妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

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13話 月夜の誓いは二人だけ

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「うん。ここまでこれば、ひとまず大丈夫かな」
「……ありがとう」

屋敷の勝手は、住んでいたからよくわかっていた。
別棟の裏口から二人、無事に屋敷を抜け出す。
隣接する雑木林の中に飛び込み、そこで下ろしてもらった。

念のため忍び足で林を奥へと進んでいく。
抜けたところに、馬車を控えさせているらしい。

死がそこまで迫っていたことを忘れさせる一秒一秒だった。
落ち葉を踏みしめる音も、空から淡い光をくれる月光も、繋いだ手から伝わる彼の温もりも、私を死から遠ざけていく。

小さな池を横切った。
その水面に、エライザそのものの自分の顔が写っていて思い出す。

「そういえば、どうして私だって分かったの。同じ見た目だったのに」
「見間違えるわけがないよ。だって君は君だ」
「……化粧くらいじゃお見通しってこと?」

それはそれで、少し堪えるものがあった。
けれど、

「そうじゃないよ」

こう言って、前を歩いていた彼は立ち止まる。
急だったものだから止まりきれず、手を繋いだまま彼の胸にぽふりと埋まる。

背中を抱かれた。

「俺は君の外見とか声とか、そういうのだけを愛しているわけじゃない。
 だから分かったんだよ、なぜか。あの部屋に入った時から、分っていたさ。エライザの演技には、戸惑ったけどね」

これくらいのことは今までも何回もしてもらった。それこそ今日だって、抱きしめ合って別れた。

なのに、恥ずかしくて仕方ない。顔にのぼりくる熱の一切合切がままならないのは、なんのせいにすればいいのだろう。

気のせいでは、もう済ませられない。

「……アルフレッド。本当にありがとう。私を助けてくれて
「いいよ。夫婦になるんだ。貸し借りなんて、一つずつ数えてられないさ」

「……そっか、なれるんだね」
「うん。今ごろ、エライザも捕まっているはずさ。俺が連れてきたのは、普段は傭兵をやってる連中だからね。
 それに、悪事の証言なら問題ない。警備隊の人たちは問い詰めれば口を割るさ」

思い返してみると、金に釣られて動いていたっけ。
そんな彼らが、保身と忠義どちらを重んじるかなど問うまでもない。

「なぁ、バレッタ。好きだ」
「…………また唐突に、どうしたの」
「言いたくなったから、じゃいけないか? 絶対もう一人であんな真似するんじゃないよ。どうしでもやるなら、俺も手伝うさ」

アルフレッドの手が腰から離れ、代わりに頬を優しく包み込む。

ほんのりと唇の皮がふれる程度のキスをした。

生きていないと味わえない、その痺れる甘さに、私はもう一度もう一度と求める。

今度は少し深いキス、唇の感触とか彼の熱とか全てが飛んだ。
確かな愛を感じて、体が浮かされる。

「ごめん、先走ったよ。明日するべきだったのにな」
「…………その、もう少し」
「俺もそうしたいと思っていたよ」

誰も見ていない真夜中の雑木林。
本来の結婚式より、ほんの一夜だけ早く交わされた愛の誓いを知るものは、この世で私たちだけだ。
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