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第398話 光竜連峰の戦い 決着

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「な、何事だ!?」

ファフニルと死闘を繰り広げていたヴリトラは、突然自分の力が急激に弱まって行くのを自覚していた。それは彼だけにとどまらず周囲で戦っている黒いドラゴン達も同様で、事態が把握できず戸惑う間にファフニル達光に属するドラゴン達の攻撃を受け、次々と地上へと叩き落されていく。

「どうやら勝敗は決まったようですね。その力の衰え具合……邪神が再び封じられたのでしょう。エストがやってくれたようです」
「お、おのれ……! ネメシスめ! 今度こそはと期待して力を貸してやったものを!」
「邪悪な力に頼るからそうなるのです。観念なさいヴリトラ!」

ファフニルとヴリトラは幾日も戦い続け、どちらも体に蓄積したダメージが酷い。普通のドラゴンならとっくに死んでいてもおかしくないような傷を体中に受けて戦えるのは、流石にどちらもドラゴンの群れを束ねる長だと感心出来るが、ここに来てヴリトラの急激な力の衰えは勝利の天秤を大きくファフニル側へと傾ける事となった。

気力を振り絞ってブレスを撃つ準備に入るファフニル。逃げるかどうかを一瞬迷ったヴリトラだったが、今逃げても背後から撃たれるだけと思い直しこちらもブレスの準備に入る。二匹のドラゴンの身体から凄まじいほどの魔力が膨れ上がり、臨界に達した瞬間互いの口から白と黒のブレスが吐き出された。それは空中で激突し、再び光竜連峰全体に猛威を振るう。

(な、なに!?)

戦いが始まってから何度目かになるブレスのぶつかり合い。それはいずれも両者相打ちになる形で終わっていたのだが、今回に関しては違っていた。邪神の影響で力を増していたヴリトラのブレスは時間が経つごとに威力が弱まり、次第にファフニルの吐くブレスに押され始めたのだ。

(く、くそっ!)

ここで押し切られては命が無い。何としてもこの状況から逃れ、他の者を犠牲にしてでも生き残らねばならない。まだ近くに居て戦う事が出来るドラゴンは居ないかとチラリと視線を横にずらしたその瞬間、一瞬の油断を突くようにファフニルから放たれるブレスの圧力が急激に増した。

(ま、まずい! 誰か助け……!)

己の吐いたブレスを蹴散らしながら目前に迫る白い光。視界を埋め尽くすその光に助けを求めようとしたヴリトラは、その思考を産む頭部をブレスで粉砕され、力なく地面に向けて落下して行った。

「……あなたとの腐れ縁もここまでですねヴリトラ。今度生まれて来る時は、邪神などに頼ろうとしない健全な精神を持つ人物になりなさい」

落ちていくヴリトラを見ながら、ファフニルは少し寂しそうにそうつぶやくのだった。

------

エスト達の活躍により戦争は終結した。人間の領域に南下してきた魔王軍は撤退を開始し、膨大な犠牲を払いながらも命からがら魔族領に逃げ帰った。人々は勝利に沸き返り、単身乗り込んで魔王を討ち、邪神を封印した勇者達を口々に褒め称えた。しかしそれは直接魔王軍の被害に遭わなかった人々だけで、家族や財産を無くし、やり場のない怒りを勇者にぶつける者も少なくなかったのだ。なぜもっと早く魔王を倒さなかったのか、なぜ自分達を助けてくれなかったのか……と。その話を聞いた時、領地に帰還したエストは首をかしげて困惑しながら、気だるげにこう言い放ったという。「そこまで責任持てるか」と。

戦争が終結して約一か月の間、戦場となった各国は被害に遭った自国民の救済や後片付けに追われる事になった。国民の救助の次に優先されたのは大量に残された敵味方の死体の処理だ。放っておいたら国中にアンデッドが大量発生する事態になる為、それらの処理は夜を徹して続けられた。誰もが魔法を使える訳では無いので、一時的に大陸中の油が値上がりすると言う困った事態を引き起こしたものの、それらは時間の経過とともに落ち着いて行った。

この戦いにおける連合軍の被害者数は戦死六万、負傷者は軽くその倍に上り、民間人の死者だけでも数万単位になる大きな被害を受けていた。中でも前線の主力であったバックス、グリトニル、リオグランドの被害は酷く、正規軍のほぼ半数以上が壊滅すると言う国の治安維持すら難しい状況となっていた。親を失った孤児などは急ピッチで建てられた新たな孤児院に送られ、働き手を失った者や戦死した兵士の遺族には一時金を支払う。アルゴスやガルシアなど直接国土を荒らされなかった国々からの支援はあったが、焼け石に水だ。

そんな状況でエストの主張した魔族領の占領政策が受け入れられるはずもなく、各国が復興に追われる中、魔族領に逃げ帰った魔族達は四天王の生き残りであるランスとフューリを筆頭に、合議制と言う新たな政治体制で建て直しを図るのだった。

「結局、今回の戦争で得したのは俺達だけって事か?」
「まぁ……厄介事を押し付けられただけって感じもするがな」

アミルの言葉にエストが半分だけ同意する。戦争が終わってしばらく経つと、エストの領地は以前の倍ほど大きくなっていた。新たに獲得した領地の大部分は事前に取り決めてあったガルシア王国からの割譲だったが、グリトニルからも多くの領地をそのまま分け与えられる事となったのだ。今回の戦争で大きな被害を受けたグリトニル聖王国は、比較的貧しい土地である南部の土地……つまりエストの領地に面する村々を新たにエスト達の領地としたのだ。表向きは世界を救った勇者に対する褒美となっているが実情は違う。国全体の面倒を見きれないので、飢え死にしそうな国民ごとエスト達に押し付けたのだ。

「幸い我が領は被害が軽微ですし、多数の難民を受け入れても十分養える資金や食料を備蓄しています。籠城用に増産していた田畑をこのまま維持すれば、問題なく彼等を取り入れる事が出来るでしょう」
「そりゃよかった。その辺はルシノア達に任せるよ」

こうして多くの傷跡を残した戦い……後の歴史で『邪神戦争』と呼ばれる事になる戦いは終結した。
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