24 / 42
23
しおりを挟む自分の周りには、そんなルパートをシスコンだと馬鹿にする者が多いが、トレイシーはよい兄がいて羨ましいと言ったのだ。
「っ、そう、思うか?」
「思います。……羨ましいです」
それが、ルパートはとても嬉しかった。妹は、婚約者を亡くして以来、塞ぎ込んでいた。もう何年にもなるが、未だに癒えない心の傷を持っている。
あまりに突然、愛してやまない婚約者を亡くしたのならば、そうもなるだろうとルパートは思っていた。
だから、この国に来て養子に出た弟の様子を見に行きつつ土産を買って、その話をしに行く口実を作っていた。そうでなければ、会いに行くのもネタ切れなのだ。
そんな話までしてはいないが、トレイシーはわかってくれている気がして不思議な気分になってしまった。
それもあり、ルパートは益々ほっとけないとトレイシーの話を聞くことにした。
「他の国で、私でも歩いて行けそうなところをご存じですか?」
「歩いて行けるところは難しいな。そこに行っても、記憶がなければ親戚を頼るのも難しいだろ」
「そうですね。まぁ、そこは、住み込みで働けたら何とかなるかなと」
「貴族令嬢が、街で働くのか? 記憶もないのに?」
「ん~、まぁ、なるようになりますよ」
「……」
トレイシーは、もう笑っていいのか。泣いたらいいのか。わからない顔をしていた。
そんな顔して、妹は婚約者を亡くしてから戻って来た。ルパートは、その顔が妹と重なって見えて胸を締め付けられた。
トレイシーとこのまま別れたら、一生悔いが残る。そう感じた。
「私と来るか?」
「え?」
「見ての通り、仕事が終わって、ここの近くまで来たから、親戚に顔を出してから帰るところなんだ。家は隣国にある。仕事仲間と合流して、帰るだけだが、君も来るか?」
トレイシーは目をパチクリとさせた。ルパートは突然、そんなことを言っても行くとは言いづらいだろうなと思っていた。
「……それって、歩きですか?」
「いや、馬だ。……そうだな。馬車を手配しよう。それと食料と着替えだな」
「? 帰るだけなのですよね?」
ルパートは、トレイシーのためにあれこれ用意しようとしたが、トレイシーは世話になりすぎても心苦しいからと言うと馬に相乗りさせてくれることになった。
彼は、隣国で騎士をしているようだ。親戚と言ったが、養子に行った弟が気になって近くまできたからと様子を見に行ったと相乗りしている時に教えてくれた。
(なんか、妹扱いされている気がする)
トレイシーの勘は当たっていた。
更には、養子に行った弟から学園で色々あった話を聞いているようにトレイシーには思えた。
トレイシーが王太子を庇って怪我した令嬢だとピンときていたとも知らず、ましてや王太子が保身に走って嘘をついたことで、詳しく調べる事態になっていることも大体聞いていたようだ。
それが、記憶を失くしているとまでは思っていなかったようで、彼の弟はトレイシーを心配してくれていたようだ。
(申し訳ないわ。私は、名前を聞いても、顔も思い出せないのに)
木登りに負けた挙げ句、高いところから降りられなくなって、令嬢を真似ようとして失敗したと聞いただけでも、情けないと思わないはずがない。
それ以上に助けられておいて、王太子に怪我をさせようとしたと言われることにまでなった令嬢に同情していたが、記憶がないとまで聞いてはほっとけなくなったというより、トレイシーが妹に似ているのが一番の理由だった。
妹が、ラヴェンドラから戻って来た時に感じた危うさをトレイシーから感じて、そのままになんてできなかった。
それは、弟から色々聞いていなくとも、トレイシーをほっとけはしなかっただろう。
だが、当の本人は……。
(街を見ていても懐かしいと思えなかった。前の私は、どんな令嬢だったんだろう?)
人の話を聞いて、それをルパートの求める答えを探す手助けに利用できた。それがわかっただけで、トレイシーは自分がどこであろうと生きていけると自信を持てた。
こうして、勘当され、国からも出て行けと言われた通りにトレイシーは、思い入れもなくなった国から別の国に行くことになった。
23
あなたにおすすめの小説
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。
学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。
そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。
しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。
出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する――
その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。
【完結】赤い薔薇なんて、いらない。
花草青依
恋愛
婚約者であるニコラスに婚約の解消を促されたレイチェル。彼女はニコラスを愛しているがゆえに、それを拒否した。自己嫌悪に苛まれながらもレイチェルは、彼に想いを伝えようとするが・・・・・・。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》1作目の外伝 ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』のスピンオフ作品。続編ではありません。
■「第18回恋愛小説大賞」の参加作品です ■画像は生成AI(ChatGPT)
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる