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千沙都は、寧々に聞かれて一希の好みを口にした。これもまた、もう何回目になるかわからない。猫好きな千沙都は、口にするのもげんなりする言葉を口にした。


「犬好き」
「え? 犬好き??」
「そう、まずは無類の犬好きが必須条件」
「……そんなに犬が好きなの?」
「本人が、そう言ってるから。好み聞かれたら、そう言ってくれて言われてる」
「そんなこと言うんだ」


そう、顔の好みや性格やら体型やらではない。一希の1番上にいつもある女の子の好みは、犬をどれだけ好いているかなのだ。


(そこまで好きなのに。愛犬のことを忘れて自分だけで散歩してるのよね。それなのに無類の犬好きだって言えるのも、どうかと思うけど)


寧々は、千沙都の言葉に机に突っ伏していた。何やらショックだったようだ。


(この反応は、あんまり見なかったな。まぁ、顔だけは無駄にいいからな。寧々も、可愛いから隣に並んでるとお似合いに見えるけど、全く応援できないり全力でやめるように言っちゃうな。もっといい男が他にいるから早まるなって)


友達の反応に千沙都は、そんなことを思ってしまった。これもまた口にはしなかったが。そんなこと考えていたなんてわからないような何でもない顔を千沙都はしていた。寧々が見ていてもわからなかっただろうが、千沙都のことなど彼女は見てはいなかった。


「もう、そこで駄目だわ。私、猫好きだもの」
「だよね。私もよ。猫大好き! 趣味、猫カフェ巡りと猫溜まり探しだもの」
「え? そうなの? でも、やたらと猿渡くんの飼ってる犬の心配してない?」
「そりゃ、あの家のみんな、犬好きなんだけど、特殊だから」
「特殊……?」


寧々は、千沙都の言葉の意味を正しく理解するのに大して時間はかからなかった。ただ、その時は全く意味不明な顔をしていた。無理もないが。

だが、他のクラスメイトたちが千沙都たちの会話を聞いていたようで、これ幸いとばかり便乗することにしたようだ。その中の何人かの女子生徒は自分は犬好きだと言い出して、会話に入ってきたのだ。これも、よくあるパターンだ。本当に見た目だけがいい幼なじみがいると面倒くさくてかなわない。


「ねぇ、それ以外にないの?」
「ただの犬好きじゃ駄目。無類のってつくくらい犬好きじゃなきゃ、あいつは認めない」
「無類の犬好きって、わかりづらくない?」
「前にただの犬好きの女の子に次の好みを教えて、どんぴしゃだからってせがまれて紹介したら、つきまとわれたらしくて、とんでもない嘘つきを紹介したって、散々に言われたことあったから。これでわかると思うけど、嘘つきが好きじゃないわよ」


(でも、バレなきゃいいみたいだけど。相手にされるのは嫌でも、自分は嘘をつくのよね。そこが、私は気に入らないところだけど)


そんなことを思いつつ話せば、くいついて来た女子生徒はあてはまらないとしょげていた。そこまで、しょげるような対象ではないと千沙都は何とも言えない顔をして見ていた。


「あー、私には無理だな。犬は好きな方だけど、そこまでじゃないや」
「私は、好きな方だけど、無類のレベルがわからないな」
「犬の種類にやたらと詳しいとか。柴犬のことで、知らないことないくらい詳しいとか。あいつが語りだしたら、数時間は平気でしゃべるわよ」
「……それは、ついていけないかも」
「千沙都は、それよく聞くの?」
「まさか。私が猫好きなの知ってるから、幼なじみとしては大して語ってないつもりよ。それでも、最終的には、猫好きに無駄に語ったみたいに言われるけど」
「「「「……」」」」


それを聞いて、何とも言えない空気になっていた。猫好きに犬の良さなどわからないと思っていて、千沙都のことをその辺で一希は見下しているのだ。何なら猫好きすら、馬鹿にしているのだ。


(まぁ、その犬好きが蓋を開けるとおかしなことになってるんだけど、そこまで話すことではないわね。見た目で、良さげだと思うせいか。それでも、犬好きなふりをする強者も前はいたけど、この引きっぷりからするとそんな強者は、この中にはいなさそうね)


千沙都は、そんな風にクラスが一緒になった女子生徒を見ていた。


「……なんか、見た目と違って面倒くさそう」


ぽつりと呟いたのは、寧々だった。他の女子生徒も、そんな印象を持ったようだ。そうでなければ、このあと一希に自分を紹介してくれと千沙都は言われているところだ。そう言って来る女子がいないことに千沙都はホッとしていた。


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