空のない世界(裏)

石田氏

文字の大きさ
58 / 73
《第3幕》13章 終わらない戦場

01

しおりを挟む
「ハッ!」
真紀は目を覚ました。
「ここは……」
辺りを見渡すとそこは枯れた大地に所々割れた地面。完全に見覚えのない風景だった。
「え?どこ」
確かふきちゃんと児童養護施設に行って、あの後何もないのが分かって帰ろうとして……あれ?あの後の記憶がない!?
「てか、私死んじゃったの?てことは、ここ天国!?」
しかし、もう一度見渡すが何もない。
「もしかして、死んだら異世界で冒険とか……」
だが、何もない。あるとしたら、遠くに山がある程度だった。当然、冒険者ギルドもダンジョンも、町おろか人すらいなかった。
 自分の格好を見ると、刀(鎧武者)がないだけであの時と同じ格好だった。
 とりあえず立ち上がった真紀は、とりあえずして歩いた。
「何もない」
一人、とぼとぼと歩く真紀。そこへ、後方からエンジン音が聞こえてきた。
 後ろを振り返ると、枯れた大地に一台の大型車がこちらへと向かって来ているのが見えた。
「おーい、おーい」
真紀は両手いっぱいに振って合図を送った。車の方は気づいているのかどうか分からなかったが、方向からして真紀のいる方角に向かって来ているのが分かった。
「助かった」
一人心細くしていた真紀にとって、こんな大地に早くも人に出会えたことに運が良かったと思った。
 車はそのまま真紀の手前で止まった。
「助けて欲しい。私、気がついたらここにいて……ハッ!」
その時、真紀は思った。自分、英語が喋れないことに。確か自分は、宇宙エレベーターの一件でアメリカにいたのを思い出した。今までは、ケイティやブライアンは日本語が喋れたし、あとのことは英語がベテラン(得意)なふきちゃんに全部任していた。
「ど、どうしよう。とりあえず、ヘルプ、ヘルプ!」
しかし、車から出てきたのは軍服のような格好をした男女で、彼らは真紀の目の前にあらわれるやいなや銃を突き付けた。
「ひぃ~」
真紀はとにかく両手を上にした。すると、その中の一人の男が叫んだ。
「そのまま両手を頭の後ろにもっていき、膝をつけ」
真紀は言われるままに従った。すると、叫んだ男の隣にいた女性が近づき、真紀の体を念入りにチェックした。
 それが終わり、何もないと分かった女は、その男に頷き合図を送る。
「お前、ここで何をしている」
「えーと、ここには何も。ただ、気がついたらここにいて……」
「嘘をつくな!」
そう男が叫んだ直後、周りにいた人間は銃口を真紀に再び突き付けた。
「嘘じゃない!て、おじさん日本語喋れるんだね」
「ふざけてるのか!」
今度は叫んでいた男が真紀の胸ぐらを掴み脅してきた。
「ひぃ~」
「やめな、アイザ」
「止めるんじゃないルビー」
「この子は嘘をついているようには見えない。それに、彼女は無防備だ。もしかすると、単に記憶が失っているだけかもしれない」
「だが、こんな所に一人でいる女の子なんて、どうみたっておかしいだろ」
「アイザの言うことは分かる。だけど、彼女に暴力なんて許さないから」
「いいか、ここでは俺がリーダーだ。お前が仕切るな」
「じゃあ、この子をどうするつもり」
周りの皆もアイザに目を向けた。彼らもどうするか聞きたいところだった。
 アイザは少し考えてから、気持ちを落ち着かせた。
「拘束して連れていく。どちらにせよ俺達に会った以上ここには置いていけない」
「分かったわ。殺さないでくれたことには感謝するわ、リーダーさん」
アイザはルビーを睨んだ。しかし、それ以上のことはしなかった。
「連れていけ」
すると、もう一人の男が真紀に手錠をかけ、無理やり立たせたあと、車へと押し込んだ。
「ここでは静かにしろ。騒いだりしたらこれだからな」
そう言って、銃を真紀にちらつかせる。真紀はうんうんと頷いた。
 車は発進し、どこかへと向かって走り出した。
 アイザは無線機を取りだし、連絡を取った。
「こちら0部隊、只今帰還中。応答願う」
『こちら本部、連絡受け取った。そちらの方角、アンノウン・ウォーの反応なし』
「こちら0部隊、了解した」
そう言うと、アイザは無線機を戻した。
「アンノウン・ウォーって?」
真紀は先程アイザが言っていた名前を、近くにいたルビーに聞いた。それは、ここにいるメンバーの中で彼女だけがアイザに口答えし、自分を助けてくれたからだ。
 ルビーは少し疑問に思いながらも答えた。
「アンノウン・ウォーの、アンノウンは未知を意味するの。その意味の通り未知なる生き物。突然、この地球に出現し侵略を始めた生き物よ。ある者は最後の審判、ある者はアンノウン・ウォーを宇宙から来たエイリアンと答えたわ。でも、どちらでも構わない。ただ、私達はそれと戦うだけ。ここは、その戦場なの。元々ここは、こんな枯れた大地じゃなかった。戦争でこうなったのよ」
「へぇー……宇宙人ですか」
「もしかして、本当に何も覚えてないの?アンノウンのことも」
「う、うん」
「そう。なら、記憶取り戻せるといいわね」
すると、突然車内にある警報器が作動した。
「何だ、この先はアンノウンはいないんじゃなかったのか。おい、アッシュ。アンノウンの確認急げ」
「今やってる」
先程真紀に銃をちらつかせた男が車内にあったパソコンで何かを調べていた。
「アイザ、分かったぞ。敵は一体」
