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第十七話 報告
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「共に来い。俺が言えるのはそれだけだ」
差し伸ばされた登崎の右手。戸惑いの後、荒隆は躊躇いながらその手に自らの右手を重ねていた。本当は四人と相談して決めるべきなのだろう。頭ではそう思いながら、心のどこかでこの男は信頼出来ると確信していた。
* * *
「……あんたに話す事はない」
しばしの沈黙の後、荒隆の口から出たのは素っ気ない返事だった。ある程度予想していた態度だったのか、登崎は軽く笑うと荒隆の頭をくしゃりと撫でて背を向ける。
「言いたくなったら言えよー。無理には聞かない」
いつものような軽口を叩いて、後ろ手を振りながら立ち去る登崎を荒隆は黙って見つめていた。
「脳に干渉する!?」
それまで静かだった会議室に樹端の声が響いた。
「樹端くん声大きい……」
「あ、わりぃ」
突然の樹端の大声に耳をふさいで唸る美早。
国会に乱入してから三日後。会議室には荒隆から報告することがあると呼び出された四人と登崎がいた。
「脳に干渉し、記憶にまでアプローチできるってのは確かか?」
「おそらく間違いないとみている。現に俺は心象世界って所で05と会話した」
登崎の確認を込めた質問に荒隆も偽りなく答える。
「美早の音の時点で物理だけではないと思ってはいたが……まさか脳か」
双也が唸るように呟く。
「05の記憶が正しければ、今いる子供達は身体強化までしか使えない。あの科学者、煤山の反応を見る限りでも確かだと思う」
「樹端の力を見た時の反応が演技だとは思えないし、子供達の攻撃の仕方から見ても異論はないわ」
荒隆の見立てに永那が同意する。
「肝心の05はもういないんだろ? 今の子供達が俺らと同等って可能性もまず無い。何が問題なんだ?」
「現状問題はないが、今後同じことが起きた場合の想定は必要だ」
「今回みたいに味方になってくれるとは限らないもんね」
少しばかり頭脳派とは言えない樹端からもっともな疑問が飛び出す。それに答えたのは心配性の双也と悲しそうな美早だった。この不安が杞憂で済めばいい。誰もがそう願っていた。
「主要戦力を向こうが欠いている今、分かる施設を潰しておくべきだと俺は思うんだが、どうする?」
「何事にも下調べは必要だ。それに今回みたいに怪我をした子供達を無理やり戦わせる可能性も大いにある。助けたいなら準備は万全に、だ」
荒隆の提案に登崎が答え、次なる指針が決定した。全員で頷き合うと会議はお開きとなった。
「とりあえず全員しばらくは本部待機で。情報が集まり次第指示を出す。しっかり休息取っとけよー」
そういう登崎の間延びした指示を受けて。
五人に割り当てられている居住スペースの一つである、談話室。本拠地内にしては珍しく温かみのある絨毯やソファーセット、観葉植物などが置かれている。そこに場所を移した五人は思い思いの場所に腰掛けた。最初に口を開いたのは美早だった。
「あの子達、大丈夫かな?」
美早の言うあの子達が誰を指しているのか分からない荒隆達ではない。
「生きてはいるだろう。だが……」
再会した05の姿を思い出し、言葉を濁す荒隆。美早の早く助け出したいという思いを知っているだけに、誰も気休めの声をかける気にはならなかった。
「諜報部の情報を待つしかないか」
「あーっ!! やっぱ俺はこういう頭使うの向いてねぇわ」
確かめるような双也の言葉に被せるように樹端が声を上げた。
「荒隆付き合えよ」
顎で出入口を指し示す樹端の言わんとした事を察した荒隆がやれやれといった感じで立ち上がる。
「ちょっとあんた達、休息取れって登崎が言ってたでしょ?」
「休息と訓練しないのは別だろ」
