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第十八話 訓練
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「模擬戦でいいよな?」
「身体強化のみだぞ」
「わーってるよ」
山の裾野外周と同程度の広さがある地下空間。主に集団での模擬戦闘に使われる、シュミレーターも備えた広大な空間で、服装をトレーニングウェアに着替えた荒隆と樹端が向かい合う。
「んじゃあ、いつも通りに」
樹端の声を合図に二人の瞳が白く発光し、彼らにしか見えない光が全身を包む。先に動いたのは荒隆だった。素早く間合いを詰めると右足で樹端の頭に上段蹴りを繰り出す。上体を逸らし、最低限の動きでそれを避けた樹端が笑う。
「模擬戦だってのに相変わらず容赦ねえな」
「模擬戦だからこそだろ」
「んじゃ、俺も遠慮なく!」
蹴りをかわした体勢から素早く攻撃に転じた樹端の右拳が荒隆の顔面を狙う。戻しかけていた右足を再び蹴り上げることで全身を回転させて樹端の拳を避けつつ、左かかとを樹端目掛けて振り下ろした。ガッという鈍い音が響く。避けきれないと悟った樹端が左腕で防いだのだ。そのまま樹端は受け止めた左脚を両手でつかみ、背負い投げる。
「これでどうだ!!」
思い切りよく地面に叩き付けたつもりだったが、そこは相手が悪かった。投げられる瞬間、軸足となっていた右で軽く地面を蹴り自ら重心を移動させていた荒隆は回転を利用して難なく受け身を取る。
「甘いな」
瞬時に体勢を立て直した荒隆が樹端に向き直り足払いをかける。
「っと!?」
それを後方に跳ぶことで避けた樹端により、二人の間合いがやや開く。次に仕掛けたのは樹端だった。思い切りよく床を蹴ると一直線に荒隆目掛けて駆け出す。
「おらぁっ!!」
その勢いのまま体当たりを繰り出すが、荒隆により容易く避けられる。そのついでと出された足に引っかかった樹端の体勢が崩れた。なんとか片手を突き出し転ぶのはまぬがれる。が、その隙を見逃す荒隆ではなかった。かろうじて踏みとどまっていた樹端の足を自らの足ですくい上げ、さらに体勢を崩させる。
「うおっ!?」
ガクンと音がしそうなほどに膝を折った樹端に荒隆の攻撃は続く。ただで攻撃を受ける訳にはいかない樹端も必死で応戦するが、体勢の優位は歴然。防御の隙をついて荒隆の拳が樹端の眼前に迫り、来る衝撃を予想した樹端が目をつむる。それが瞬き一つの間に行われたのだ。
「……参った」
恐る恐る開けた視線の先。寸での所で止まった荒隆の攻撃に、負けを認めた樹端が悔しそうに降参の声を上げた。
「あー!! また俺の負けかよ!!」
悔しさ全開で樹端が大の字に寝転がる。模擬戦闘は樹端の降参で終了となった。
「樹端は直線的すぎるんだよ。もっと相手の動きを読め」
「双也だってそうだろ?」
「双也はパワー型だからいいんだよ。お前はトリッキーに動く方が向いてると思うぞ」
「トリッキーねぇ」
模擬戦闘の結果を受けて助言する荒隆に何か思うところがあるのか、樹端が黙り込む。
「俺達の攻撃方法は肉弾戦だけじゃない。頭を使っといて損はない」
何事かを考え始めた樹端を置き去りに、荒隆はトレーニング用の地下空間を後にした。
トレーニング空間に備え付けられたシャワールームで汗を流し、着替えた荒隆は談話室へと戻ってきていた。テレビでは見慣れた女性アナウンサーがニュースを読んでいる。
「あら、意外とお早いお戻りね」
「樹端くんは?」
「樹端は一人で反省会してる」
一人姿を見せた荒隆に気付いた永那と美早が声をかけた。
「反省会?」
「あら、また樹端が負けたのね」
忠告を無視された意趣返しか、永那がわざとらしく樹端の負けを強調する。
「わかってて聞いてやるなよ」
「そう思うなら、たまには負けてあげたらどう?」
「それじゃあ訓練にならないだろ」