「どうりで本部には気付かれなかった訳だ。もし来たら俺らで迎え撃つ」
すると、すぐにルビーが反対した。
「ダメよ、アッシュ。逃げましょ。今の武装じゃ無理よ」
「ルビー、何度も言わせるな。リーダーは俺だ。俺に従え。アンノウン・ウォーは俺達に気付いて追って来る筈だ。このまま帰還したら、奴等に本部の場所を教えるのと同じだ」
「アイザの言う通りだ。このまま帰還はまずい」
アッシュもアイザに賛同した。
「コリンズはどうだ?」
アイザは顔に縦線にタトゥーを入れた運転手にも聞いた。
「俺は最初からアイザに従う」
「よし。エラはどうだ?」
今度は眼帯をしている長髪の女に聞いた。
「私はどっちでも構わない」
無愛想にそう答えると、直ぐに銃の手入れに入った。
 アイザはその態度に溜め息をつくが、「まぁ、いい」と言って、最後のおかっぱのおそらくこの中では最年少の女に聞いた。
「雫はどうだ?」
「ルビーの言うことにも一理あると思う」
「それは今の兵力じゃ不足だからか?」
「うん」
「なら、それを補えばいいってことだな。じゃあ、決まりだ」
「ちょっと待ってアイザ。私達は調査に来ただけなのよ。今、私達には戦力となる〈戦艦〉がない。あれでないと、アンノウン・ウォーには対抗出来ないわ」
「あるじゃないか、この辺りに」
それを聞いたアッシュは声を出した。
「正気ですか、リーダー。あれは動くかどうか怪しいものですよ」
「やるしかないんだ。どちらにせよ、アイツを本部までは連れていけない。お前ら、アンノウンと戦う覚悟を決めろ。コリンズ、例の〈戦艦〉があるところへ向かってくれ」
「了解」
そう短く返事をしたコリンズはハンドルを左にきった。
 ルビーはというと、もうどうにでもなれと言わんばかりに、アイザに大人しく従った。
「あの、ルビーさん」
真紀は会話に一人取り残され、ようやく口を開いた。
「ルビーでいいわ」
「あの、うまく状況が掴めないんだけど、何が起きてるの?」
「あぁ、そうね。あなたも無関係じゃなくなったから言うけど、さっき説明したアンノウンがこの近くにいるの。それで、気づかれてるかどうかは分からないけど、それも時間のうち。だから、やられる前にこちらでやろうと言うわけ」
「つまり、非常事態ってことだよね」
「そうよ。警報器が鳴ったのはアンノウンが少なからず2キロ圏内にいるってこと。2キロじゃ、直ぐに追い付かれるから結構危ない状況よ」
「じゃあ〈戦艦〉というのは?」
「それはアンノウンに対抗する為に作られた兵器よ。それは見れば分かるけど、まさに陸を走る戦艦。それで、実はこの近くにその〈戦艦〉があるの。でも、それは初期の物で直ぐに破棄された〈戦艦〉なの」
「でも、それがあれば倒せるんだよね」
「まぁ、動けばだけどね」
「え?」
「もう数百年前の〈戦艦〉なの。あなたなら、どう思う?」
「う、動かないんじゃ……」
「望みは薄いわね」
「うっ」
真紀は自分が死ぬところを勝手に想像してしまった。
「それより、あなたのこと聞いていいかしら?」
「え?あ、はい」
「あなたの名前をまず教えてくれる?」
「あ、そう言えば言ってませんでしたね」
「まぁ、あの時じゃ自己紹介できる状況じゃなかったからね。ごめんなさいね、怖い思いさして。でも、ここは戦場だから」
「戦場……」
「あ、もう手錠はいらないわね。アイザ、手錠の鍵を頂戴。もう十分でしょ。彼女は普通の女の子よ」
アイザは舌打ちしてから、ポケットに手を突っ込み鍵を取りだしてから、ルビーに向かってそれを投げた。
 ルビーはそれを片手でキャッチすると、直ぐに真紀の手にかかっている手錠を取り外した。
「ありがとう、ルビー。私は真紀」
「真紀ね。それで記憶なんだけど、どこまで覚えてるの?」
「えーと」
真紀は自分がいた世界の話をした。宇宙エレベーターから、児童養護施設で自分はその時に死んだ(?)ことまで全てをルビーに教えた。
「つまり、真紀は死んだってこと?」
「多分。あまりその時の記憶はなんだけど、気が付いたらここにいて。私、ここがあの世じゃないかと思って。それで、ここが天国か地獄か考えながら歩いていたらルビー達に会ったの」
「そう。なんか不思議な話ね。でも、一つ言えるのはここは天国じゃないってことよ」
「私、いっぱい悪さしたからかな」
「でも、死ぬ直前の記憶があるなら私達にもあるはずよ。それに、あなたみたいに突然この世界にあらわれた訳でもない。皆、母から産まれ、赤子から今まで育ってきた。原因は分からないけど、多分死んだんじゃないのかもしれないよ」
「まさかの希望あり!?」
真紀は直ぐに明るくなった。
「いや、でももとに戻る方法が分からないんじゃ……」
「ガーン!!」
明るくなった真紀は再び絶望した。
 そんな話をしているうちに、車は停車した。
「ついたぞ」
コリンズが皆に聞こえるように言った。
「よし、皆降りて〈戦艦〉に乗り込め」
アイザの指示に、きびきびと素早く車から全員降りていった。
 最後に降りた真紀の目の前にあったのは、巨大な戦車の大型バージョンの迫力ある〈戦艦〉だった。
 砲台は海に浮かぶ戦艦と同じ大きさで、それが前に3つ。それに普通の戦車にあるような砲台が左右に2つ。後方は巨大なエンジンがあった。横には黒のスプレーか何かで1XYと書かれてあった。とにかく、何トンあるのか分からないその巨大な〈戦艦〉に、真紀は目が点になった。