見咎めた永那が口を挟むが、樹端は屁理屈で返す。荒隆も身体を動かすのは嫌ではないので、永那の忠告を聞き流して樹端に続いた。
差し伸ばされた登崎の右手。戸惑いの後、荒隆は躊躇いながらその手に自らの右手を重ねていた。本当は四人と相談して決めるべきなのだろう。頭ではそう思いながら、心のどこかでこの男は信頼出来ると確信していた。
* * *
「……あんたに話す事はない」
しばしの沈黙の後、荒隆の口から出たのは素っ気ない返事だった。ある程度予想していた態度だったのか、登崎は軽く笑うと荒隆の頭をくしゃりと撫でて背を向ける。
「言いたくなったら言えよー。無理には聞かない」
いつものような軽口を叩いて、後ろ手を振りながら立ち去る登崎を荒隆は黙って見つめていた。
「脳に干渉する!?」
それまで静かだった会議室に樹端の声が響いた。
「樹端くん声大きい……」
「あ、わりぃ」
突然の樹端の大声に耳をふさいで唸る美早。
国会に乱入してから三日後。会議室には荒隆から報告することがあると呼び出された四人と登崎がいた。
「脳に干渉し、記憶にまでアプローチできるってのは確かか?」
「おそらく間違いないとみている。現に俺は心象世界って所で05と会話した」
登崎の確認を込めた質問に荒隆も偽りなく答える。
「美早の音の時点で物理だけではないと思ってはいたが……まさか脳か」
双也が唸るように呟く。
「05の記憶が正しければ、今いる子供達は身体強化までしか使えない。あの科学者、煤山の反応を見る限りでも確かだと思う」
「樹端の力を見た時の反応が演技だとは思えないし、子供達の攻撃の仕方から見ても異論はないわ」
荒隆の見立てに永那が同意する。
「肝心の05はもういないんだろ? 今の子供達が俺らと同等って可能性もまず無い。何が問題なんだ?」
「現状問題はないが、今後同じことが起きた場合の想定は必要だ」
「今回みたいに味方になってくれるとは限らないもんね」
少しばかり頭脳派とは言えない樹端からもっともな疑問が飛び出す。それに答えたのは心配性の双也と悲しそうな美早だった。この不安が杞憂で済めばいい。誰もがそう願っていた。
「主要戦力を向こうが欠いている今、分かる施設を潰しておくべきだと俺は思うんだが、どうする?」
「何事にも下調べは必要だ。それに今回みたいに怪我をした子供達を無理やり戦わせる可能性も大いにある。助けたいなら準備は万全に、だ」
荒隆の提案に登崎が答え、次なる指針が決定した。全員で頷き合うと会議はお開きとなった。
「とりあえず全員しばらくは本部待機で。情報が集まり次第指示を出す。しっかり休息取っとけよー」
そういう登崎の間延びした指示を受けて。
五人に割り当てられている居住スペースの一つである、談話室。本拠地内にしては珍しく温かみのある絨毯やソファーセット、観葉植物などが置かれている。そこに場所を移した五人は思い思いの場所に腰掛けた。最初に口を開いたのは美早だった。
「あの子達、大丈夫かな?」
美早の言うあの子達が誰を指しているのか分からない荒隆達ではない。
「生きてはいるだろう。だが……」
再会した05の姿を思い出し、言葉を濁す荒隆。美早の早く助け出したいという思いを知っているだけに、誰も気休めの声をかける気にはならなかった。
「諜報部の情報を待つしかないか」
「あーっ!! やっぱ俺はこういう頭使うの向いてねぇわ」
確かめるような双也の言葉に被せるように樹端が声を上げた。
「荒隆付き合えよ」
顎で出入口を指し示す樹端の言わんとした事を察した荒隆がやれやれといった感じで立ち上がる。
「ちょっとあんた達、休息取れって登崎が言ってたでしょ?」
「休息と訓練しないのは別だろ」
見咎めた永那が口を挟むが、樹端は屁理屈で返す。荒隆も身体を動かすのは嫌ではないので、永那の忠告を聞き流して樹端に続いた。
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