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幸せな悩み(有栖視点)
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一通り撮影が終わって、休憩しながら写真の出来を見ていく。
現場の監督とか雑誌の編集者の方とかが全員確認して、その全員からオーケーが出れば今日の仕事は終わりだ。
その間俺はやることもないが、撮り直しになった時用にメイクはそのままでいなければならない。
俺が冴木と共に水を飲んで座っていると、例の女性カメラマンが笑顔でこちらへやってきた。
「どうしたんですか?」
「んー、ちょっとね。写真よりも気になることがあったの」
「気になること?」
「ええ。あなた本当にいい表情するようになったもの。その原因が何なのかしらって。考え事も増えたし」
「……特に理由はないですよ」
「えー、そんなわけないわ。人はね、何かきっかけがなきゃ変われないものよ?」
この人は余程俺のことが気になるらしい。
困ったな……。遊紗のことを話す訳にはいかないのに。どうしてこういう時に限っていつもの『新しい彼氏』の話をしてくれないのだろうか。
俺が黙ったまま思考を巡らせていると、横から冴木が助け舟を出してくれた。
「実は、彼に大切な友人が出来たんですよ。ね、有栖?」
「あ、ああ、そうなんです」
そうか、ただ単に友人だと言えば良いのか。恋愛恋愛と言われていたので咄嗟に思い付かなかった。
あ、でも前にそう言った時、『今度連れてきて』と言われてしまったのだった。大丈夫だろうか。
「へぇー、お友達! 男の子?」
「そ、そうです……」
「良いわね! きっと気の置けないお友達なんでしょうね」
「はい。とても良い奴で。俺にも普通に接してくれます」
「あら、そう! 素敵ね~、私にもそういうお友達欲しかったわ」
彼女はにこにこと話してくれる。今のところ大丈夫そうだ。
「それにしても、あなたをここまで変えるなんて、その子に興味が湧いちゃうなぁ」
「そ、そうですか?」
「ええ。会ってみたいわ」
「あの、ですが、彼は普通の大学生なので、迷惑になってしまうと言いますか……」
「そうねえ。じゃあ休みの日に、仕事関係なくお茶とかしない? もちろんその子にカメラなんか向けないわ。プライバシーは守るもの」
「…………」
冴木、面倒くさいことになってしまったぞ。
俺のそんな視線を受けて、彼も苦笑している。
彼女にはお世話になっているから、『嫌です』とキッパリ断るのも良くない気がする。
とりあえず俺は、
「えっと、ちょっと聞いてみますね……」
作り笑いを浮かべつつ遊紗にLINEを入れてみる。これで彼が嫌だと言えば、彼女も諦めるだろう。
そう思ったのだが。
『お茶くらいならいいよ』
『僕も有栖の仕事の様子、知りたい』
こんなLINEを受け取ってしまったら、応じない訳にはいかなくなった。
遊紗を巻き込みたくないが、遊紗の望みなら叶えてあげたい。なんというか、彼のこととなるとあっさり矛盾してしまう自分が情けなくもあり、それだけ好きなんだなと再確認することにもなった。
―――――――†
更新遅くなってしまってすみません……。
現場の監督とか雑誌の編集者の方とかが全員確認して、その全員からオーケーが出れば今日の仕事は終わりだ。
その間俺はやることもないが、撮り直しになった時用にメイクはそのままでいなければならない。
俺が冴木と共に水を飲んで座っていると、例の女性カメラマンが笑顔でこちらへやってきた。
「どうしたんですか?」
「んー、ちょっとね。写真よりも気になることがあったの」
「気になること?」
「ええ。あなた本当にいい表情するようになったもの。その原因が何なのかしらって。考え事も増えたし」
「……特に理由はないですよ」
「えー、そんなわけないわ。人はね、何かきっかけがなきゃ変われないものよ?」
この人は余程俺のことが気になるらしい。
困ったな……。遊紗のことを話す訳にはいかないのに。どうしてこういう時に限っていつもの『新しい彼氏』の話をしてくれないのだろうか。
俺が黙ったまま思考を巡らせていると、横から冴木が助け舟を出してくれた。
「実は、彼に大切な友人が出来たんですよ。ね、有栖?」
「あ、ああ、そうなんです」
そうか、ただ単に友人だと言えば良いのか。恋愛恋愛と言われていたので咄嗟に思い付かなかった。
あ、でも前にそう言った時、『今度連れてきて』と言われてしまったのだった。大丈夫だろうか。
「へぇー、お友達! 男の子?」
「そ、そうです……」
「良いわね! きっと気の置けないお友達なんでしょうね」
「はい。とても良い奴で。俺にも普通に接してくれます」
「あら、そう! 素敵ね~、私にもそういうお友達欲しかったわ」
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「それにしても、あなたをここまで変えるなんて、その子に興味が湧いちゃうなぁ」
「そ、そうですか?」
「ええ。会ってみたいわ」
「あの、ですが、彼は普通の大学生なので、迷惑になってしまうと言いますか……」
「そうねえ。じゃあ休みの日に、仕事関係なくお茶とかしない? もちろんその子にカメラなんか向けないわ。プライバシーは守るもの」
「…………」
冴木、面倒くさいことになってしまったぞ。
俺のそんな視線を受けて、彼も苦笑している。
彼女にはお世話になっているから、『嫌です』とキッパリ断るのも良くない気がする。
とりあえず俺は、
「えっと、ちょっと聞いてみますね……」
作り笑いを浮かべつつ遊紗にLINEを入れてみる。これで彼が嫌だと言えば、彼女も諦めるだろう。
そう思ったのだが。
『お茶くらいならいいよ』
『僕も有栖の仕事の様子、知りたい』
こんなLINEを受け取ってしまったら、応じない訳にはいかなくなった。
遊紗を巻き込みたくないが、遊紗の望みなら叶えてあげたい。なんというか、彼のこととなるとあっさり矛盾してしまう自分が情けなくもあり、それだけ好きなんだなと再確認することにもなった。
―――――――†
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