ーーーーーー


 巨大な〈戦艦〉内部に入った真紀達は以外にも内部はそこまで広いとはいえなかった。沢山のパイプとコードがはりめぐされ、内部はエンジンルームと操縦席のみだった。それでも戦車より広いのは明らかだが、〈戦艦〉の見た目程広くはなかった。
 コリンズは前の操縦席に座り、アイザはその後方にある2つの席のうち、左に座った。そこは通信機がある席だった。
 右にはアッシュが座り、そこは〈戦艦〉の全ての砲台を操作できるコンピューターがあった。
 あるのは3つの席のみで、他の皆は適当なものに掴んで立ってるしかなかった。
「コリンズ、動けそうか?」
「あぁ。驚いたことにエンジンも、コンピューターも生きているようだ」
そう言って、操縦席にあるレバーを引いて、〈戦艦〉のメインエンジンを稼働させた。

プシュー

 蒸気音と共に〈戦艦〉内部全体が振動にみまわれた。その揺れに真紀はびくついた。
「これ、乗り物だった」
今更気付いた真紀はヤバイと口に手を当てたが、あることに気付いた。
「そう言えばここに来る途中、車に乗ってたんだった!」
でも、あの時に乗り物酔いはしなかった。つまり、乗り物酔いが治った?
 しかし、薬を飲んでも効かなかったのに何故今更突然治ったのか疑問だった。
「死んだから?」
まさかねと思いながらも、〈戦艦〉は既に動きだし前進していた。
「そう言えばルビー」
「なに?」
「アンノウン・ウォーってどんな姿してるの?」
「それは」
ルビーが答えようとした時、急に〈戦艦〉に大きな揺れが起きた。
「どうした!?」
アイザが叫ぶ。
「どうやら奴の攻撃のようです。モニターに出てこないってことは背後からかの攻撃です」
アッシュは汗を垂らしながらそう答えた。
「いきなり大ピンチかよ。分かってると思うがエンジンがやられたら終わりだ。そして、〈戦艦〉のエンジンは後方だ!コリンズ、今すぐ振り払え」
「了解した」
コリンズは操縦桿をめいいっぱいに回した。それと同時に〈戦艦〉は大きな揺れと共に大きく右へと重力が引っ張られた。
「くっ」
席のないメンバーと真紀は必死にそこら辺にしがみつき耐えた。
「どうだコリンズ」
「なんとか振り切ったようだ」
「アッシュ、モニターに奴は見えたか」
「あぁ、バッチリ見えてる」
「こっちにも見えるようモニターを出せ」
「了解」
アッシュはモニターを操作して、中央画面に映した。
「あれがアンノウン・ウォー」
そこに映し出されたのは白く、にょきにょきと触手のある〈戦艦〉同等の大きさであろう生き物だった。
「キモッ」
思わず本音が出てしまった真紀。ヌルネル、ネバネバのそいつを見て思わず本音が出てしまうのは仕方がなかった。
 大きな口を開くアンノウンはまるで私達を食らおうとしているのか、君の悪い鳴き声をした。
「これに仲間は何人食われたか」
真紀は、ルビーの独り言を耳にした。そして、ヌルネル、ネバネバの生き物が映る映像を見て、ゾッとした。
「よし、砲撃開始だ」
アイザの指示にアッシュはモニター画面に思いっきり指を叩きつけた。
「死ねぇーー!!」

ドンッ!

巨大な振動と、耳が痛くなる程の砲撃音が響いた。
 画面には巨大な砲台から発射されてから一瞬で、先程いたアンノウン・ウォーの場所から爆発が起きた。
「どうだ、参ったか!」
アッシュは思わずそう叫んだ。
「アッシュ、まだ歓声をあげるのは早いぞ。次の砲撃を開始しろ」
「勿論だ!」
アッシュは次々と画面にタッチしていく。そのたびに〈戦艦〉に振動がわたる。
