23 / 105
第23話 花畑
しおりを挟む
結局俺たちは洗濯物が乾くまで次の日の昼までその場で休憩した。
さて、さらに進もう。
トラップに注意しながら地下八階をマッピングしつつ進んでいく。
なんどかモンスターに出会ったが、ラッキーなことにネームドのSS級ヴァンパイアみたいな強敵には会わずに済んでいた。
せいぜいS級で、十万円のマネーインジェクションでなんなくやっつけることができた。
そしてついに、下層階へのシュートへとたどりついた。
「……ここが、地下九階へのシュートか」
それは、巨大な滑り台みたいな構造物だった。
「なんか、怖いね……」
みっしーが滑り台をのぞき込むとそういった。
その滑り台は、下の階へと続いていて、ここを降りるとのぼり返すことはできない。
まあ、ここのダンジョンは地下七階から地下八階へも同じ作りをしているから、どっちにしろもう普通にのぼって地上に帰ることはできない。
だから、ここを降りても同じことだ。
コメントでもらった情報を総合すると、こういう作りのダンジョンの場合、ラスボスを倒すと地上へのテレポーターポータルが出現するらしい。
俺たちが地上へ帰るための、ただひとつの方法がそれだ。
世界最強モンスターといわれる、SSS級のダイヤモンドドラゴンを倒すこと、それが俺たちの最終目標なわけだ。
滑り台の先がどうなっているか、俺たちのいる場所からは見えない。
試しに石ころを転がしてみたが、この先が崖になっているとか池になっているとかではなさそうだった。
……まあ、怖いけど、いくしかないな。
「まず、俺から行く。下に無事降りたらホイッスルを短く吹くから、そしたらお前らも降りてきてくれ、みっしー、紗哩の順番な」
腐っても紗哩だってA級探索者だから、ほぼ戦力にならないみっしーを俺と紗哩とで挟む形で進んでいきたいからな。
……うーん、先の見えない滑り台、さすがにちょいびびるけどさ、まあ行くしかないか。
一応、なにがあっても対処できるように、一万円分だけ注射しておく。
っていうか、金銭感覚がおかしくなってるよなあ。
一万円あったら俺たち二人兄妹、十日間はめし食えたぞ。
「よっしゃ、いくぞ!」
俺は滑り台を滑り落ちていく。
それはらせんをえがいて下へ下へと続いており、俺はなんなく地下九階へと降り立った。
「……なんだ、こりゃ……」
そこはダンジョンの下層階とは思えない光景が広がっていた。
俺の眼前に広がるのは、一面の花畑だったからだ。
ひざ丈くらいの植物、小さくて白い花びらをつけた、かわいらしい花が前後左右、すべてをうめつくしていた。
地下八階まではいかにもな迷宮、という作りだったけど、ここは全然違う。
なんというか、壁もなにもない、大きな広場。
広すぎて向こうの端が見えないほどだ。
天井だけはなにか不思議な光を発する石づくりだけど、地面は土だ。
俺は慎重にあたりを見回し、とりあえず外敵がいないことを確認すると、ホイッスルを短く吹いた。
みっしーと紗哩も続いておりてくる。
「えー……なにこれ……」
二人とも、俺と同じく目の前の景色に絶句している。
「すごい……綺麗……ダンジョンの地下に、こんなところがあったなんて……」
みっしーが目を輝かせて言う。
「あたしはなんか、逆にこわいよ……」
紗哩の感想ももっともだ。
〈すっげえええ! こんなん、初めて見た〉
〈亀貝ダンジョンの下層ってこんなのなってたのか〉
〈ダンジョンとしてはかなり珍しいつくりだな〉
〈気を付けてくれよ、みっしーを守ってください〉
〈みっしー、お兄ちゃん、シャリちゃん、油断しないで!〉
俺たちは花畑を注意しながら進んでいく。
むっとするフローラルの香り、いい匂いといえばいえるのかもしれないが、匂いがきつすぎて胸が少しムカムカする。
その花の匂いに誘われたか、蜂がブンブンと飛び回っていた。
……蜂?
こんなダンジョンの奥底にも蜂なんているんだな、と思っていると。
ちょっと待て。
この蜂、……すこしでかすぎないか?
スズメバチだって全長数センチってとこだろう?
