【完結】英雄小学生アフター~氷の女王と春の歌姫~

森原ヘキイ

文字の大きさ
30 / 124
第二章 イベント荒らして、ごめんなさい

2-5

しおりを挟む
 開始の合図とともに、参加者たちが一斉に動き出した。氷を削る激しい音を立てながら、ペンギンロボットたちに向かっていく。

 これはペアで参加して、とある対象を捕獲するイベントだ。それなら当然、二人で協力しながらロボットを追い詰めることを選択するだろう。さっきの体育会系先輩後輩ペアはもちろん、ほかの参加者たちも明らかに挟み撃ちを目的として動いているようだった。――ただし、例外が一組。

「二人とも……?」

 エリヤとユウは、ロボットを追いかけるどころか、その場から一歩も動かない。逆に、追われて逃げてきたペンギンたちが、二人の足下にわらわらと集まってきている。
 エリヤの深いため息が、少し離れたマコトの耳にも届いたような気がした。やがて、形のいい指先が、ゆっくりとフードの端をめくり上げていく。
 ひとりの男子中学生が、その素顔をさらけ出す。たった、それだけのことで。

 ――世界が、変わった。

 エリヤを中心とした一定の範囲が、まるで別の空間に切り替わったかのような衝撃が走る。
 目に見えてなにかが変化したわけではない。けれど、空気の圧力が。空気の温度が。空気の色彩が。重く、温かく、美しくなっていく感覚を、マコトは確かに感じていた。

 耳に痛いほどの静寂が、リンクの内外を包み込む。参加者も、観客も。誰も喋らない。誰も動けない。イベント用の音楽だけは止まらずに流れ続けているものの、それを音として認識することを脳が忘れている。

 例えば、目の前に突然オーロラが現れたら、こんな反応をするんじゃないか。
 絶滅したはずの恐竜たちが大群で現れたら、こんなふうに驚くんじゃないか。

 語彙力の乏しいマコトには、そんな表現しか思いつかない。いや、そもそも言葉なんかで説明しようと思うほうが間違いだ。彼を表すのに最適な言語を、人類はまだ見つけられていないのだから。
 黒鐘エリヤとは、そういう存在であり――そしてそれは、人ではないものにも伝わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワンダーランドのおひざもと

花千世子
児童書・童話
緒代萌乃香は小学六年生。 「ワンダーランド」という、不思議の国のアリスをモチーフにした遊園地のすぐそばに住んでいる。 萌乃香の住む有栖町はかつて寂れた温泉街だったが、遊園地の世界観に合わせてメルヘンな雰囲気にしたところ客足が戻ってきた。 クラスメイトがみなお店を経営する家の子どもなのに対し、萌乃香の家は普通の民家。 そのことをコンプレックス感じていた。 ある日、萌乃香は十二歳の誕生日に不思議な能力に目覚める。 それは「物に触れると、その物と持ち主との思い出が映像として見える」というものだ。 そんな中、幼なじみの西園寺航貴が、「兄を探してほしい」と頼んでくるが――。 異能×町おこし×怖くないほのぼのホラー!

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

カメをひろう

山碕田鶴
絵本
カメを拾いました。カメと生活してみました。

童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ…… 誰もいない野原のステージの上で…… アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ——— 全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。 ※高学年〜大人向き

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち

はるかず
児童書・童話
生まれることもできない卵の雛たち。 5匹の殻にこもる雛は、卵の中でそれぞれ悩みを抱えていた。 一歩生まれる勇気さえもてない悩み、美しくないかもしれない不安、現実の残酷さに打ちのめされた辛さ、頑張れば頑張るほど生まれることができない空回り、醜いことで傷つけ傷つけられる恐怖。 それぞれがそれぞれの悩みを卵の中で抱えながら、出会っていく。 彼らは世界の美しさを知ることができるのだろうか。

処理中です...