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(えっと、色々とこの場面に戻ったら、こうしようとか。色々と考えていたはずなのに。やることがなくなってしまったわね)


そんなことを思いながら、ウェディングドレスを脱ごうとした。

姿見鏡に己の姿を見た。怒り狂う顔をジャスミンはしていなかった。黒髪の頃のもう一人の自分のように穏やかな顔をしていた。


(ここでは、この髪色が自慢だったのに。ちょっと物足りなく思えるわ。……あの世界で、目一杯生きたから、思い残すことなんてないと思っていたけれど。ここに戻ってみると何もかもが、思っていた通りより良い方向に向かっているというのにあの人がいないと思うと気持ちが沈むわ。……人間って、欲張りな生き物ね)


ジャスミンは、この姿をして隣に立ちたいと思える人とこの世界で出会えていないことに泣きそうになっていた。きっと、どこかですれ違ってしまったのだろう。この先の未来で会えるかもしれない。


(……会えるかも、なんて曖昧なのは嫌だわ。私から探しに行こう)


そんな決意を新たにしていた。どうしても、ウェディングドレスを脱ぐ前に教会のステンドグラスを見たくなってしまった。

この世界の女性たちは、あの見事なステンドグラスの前で永遠の愛を誓うことに何より憧れていた。ジャスミンは、そこで彼を探すことを誓おうと思っていた。


「ジャスミン。まだ、着替えていないのか?」
「えぇ、ごめんなさい。せっかく、オーダーメイドで作ってもらったウェディングドレスなので、この姿でステンドグラスを見たいと思ってしまって……」


それを聞いて、父親だけでなくて、母親も悲しげにした。泣き腫らした顔をしている母が、更に泣いてしまって、ジャスミンは申し訳ない気持ちになってしまった。


「そうか。わかった。お前のしたいようにしなさい。教会の人たちにも、伝えておく」
「ありがとうございます」


両親は、先に帰っていると言った。ジャスミンの友達の令嬢たちも、ジャスミンのことを心配しながら、みんな帰ったようだ。

静まり返った教会をジャスミンは歩いていた。


(っ、本当になんて素敵なのかしら)


ジャスミンは、ステンドグラスを見上げていた。ここで、死のうなんて思っていたなんて以前のジャスミンは、どうかしていたと思えていた。


(ここで、結婚をすることに憧れるのがよくわかるわ。……私も、いつか、あの人を見つけられたら、想いが通じることができたら、ここで式をしたいものだわ)


そんなことを思って泣きそうになっていた。

どのくらいそこにいただろうか。ジャスミンは、もうここに用はないと思って、流石に着替えて帰ろうと思ったのだが、ふと視線を感じて、そちらを見ると……。


(え……?)


そこにあの世界で添い遂げたディミトリウスが、そこに立っていたのを見つけて、ジャスミンは固まってしまった。


(どうして、彼がここにいるの? 招待客の中に彼がいたってこと……? そんなわけないわ。ディミトリウスなんて名前の招待客は、いなかったはずだもの)


ジャスミンは、振り返って立ち尽くしている彼を見て混乱していた。


「……突然、すまない。少し、いいだろうか?」
「えっと」
「失礼。名乗っていなかったな。私は、ディミトリウス・ヴィゲンシュタイン。今日、招待された客ではないんだ」
「っ、」


(やっぱり。なら、どうして……?)


ジャスミンは、わけがわからずにいた。ここにいるわけがない。でも、会えたことが嬉しい。今さっき、どんなことをしても探して見せると思っていたのにあっさりと出会ってしまったことに動揺していた。

あちらが、ジャスミンの方に来ようとすると身体がその分、離れようとしてしまっていて、彼はそれを見て近づくのをやめていた。


「その、君には奇妙なことに聞こえると思うが、呼ばれるような知り合いでも何でもないんだ。でも、この結婚式をぶち壊したのは、私なんだ」
「え?」


(何で、ディミトリウス様が……? そもそも、ここではまだ出会っていないはずなのに)


「君を見つけた時には、婚約者がいたんだ。また、あいつと婚約しているのを見て、すぐに破棄になるものと思って長らく様子を見ていたんだが、一向に破棄にならずに結婚すると聞いて、居ても立っても居られなくなって、調べあげたんだ。君に相応しい男だと思ったら、きっぱりこの想いを諦めようと思ってのことだったんだが、そしたら、きっぱりなんて諦められるような男ではなかったんだ。浮気しているのを知って諦めるどころか、それでぶち壊せると思って式の前にぎりぎりになったが、バラまくことができたんだ」
「……」


(この言い方だと、この方も、私のことを覚えているってことになるの……?)


それこそ、あの世界からここに戻って来たのだが、ついさっきのジャスミンとは違い、ディミトリウスの方はかなり前からジャスミンのことを探していたようだ。

そのせいで、こんな出会い方をしたようだ。


「すまない。君が、他の男と結婚するのをどうしても止めたくて、こんな風にぶち壊すようなことをしてしまって。それに私のことを君は覚えては……」
「ディミトリウス様」
「っ、」
「私の話も、聞いてくれますか?」
「君の話……?」
「えぇ、私も、この結婚式をぶち壊そうと思っていたんです」
「え?」


ディミトリウスは名前を呼ばれて嬉しそうにしたが、ジャスミンが話を聞いてほしいと言うと不思議そうにしつつ、同じことをしようとしていたとわかって驚いていた。


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