でもこいつは、近くで見ると……。
「気をつけろ、こいつらモンスターだぞ……」
大きさ数十センチにも及ぶ巨大な蜂が、集団でこちらへと飛んでくるのが見えた。
数十匹もの巨大な蜂のモンスターの群れだ。
「ひぃぃっ! 虫は苦手なんだけど……」
みっしーが恐怖の声をあげる。
「お兄ちゃん、お注射お願い。あたしの魔法で叩き落すよ」
紗哩が厳しい表情でいった。
たしかに、こういう集団でくるモンスターには、魔法で対処するほうがいい。
紗哩が得意なのは治癒魔法だが、攻撃魔法も少しは使えるのだ。
何十もの群れ相手に、俺が刀で一匹一匹対処するのは効率が悪いし、危険だ。
「インジェクターオン。セット、十万円」
十万円分のマネーインジェクションを俺とみっしーも含めて三人全員に打つ。
身体能力もアップするから戦闘時にみっしーにも打っておくのは必須なのだ。
俺だって魔法戦士職である侍だ、少しだけだけど攻撃魔法を使える。
「紗哩、いくぞ。みっしーもその稲妻の杖で攻撃を頼む」
「う、うん、わかった」
そして俺たちは同時に身構えて、魔法の詠唱をはじめた。
さて、さらに進もう。
トラップに注意しながら地下八階をマッピングしつつ進んでいく。
なんどかモンスターに出会ったが、ラッキーなことにネームドのSS級ヴァンパイアみたいな強敵には会わずに済んでいた。
せいぜいS級で、十万円のマネーインジェクションでなんなくやっつけることができた。
そしてついに、下層階へのシュートへとたどりついた。
「……ここが、地下九階へのシュートか」
それは、巨大な滑り台みたいな構造物だった。
「なんか、怖いね……」
みっしーが滑り台をのぞき込むとそういった。
その滑り台は、下の階へと続いていて、ここを降りるとのぼり返すことはできない。
まあ、ここのダンジョンは地下七階から地下八階へも同じ作りをしているから、どっちにしろもう普通にのぼって地上に帰ることはできない。
だから、ここを降りても同じことだ。
コメントでもらった情報を総合すると、こういう作りのダンジョンの場合、ラスボスを倒すと地上へのテレポーターポータルが出現するらしい。
俺たちが地上へ帰るための、ただひとつの方法がそれだ。
世界最強モンスターといわれる、SSS級のダイヤモンドドラゴンを倒すこと、それが俺たちの最終目標なわけだ。
滑り台の先がどうなっているか、俺たちのいる場所からは見えない。
試しに石ころを転がしてみたが、この先が崖になっているとか池になっているとかではなさそうだった。
……まあ、怖いけど、いくしかないな。
「まず、俺から行く。下に無事降りたらホイッスルを短く吹くから、そしたらお前らも降りてきてくれ、みっしー、紗哩の順番な」
腐っても紗哩だってA級探索者だから、ほぼ戦力にならないみっしーを俺と紗哩とで挟む形で進んでいきたいからな。
……うーん、先の見えない滑り台、さすがにちょいびびるけどさ、まあ行くしかないか。
一応、なにがあっても対処できるように、一万円分だけ注射しておく。
っていうか、金銭感覚がおかしくなってるよなあ。
一万円あったら俺たち二人兄妹、十日間はめし食えたぞ。
「よっしゃ、いくぞ!」
俺は滑り台を滑り落ちていく。
それはらせんをえがいて下へ下へと続いており、俺はなんなく地下九階へと降り立った。
「……なんだ、こりゃ……」
そこはダンジョンの下層階とは思えない光景が広がっていた。
俺の眼前に広がるのは、一面の花畑だったからだ。
ひざ丈くらいの植物、小さくて白い花びらをつけた、かわいらしい花が前後左右、すべてをうめつくしていた。
地下八階まではいかにもな迷宮、という作りだったけど、ここは全然違う。
なんというか、壁もなにもない、大きな広場。
広すぎて向こうの端が見えないほどだ。
天井だけはなにか不思議な光を発する石づくりだけど、地面は土だ。
俺は慎重にあたりを見回し、とりあえず外敵がいないことを確認すると、ホイッスルを短く吹いた。
みっしーと紗哩も続いておりてくる。
「えー……なにこれ……」
二人とも、俺と同じく目の前の景色に絶句している。
「すごい……綺麗……ダンジョンの地下に、こんなところがあったなんて……」
みっしーが目を輝かせて言う。
「あたしはなんか、逆にこわいよ……」
紗哩の感想ももっともだ。
〈すっげえええ! こんなん、初めて見た〉
〈亀貝ダンジョンの下層ってこんなのなってたのか〉
〈ダンジョンとしてはかなり珍しいつくりだな〉
〈気を付けてくれよ、みっしーを守ってください〉
〈みっしー、お兄ちゃん、シャリちゃん、油断しないで!〉
俺たちは花畑を注意しながら進んでいく。
むっとするフローラルの香り、いい匂いといえばいえるのかもしれないが、匂いがきつすぎて胸が少しムカムカする。
その花の匂いに誘われたか、蜂がブンブンと飛び回っていた。
……蜂?
こんなダンジョンの奥底にも蜂なんているんだな、と思っていると。
ちょっと待て。
この蜂、……すこしでかすぎないか?
スズメバチだって全長数センチってとこだろう?
でもこいつは、近くで見ると……。
「気をつけろ、こいつらモンスターだぞ……」
大きさ数十センチにも及ぶ巨大な蜂が、集団でこちらへと飛んでくるのが見えた。
数十匹もの巨大な蜂のモンスターの群れだ。
「ひぃぃっ! 虫は苦手なんだけど……」
みっしーが恐怖の声をあげる。
「お兄ちゃん、お注射お願い。あたしの魔法で叩き落すよ」
紗哩が厳しい表情でいった。
たしかに、こういう集団でくるモンスターには、魔法で対処するほうがいい。
紗哩が得意なのは治癒魔法だが、攻撃魔法も少しは使えるのだ。
何十もの群れ相手に、俺が刀で一匹一匹対処するのは効率が悪いし、危険だ。
「インジェクターオン。セット、十万円」
十万円分のマネーインジェクションを俺とみっしーも含めて三人全員に打つ。
身体能力もアップするから戦闘時にみっしーにも打っておくのは必須なのだ。
俺だって魔法戦士職である侍だ、少しだけだけど攻撃魔法を使える。
「紗哩、いくぞ。みっしーもその稲妻の杖で攻撃を頼む」
「う、うん、わかった」
そして俺たちは同時に身構えて、魔法の詠唱をはじめた。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
783
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる