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双方の変化
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有栖と付き合うことになって、有栖は何故かめちゃくちゃ甘えたがりになった。
出会った頃のツンツンしたクールキャラはどこへやら、僕にくっついてなかなか離れてくれない。
有栖がそうしたいなら出来るだけ応えてあげたいけど、家事が重労働になってしまうのがいただけない。
かと言って「邪魔」とか心無いことが言える訳もなく、されるがままになっていた。
有栖は冴木さんにも話したらしく、冴木さんは何も言ってこなかったけど、時折有栖をたしなめてくれた。
僕はともかく、冴木さんにとってこの状況はかなり複雑だと思う。
実の息子ではないとはいえ、息子のように可愛がってきた子が僕みたいな平凡な、しかも男と付き合い始めたなんて動揺しない方がおかしい。
普通「有栖を誑かすな」とか言われてもおかしくない状況なのに、何も言わず見守ってくれる辺り、つくづく冴木さんは出来た人なのだと思う。
有栖のことを本当に大事に思って彼の意思を尊重しているのだろう。
そんなことをぼーっと考えている間に、何だか体がとても重くなっていることに気付いた。後ろから僕をハグしていた有栖から、安らかな寝息が聞こえる。抱き付いたまま眠ってしまったらしい。
僕は抱き枕じゃないのだけど。
まあ寝心地が良いのなら良しとするか。
僕は彼の腕の中からそっと抜け出して、その場に静かに横たえた。起こさないように気をつけながら毛布をかける。
さて、今のうちに夕飯の支度をしておこう。
過去の経験のせいで、僕より体の大きな人に近付かれるのは正直結構怖いのだけど、有栖は全然そんなことなくて、一緒にいると安心する。
モデルだからと最初は緊張……というかなんというか、ぎこちない感じだった。悪意は感じなかったけど、「無理に笑うな」とか「目が笑ってない」とか今まで言われたことないことを言われてちょっと怖かったし。
…………でも、それは最初の内だけで、今じゃもう身内みたいな感覚になっている。
家族がいなくなってからずっと一人で暮らしてきたから、きっと一緒に住まわせてもらったことで気を許せたのだろう。
彼氏、彼女的なことはよく分からないけれど。
ずっと一緒に住めるのは素直に嬉しい。
それに、人に抱きしめてもらうのだって何時ぶりか分からないくらいだから、有栖が抱きしめてくれるのが何だか満更でもなくて、身も心も温かい感じがして。
ああ、僕ってこんな感情まだ持ってたんだなって。
上手く言い表せないけど、友情とは違って、でも恋愛的な感情でもなくて、家族じゃないのに家族みたいな。
うん、甘えたがりになったのは、きっと僕も同じ。
自分自身は愛せないくせに、人からは愛して欲しいなんて傲慢だよな。
自嘲気味に笑って、出来上がったクリームシチューを配膳する。
作っている間に彼は目を覚ましたようだが、火を扱っている僕にはさすがに抱きつけなかったらしい。
配膳を手伝ってくれて、冴木さんも呼んで夕飯の時間になる。
卑屈で無知で傲慢で。
だけど、そんな僕にも有栖は言ってくれるんだ。
「今日の飯も美味い」
って。
出会った頃のツンツンしたクールキャラはどこへやら、僕にくっついてなかなか離れてくれない。
有栖がそうしたいなら出来るだけ応えてあげたいけど、家事が重労働になってしまうのがいただけない。
かと言って「邪魔」とか心無いことが言える訳もなく、されるがままになっていた。
有栖は冴木さんにも話したらしく、冴木さんは何も言ってこなかったけど、時折有栖をたしなめてくれた。
僕はともかく、冴木さんにとってこの状況はかなり複雑だと思う。
実の息子ではないとはいえ、息子のように可愛がってきた子が僕みたいな平凡な、しかも男と付き合い始めたなんて動揺しない方がおかしい。
普通「有栖を誑かすな」とか言われてもおかしくない状況なのに、何も言わず見守ってくれる辺り、つくづく冴木さんは出来た人なのだと思う。
有栖のことを本当に大事に思って彼の意思を尊重しているのだろう。
そんなことをぼーっと考えている間に、何だか体がとても重くなっていることに気付いた。後ろから僕をハグしていた有栖から、安らかな寝息が聞こえる。抱き付いたまま眠ってしまったらしい。
僕は抱き枕じゃないのだけど。
まあ寝心地が良いのなら良しとするか。
僕は彼の腕の中からそっと抜け出して、その場に静かに横たえた。起こさないように気をつけながら毛布をかける。
さて、今のうちに夕飯の支度をしておこう。
過去の経験のせいで、僕より体の大きな人に近付かれるのは正直結構怖いのだけど、有栖は全然そんなことなくて、一緒にいると安心する。
モデルだからと最初は緊張……というかなんというか、ぎこちない感じだった。悪意は感じなかったけど、「無理に笑うな」とか「目が笑ってない」とか今まで言われたことないことを言われてちょっと怖かったし。
…………でも、それは最初の内だけで、今じゃもう身内みたいな感覚になっている。
家族がいなくなってからずっと一人で暮らしてきたから、きっと一緒に住まわせてもらったことで気を許せたのだろう。
彼氏、彼女的なことはよく分からないけれど。
ずっと一緒に住めるのは素直に嬉しい。
それに、人に抱きしめてもらうのだって何時ぶりか分からないくらいだから、有栖が抱きしめてくれるのが何だか満更でもなくて、身も心も温かい感じがして。
ああ、僕ってこんな感情まだ持ってたんだなって。
上手く言い表せないけど、友情とは違って、でも恋愛的な感情でもなくて、家族じゃないのに家族みたいな。
うん、甘えたがりになったのは、きっと僕も同じ。
自分自身は愛せないくせに、人からは愛して欲しいなんて傲慢だよな。
自嘲気味に笑って、出来上がったクリームシチューを配膳する。
作っている間に彼は目を覚ましたようだが、火を扱っている僕にはさすがに抱きつけなかったらしい。
配膳を手伝ってくれて、冴木さんも呼んで夕飯の時間になる。
卑屈で無知で傲慢で。
だけど、そんな僕にも有栖は言ってくれるんだ。
「今日の飯も美味い」
って。
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