やれやれと言った荒隆の言葉に永那が意地悪く返す。愚問だと言いたげに会話を切り上げた荒隆の視線の先に信じられないものが映る。
「身体強化のみだぞ」
「わーってるよ」
山の裾野外周と同程度の広さがある地下空間。主に集団での模擬戦闘に使われる、シュミレーターも備えた広大な空間で、服装をトレーニングウェアに着替えた荒隆と樹端が向かい合う。
「んじゃあ、いつも通りに」
樹端の声を合図に二人の瞳が白く発光し、彼らにしか見えない光が全身を包む。先に動いたのは荒隆だった。素早く間合いを詰めると右足で樹端の頭に上段蹴りを繰り出す。上体を逸らし、最低限の動きでそれを避けた樹端が笑う。
「模擬戦だってのに相変わらず容赦ねえな」
「模擬戦だからこそだろ」
「んじゃ、俺も遠慮なく!」
蹴りをかわした体勢から素早く攻撃に転じた樹端の右拳が荒隆の顔面を狙う。戻しかけていた右足を再び蹴り上げることで全身を回転させて樹端の拳を避けつつ、左かかとを樹端目掛けて振り下ろした。ガッという鈍い音が響く。避けきれないと悟った樹端が左腕で防いだのだ。そのまま樹端は受け止めた左脚を両手でつかみ、背負い投げる。
「これでどうだ!!」
思い切りよく地面に叩き付けたつもりだったが、そこは相手が悪かった。投げられる瞬間、軸足となっていた右で軽く地面を蹴り自ら重心を移動させていた荒隆は回転を利用して難なく受け身を取る。
「甘いな」
瞬時に体勢を立て直した荒隆が樹端に向き直り足払いをかける。
「っと!?」
それを後方に跳ぶことで避けた樹端により、二人の間合いがやや開く。次に仕掛けたのは樹端だった。思い切りよく床を蹴ると一直線に荒隆目掛けて駆け出す。
「おらぁっ!!」
その勢いのまま体当たりを繰り出すが、荒隆により容易く避けられる。そのついでと出された足に引っかかった樹端の体勢が崩れた。なんとか片手を突き出し転ぶのはまぬがれる。が、その隙を見逃す荒隆ではなかった。かろうじて踏みとどまっていた樹端の足を自らの足ですくい上げ、さらに体勢を崩させる。
「うおっ!?」
ガクンと音がしそうなほどに膝を折った樹端に荒隆の攻撃は続く。ただで攻撃を受ける訳にはいかない樹端も必死で応戦するが、体勢の優位は歴然。防御の隙をついて荒隆の拳が樹端の眼前に迫り、来る衝撃を予想した樹端が目をつむる。それが瞬き一つの間に行われたのだ。
「……参った」
恐る恐る開けた視線の先。寸での所で止まった荒隆の攻撃に、負けを認めた樹端が悔しそうに降参の声を上げた。
「あー!! また俺の負けかよ!!」
悔しさ全開で樹端が大の字に寝転がる。模擬戦闘は樹端の降参で終了となった。
「樹端は直線的すぎるんだよ。もっと相手の動きを読め」
「双也だってそうだろ?」
「双也はパワー型だからいいんだよ。お前はトリッキーに動く方が向いてると思うぞ」
「トリッキーねぇ」
模擬戦闘の結果を受けて助言する荒隆に何か思うところがあるのか、樹端が黙り込む。
「俺達の攻撃方法は肉弾戦だけじゃない。頭を使っといて損はない」
何事かを考え始めた樹端を置き去りに、荒隆はトレーニング用の地下空間を後にした。
トレーニング空間に備え付けられたシャワールームで汗を流し、着替えた荒隆は談話室へと戻ってきていた。テレビでは見慣れた女性アナウンサーがニュースを読んでいる。
「あら、意外とお早いお戻りね」
「樹端くんは?」
「樹端は一人で反省会してる」
一人姿を見せた荒隆に気付いた永那と美早が声をかけた。
「反省会?」
「あら、また樹端が負けたのね」
忠告を無視された意趣返しか、永那がわざとらしく樹端の負けを強調する。
「わかってて聞いてやるなよ」
「そう思うなら、たまには負けてあげたらどう?」
「それじゃあ訓練にならないだろ」
やれやれと言った荒隆の言葉に永那が意地悪く返す。愚問だと言いたげに会話を切り上げた荒隆の視線の先に信じられないものが映る。
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