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しおりを挟む一方のヴィクトリアの方はというと……。
「ちょっ、離しなさいよ! どこまで、連れて行く気よ!?」
「あなたを国境まで、お連れするように承っております」
「はぁ? 何で、国境まで行くのよ。そんなところまで送らずにヴァヴィロフ侯爵家に送ってよ」
「……」
ヴィクトリアは、この期に及んでアナスタシアの家に行こうとしていた。絶縁しているのを綺麗さっぱりなかったことにしているようだ。
だが、それを聞くわけがない。ヴァシーリーの護衛だ。何があったかを知っているのもあり、ヴィクトリアをヴァヴィロフ侯爵家に近づけることはなかった。
「もう、信じられない! 本当にここまで送るなんて」
ブツブツと文句を言っていた。
「ヴィクトリア嬢」
「あら、迎えに来たの?」
「はい。お送りするように仰せつかっております」
国境付近には、カーメネフ公爵家の執事がいた。彼は、ヴィクトリアを様ではなく、嬢と呼んでいたが、その違いに気づいていなかった。
それに気づいて執事は内心、ため息をつきたくなったが、もう少しの辛抱だと思って、いつも通りにした。
「流石は、お父様ね。もう、信じられないわ」
「……」
グチグチと文句を言うヴィクトリアを馬車に乗せて、送って来た護衛に深々と執事は頭を下げた。
礼の1つも言わないのは、いてものことだ。それすらできないのが、カーメネフ公爵家の令嬢だったのにごんなりしていた。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「いえ。我々は、ヴァシーリー殿下に頼まれただけですね。……これから、どちらに?」
「子爵家にいる婦人のもとに送って、戻ります」
執事の言葉にやっぱりなと護衛は思ったが、ずっと自分の立場を欠片も理解できないヴィクトリアに付き合っていた護衛たちは、疲れた顔をしていた。
「お疲れになったでしょうね」
「まぁ」
「私も、時期に解放されます」
そんなことを執事は、しみじみと言った。ヴィクトリアのことで、色々ありすぎたのを察するには十分だった。
そこから、護衛はヴィクトリアたちを見送った。
「あんなのに付き合うなんて、俺なら転職を考えます」
「私もだ。……戻るぞ」
つい、そんなことを口にしてしまったが、それは本心からだった。
「着きました」
「……は? ここ、お祖父様たちの家じゃない」
「ここにあなたのお母様がおられます。後のことは、母君にお聞きください」
「はぁ?! 何でよ!」
ヴィクトリアは、離婚は誤報だと思っていた。
「カーメネフ公爵家にあなたの居場所は、もうありません」
「執事の分際で、何を言うのよ!」
「旦那様が、修道院以外の選択肢は勘当しかないと言ったのをもうお忘れですか?」
「っ、それは、お母様がどうにかしてくれているはずよ」
「どうにもなりません。離婚が成立しています。あなたは、もう公爵令嬢てはありません。ですので、あなたの命令に私が従う義理はありません」
執事はそれだけ告げて、さっさと帰った。
喚き散らすヴィクトリアのことをそこから完全に無視した。
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