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有栖の憂鬱(有栖視点)
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「有栖君? 大丈夫?」
「あ、え? ……すみません、大丈夫です」
考え事に気を取られてぼうっとしていた俺を、撮影現場にいたスタッフさんが心配してくれた。
いけない、仕事中なのに。
仕事に支障が出ては困るので、頭の中の邪念を振り払って脳内を切り替える。
俺には最近悩みがある。
それは何かと言うと、遊紗が可愛すぎるのだ。それこそ四六時中考えてしまうくらいに。
つい先日バレンタインチョコを一緒に作った時なんか、幸せすぎて本当に死んでしまうかと思った。
エプロンを着てるのも可愛かった。隣で作っているだけで夫婦みたいでドキドキしっぱなしだったのに、口へのキスまで許可してくれた。
いつかはどんなにしても俺の手から粥を食べてくれなかったけど、今回は躊躇いもなく俺の差し出したスプーンをそのまま口に入れてくれた。
あの時は他人の食べ物で辛い目にあったし、本人からも『人からもらった食べ物はちょっと……』と聞いていた。だからてっきり俺も拒否されるか、彼が自分で味見するものと思っていたのだが。……そりゃあ差し出した時は少し期待したけど、彼に無理強いするつもりはなくほんの冗談のつもりだった。
それがどうだろう。彼は何の疑問もなく食べてくれたのだ。なんというか、あんまり懐いてないと思っていた猫に甘えられた気分だった。
つまるところ、キュンとした。
チョコが付いた遊紗の唇を見て『美味しそう』とか言ってしまうくらいに、見事に恋愛脳にされてしまったのだ。
その上彼は、冴木が見ているからと頑張って我慢してたのを知ってか知らずか、俺にも『食べる?』などと聞いてきた。食べたいのはチョコではなくお前だとか言えるわけがない。
結局、キス待ちで目を瞑っている彼の唇にちょんと触れただけで脳が処理落ちしてしまった。全身火照って熱いし、心臓は破裂しそうだった。心を落ち着けるために遊紗に抱き着いて彼の心臓の音を聞いてみる。彼の方もドキドキはしているけれど、俺のとは比べ物にならなかった。
戻ってきた冴木は色々察してくれて、若干分離しかけているチョコタルトを冷蔵庫に入れてくれた。
あれを思い出す度に幸せな、それでいて恥ずかしい気分になる。
「何、有栖くん恋でもしたの?」
「ああ、はい。…………はい?」
切り替えたはずなのにまた考えてしまっていた俺に、女性カメラマンが声をかけてくる。彼女は前、俺に恋心というものを教えてくれた人で、恋多き乙女でもある。
ついつい返事をしてしまってから、慌てて聞き返す。
「え、本当に!?」
「い、いいい、いえ! 急に仰られたので、つい反射で返事を……」
「なあんだ、そうなの。で、どんな子なの?」
「だから違いますって……」
「え~? そんなに慌てている有栖くん、初めて見たから『脈アリだ!』って思ったのに」
「俺みたいな立場では、恋愛はスキャンダルになってしまいますから」
しかも相手が同性だとなると、世間はうるさく騒ぎ立てるだろう。男女でも大問題なのだから。万一バレて遊紗にまで危害や誹謗中傷が及べば、俺はきっと黙っていることが出来ない。そうなれば今後の人生山しかない。幸せにしたいしなりたい相手にそんな人生は歩ませられないから、ポロッとでも言ってはいけないのだ。
そんな俺の心配と葛藤をよそに、彼女は『憂鬱な顔も良いわね』と呑気に写真を撮っていた。
「あ、え? ……すみません、大丈夫です」
考え事に気を取られてぼうっとしていた俺を、撮影現場にいたスタッフさんが心配してくれた。
いけない、仕事中なのに。
仕事に支障が出ては困るので、頭の中の邪念を振り払って脳内を切り替える。
俺には最近悩みがある。
それは何かと言うと、遊紗が可愛すぎるのだ。それこそ四六時中考えてしまうくらいに。
つい先日バレンタインチョコを一緒に作った時なんか、幸せすぎて本当に死んでしまうかと思った。
エプロンを着てるのも可愛かった。隣で作っているだけで夫婦みたいでドキドキしっぱなしだったのに、口へのキスまで許可してくれた。
いつかはどんなにしても俺の手から粥を食べてくれなかったけど、今回は躊躇いもなく俺の差し出したスプーンをそのまま口に入れてくれた。
あの時は他人の食べ物で辛い目にあったし、本人からも『人からもらった食べ物はちょっと……』と聞いていた。だからてっきり俺も拒否されるか、彼が自分で味見するものと思っていたのだが。……そりゃあ差し出した時は少し期待したけど、彼に無理強いするつもりはなくほんの冗談のつもりだった。
それがどうだろう。彼は何の疑問もなく食べてくれたのだ。なんというか、あんまり懐いてないと思っていた猫に甘えられた気分だった。
つまるところ、キュンとした。
チョコが付いた遊紗の唇を見て『美味しそう』とか言ってしまうくらいに、見事に恋愛脳にされてしまったのだ。
その上彼は、冴木が見ているからと頑張って我慢してたのを知ってか知らずか、俺にも『食べる?』などと聞いてきた。食べたいのはチョコではなくお前だとか言えるわけがない。
結局、キス待ちで目を瞑っている彼の唇にちょんと触れただけで脳が処理落ちしてしまった。全身火照って熱いし、心臓は破裂しそうだった。心を落ち着けるために遊紗に抱き着いて彼の心臓の音を聞いてみる。彼の方もドキドキはしているけれど、俺のとは比べ物にならなかった。
戻ってきた冴木は色々察してくれて、若干分離しかけているチョコタルトを冷蔵庫に入れてくれた。
あれを思い出す度に幸せな、それでいて恥ずかしい気分になる。
「何、有栖くん恋でもしたの?」
「ああ、はい。…………はい?」
切り替えたはずなのにまた考えてしまっていた俺に、女性カメラマンが声をかけてくる。彼女は前、俺に恋心というものを教えてくれた人で、恋多き乙女でもある。
ついつい返事をしてしまってから、慌てて聞き返す。
「え、本当に!?」
「い、いいい、いえ! 急に仰られたので、つい反射で返事を……」
「なあんだ、そうなの。で、どんな子なの?」
「だから違いますって……」
「え~? そんなに慌てている有栖くん、初めて見たから『脈アリだ!』って思ったのに」
「俺みたいな立場では、恋愛はスキャンダルになってしまいますから」
しかも相手が同性だとなると、世間はうるさく騒ぎ立てるだろう。男女でも大問題なのだから。万一バレて遊紗にまで危害や誹謗中傷が及べば、俺はきっと黙っていることが出来ない。そうなれば今後の人生山しかない。幸せにしたいしなりたい相手にそんな人生は歩ませられないから、ポロッとでも言ってはいけないのだ。
そんな俺の心配と葛藤をよそに、彼女は『憂鬱な顔も良いわね』と呑気に写真を撮っていた。
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