならぬ、良夫賢父ですよー」
「いやいや、本当に自慢できる程じゃないからね。まともに作れるのだって、本に載ってた基本だけし」
「いやいやいや、いやいやいや。何をおっしゃる兎さん。昨今、女性にモテるのはそういう男性なんですよ」
「ぇ、なにその喋り方――そっちはどうでもいいや。そうなの?」
そんなの初耳だ。それ、本当の話?
「これは、私の職場の上司の話なんですけどねー。お料理が趣味なのですが旦那さんが全くできない方で、一緒に料理ができないと苦言を呈したら、料理教室に通い始めたそうです」
「ふむ」
「そしたらめきめき腕を上げちゃって。するとどうでしょう。自分より美味しいお料理を作れるようになっちゃって、休日にはディナーを振る舞うまでになりました」
「ふーん。良い話じゃん」
愛する人に、心のこもった美味しい料理を出す。理想的な形だよね。
「ですが。ですがですよ。上司は得意分野を抜かれたことに腹を立てちゃって、大ゲンカ。言い争いはマンション中に響き渡り、三日三晩続きました。そしてつい先週、離婚しました」
「はい!? 離婚っ!?」
「つまり女性が求める男性像は、『出来過ぎても駄目、出来なさ過ぎても駄目』なのですよ。その辺を空気読んで自覚しろと憤慨してましたよー」
「へ、へぇ~」
そんなバカげた離婚って、あるんだ。いや、夫婦間にとっては大問題、なのか?
「女性は男性が思っているより、繊細な生き物なのですよ。しかし、その旦那さんだって良かれと思ってやったことで反感を買うなんて、たまったもんじゃないですよね。相手に理想を押し付ける前に、自分はどうなんだ? てことを一年ほど考えるべきですよね!」
「えーと……。アンタはどっちの味方なんだ?」
今一つ言いたいことがわからない。
異性に対して怒ってるの? それとも、同性に対して思ってるの?
「私、ですか? 私は正義の味方です!」
「そっか。今の話を聞いた時間を返してもらいたいな」
どうだ! と言わんばかりの様子だったからついスプーンを投げそうになったけど、ぐっと我慢した。
よっし、この話はお仕舞い。ここからは、ちゃんとした話題――これからの不幸に対する話題にしよう。しっかり打ち合わせしておかないと、不慮の出来事に対処できないからね。
「あのさ。これからどうするのかな?」
自分の命に係わることなので、真剣に尋ねてみる。
ことが起きるまでの数日間。どのように振る舞えばいいのだろうか?
「そうですね。二年以内に、結婚したいですね。順平さん、夢のマイホームで温かい家庭を築きましょうね」
救いようのない、飛躍し過ぎの妄想だった。
ああ、うん。今のは、俺の聞き方が悪かったよね。
「そうじゃなくて、三日間のこと。どうやって過ごせばいい?」
「ああそちらでしたか。それに関して、特に気を付けることはありませんよ。大きな不幸はその都度お伝えしますから、今まで通り天真爛漫に生活していただいて結構です」
俺はそこまで人生を謳歌してきたつもりはないんだけど、制限はないらしい。でもまあ小さい不幸があるから、学校が休みの明日は家に籠っていよう。
「じゃあ、明日は家でゆっくりと寛ごうか」
「はい。明日は、お買いものをするため街へと繰り出しましょう」
「…………。明日は、家で、ゆっくり寛ごうか」
「…………明日は、お買いものをするため街へと繰り出しましょう」
「……………………。……………………」
「……………………………………………」
俺は瞼を痙攣させ、対面ではニッコリ。現在家内には、真反対の感情がある。
「コホン。明日は家でゆっく」
「お買いものをするため街へと繰り出しましょう!」
「アンタ俺が言ってる言葉が理解できないの!?」
なんなんだこのノリは。いい加減にして欲しい。
「す、すみません調子に乗りましたっ。で、ですが順平さん、ちょっと買い物をするくらいですよ。駄目、なのですかぁ?」
「あのね。買い物云々じゃなくて、不幸が心配なんだよ。道をうろうろして、予想外の不幸に見舞われるのは御免だから」
「あっ、それなら心配はございませんよー。それどころかじっとして行動を制限すると、損しちゃいますよ」
ぱあっ。水を得た魚のように表情が明るくなった。
損? どういう、ことだ……?
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