 砲撃をもろに受けているアンノウン・ウォーは大きな悲鳴をあげた。
「アッシュ、もうやめろ!」
アイザに言われ、少しおかしくなっていたアッシュは正気を取り戻した。
 あまりの爆発に画面には煙しか見えなかった。
「やりすぎだ。これじゃ、敵が見えないじゃないか」
「何を言ってる。奴はもう死んだに決まってる」
すると、煙の中から突然触手が〈戦艦〉に向かって伸びてきた。
 それは〈戦艦〉前方右砲台に激突した。それと同時に大きな振動が内部まで伝わった。
「おい、まともに食らってまだ動けるのかよ」
アッシュは頭をおさえた。
「コリンズ、被害状況を」
「右砲台がやられた」
「だが、他の砲台がある。アイザ、砲撃指示を」
「待て。まずは一旦後ろへ後退だ。煙がやむまでやたら撃つな」
コリンズは操縦桿を手に取り、後呂に引きながら横にあるスイッチを押した。すると、〈戦艦〉は後ろへとバックをしだしたのだが
「遅っ!」
思わず皆がそう叫んだ。数センチをゆっくり後退する〈戦艦〉に、思わずアイザはイライラして、適当な場所に拳をぶつけた。
「まぁ、数百年前の〈戦艦〉だからな。これがその当時の技術の限界ってわけだ」
「コリンズ、変なフォローは入らん」
「すまない」
「ねぇ」
「この〈戦艦〉には確かあれがあったはずだ。アッシュ、放水だ」
「そうだった。〈戦艦〉にはタンクがあったな。これで煙を吹き飛ばせる」
「ねぇ」
「ダメだアイザ。タンクに水がない」
「当然だ。もう百年以上放置されたものだぞ」
「ねぇってば!」
「エラ、何ださっきから」
「エンジンルーム、物凄い熱気だよ」
その時、真紀以外全員の顔色が変わった。
「え、どうしたの皆」
真紀はキョロキョロと皆の顔を見た。
「今すぐ止めろ、コリンズ」
コリンズはアイザに言われる前に、既に止めに入った。
 〈戦艦〉は、動きを止めた。
「ここからは砲台以外の機能は使うな」
アイザはそう叫んだ。
「何が起きてるの?」
すると、雫がそれに答えた。
「この型の〈戦艦〉はタンクがあって、その中に水があるんだけど、それがないとさっきみたいに放水は出来ないし、エンジンを冷却することも出来ないの。すると、巨大な〈戦艦〉を動かすエンジンはどんどん熱くなって、エンジン事態を焼ききってしまうの。しまいには爆発して、ここにいる皆が死ぬことになる」
「何でそんな大事な事皆忘れてたの!?」
「さっきもルビーや皆が言ってたけど、これは数百年前の〈戦艦〉だから、あまり詳しくないの。皆、入隊するときチラッと聞いたぐらいで、あとは操作方法だけ現代と同じってことぐらい。最新の〈戦艦〉は水タンクは無くて、エンジンもコンパクトにされてある。エンジンも熱がこもらないよう改良されてあるの」
「じゃあ、もう動けない感じ?」
「そう……なるね」
雫は顔を下に向けて言った。
 お願いだから、頼りにしてるんだから顔下向けないでよと言いたくなる真紀は、涙を流し神にお祈りを初めた。
「おい、勝手に神に祈ってるんじゃねぇ。コリンズ、もう動かさないんだからそこから離れてエンジンルームを見てくれ」
「あいよ」
「アッシュ、煙が薄れて奴が見えたら撃て。ただし、今度は撃ち過ぎるなよ」
「あぁ、分かったよ」
アイザはそう言うと通信機に手をかけ、本部に繋がるか試してみた。しかし、
「ダメだ、繋がらない。クソッ」
通信機を投げ飛ばすアイザ。そこにルビーが駆け寄った。
「何だ、ルビー。俺の作戦に文句つけにきたのか?好きなだけ言えばいいさ」
すると、ルビーはアイザに向かって

