初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第3章

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客からも、味は同じで変わっていないはずなのに寂しくなってしまったと言われて、客足も落ち込んでいるところだったようだ。

味は同じでも雰囲気が変わりすぎて、相乗効果がなくなってしまったのも原因だろう。

それに看板娘に会いたくて来ていたのなら、会えなくなったことで寂しくて、足が遠のくのも仕方がない。楽しい時を覚えているのだ。もう少し落ち着いたら、料理が恋しくなって、戻って来るはずだ。

そんな時にウィスタリアと……いや、リーリエと出会ったらしく、そんなところでそんな素敵な人たちのように働ける自信などなかったが、生活がかかっている。

こんなチャンスを逃したら、路上で野垂れ死ぬこと間違いなしだ。逃してしまうわけにはいかない。

今のリーリエに頼れる人は、1人もいないのだ。これを逃したら、見つけられないだろう。


「どうだい?」
「私、働いたことないんです。でも、一生懸命に覚えます。働かせてください」


そう言ってから、名乗っていないことを思い出してお互い名乗りあった。

リーリエの命の恩人となった彼女の名前は、ローザ・ヴィーラント。その後、ローザを心配して様子を見に来た嫁と孫娘とも、リーリエは知り合いになり、すぐに仲良くなった。

気立てがよいだけあって、色々あって雇うことになったことを話さずとも、わかってくれる人たちだった。

恩人の嫁は、リーリエにこんな事を言った。


「リーリエちゃん。家庭教師に向いているわ」
「え、そ、そうですか?」
「文字もかけるし、この店の帳簿も、私が手伝っていた頃より、断然いいわ。教えるのも上手だし。娘が、あんなに楽しそうに勉強してるの初めて見たもの」


そんな風に褒められてもリーリエは複雑なものしかなかった。


(中身が、ウィスタリアだった頃を覚えているから、読み書きも、勉強も、何なら帳簿も、あの家のためになると思って必死に覚えたのが、今になって役に立っているだけなのよね)


事業計画を書き上げるのにその辺を覚えたこともあり、帳簿付けなら難なくできた。計算も、早くできるようになったが、今でもそれは使えることにありがたいと思いつつ、不思議でもあった。

だから、他で雇われなかったのを不思議がられたりもした。貴族の中には、見る目がないのがいると怒る人もいたが、リーリエは曖昧な顔をして苦笑するしかできなかった。


「リーリエちゃんが、来てくれて本当に良かったわ」


そんな風に言ってくれる人は、徐々に増えていった。

それは、リーリエには複雑でありながらも嬉しいことでもあった。


(リーリエを必要だと言ってくれる人が増えていくのは、やっぱり嬉しいわ)


そう思うと笑顔になるのを止められなかった。


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