パチンッ!

平手打ちした。
 思わず皆が注目した。
「あんたがリーダーなんでしょ。通信機が使えないから何よ。予想できなかったからなんだって言うの。諦めないで他の策を考えなさいよ。戦場で予想通りに進んだことあった?予想出来ないから、つど作戦を立て直すんでしょ」
「あぁ、そうだ。分かってる。このままじゃやられることぐらいな。だが、打開策が思いつかない。なら、やつを砲撃して撃ちまくるしかないだろ」
すると、真紀は手を上げた。
「何だ」
「さっき、雫さんから聞いたんだけど、〈戦艦〉を動かすと熱がこもってエンジンが爆発するんですよね」
「それがどうした」
「それって、こんな大きい〈戦艦〉が爆発するぐらいですから、物凄い爆発になるんですよね」
「何が言いたいんだ」
すると、アッシュが真紀の言っている意味を理解したのか手を叩いた。
「その手があったか」
「アッシュまで何だ。俺に分かるように説明しろ」
「あぁ、つまりこういうことだ。エンジンの熱を利用して、あえて〈戦艦〉を動かして爆弾として奴にぶつけるんだ。そうすれば、巨大な砲弾は奴を丸ごと消し飛ばすことが出来るってことさ」
「そうか!この〈戦艦〉はオート操縦に出来たよな?」
「あぁ、出来る」
「なら、早速取り掛かろう」
「了解」
「それと真紀とか言ったな」
「え?」
「あの時は悪かった。戦場でピリピリしてたんだ。許してもらえないかもしれないが、一様謝っとく」
「いいよ」
「そっか。なら、良かった」



 コリンズは操縦桿を再び前進させた後、オートに切り替え全員は、〈戦艦〉のハッチを開いた。
「よし、俺は最後でいい。先に皆から行ってくれ」
「簡単に言わないでくださいよ」
遅めに設定したとはいえ、動いてる〈戦艦〉から飛び降りることになる。
「早くしろ。時間がない」
「だけどなぁ……」
そう、アッシュがぐずぐずしていると、エラが先に前に立ち
「じゃ、お先に」
そう言ってあっさりと、飛び降りた。
「おい、嘘だろ」
「アッシュ、お前も男なら少しの怪我ぐらい我慢しろ」
「んーー、クソッたれ~」
それを言われ意を決したのか、やけくそにアッシュは飛び降りた。
「次は誰が行く?」
「私が行くわ」
そう言ってルビーが前に出た。
「アッシュ、必ずあなたも降りて来てよ」
「分かっている。皆を置いて先には死ねないからな」
「そう。じゃあ、先に待ってる」
そう言って、ルビーも飛び降りた。その後に雫、コリンズが飛び降り、残りは真紀とアイザだけになった。
「さて、残るは君だが流石にここから飛び降りるのは怖いだろうから」
と、アイザが言っている途中で真紀はターザンのように叫びながら飛び降りていった。
「あぁ……意外だったな。まぁ、いい。じゃ、俺も行かせてもらおう」
そう言って、最後に残っていたアイザも飛び降りた。



 誰もいなくなった〈戦艦〉は、無人のまま白くてヌルネルしたネバネバの納豆みたいな生き物に激突し、そして大爆発を起こした。
 それを遠くから見ていたメンバー一同と真紀は、歓声をあげた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...