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しおりを挟む「アナスタシア」
「ヴァシーリー」
次の授業で、2人はお互いを見てホッとした。
「リュドミラ。気分が優れなかったと聞いた。大丈夫か?」
「ご心配おかけしました。……朝から、不思議な方にお会いして、思いのほか疲れてしまったようです。ですが、休んだら、すっかり良くなりました。アナスタシア、付き合わせてしまって、ごめんなさいね」
「いえ、お気になさらないでください」
「そうか。アナスタシア嬢が一緒にいたのか。それなら、安心だ。ありがとう」
王太子は、リュドミラの言葉に応えてアナスタシアに笑顔で礼を言った。ヴァシーリーの選んだ婚約者だからこそだろう。
「アナスタシア、気分は?」
「平気よ。リュドミラ様が、気を利かせて休ませてくれたから」
「昼食は、胃に優しものを頼んでおいた」
「え?」
「なんだ? ガッツリしたのがよかったか? 私は、それにしたが」
「お昼から、ガッツリにしたの?」
「した。あんなの相手にしたら、腹減った」
ヴァシーリーは、そう言ってお腹を擦った。アナスタシアは、胃が痛んだのに気づいていたことに驚いていた。
「兄上は、何かあるとガッツリしたのを食べますよね」
「あら、そうなのですか?」
リュドミラは、王太子の言葉に楽しそうにした。
それにアナスタシアは、思案した。そう言われるとそうだ。
「私も、兄上と同じのを食べようとしたが、中々食べきるのが難しかった」
王太子は、少食な方だ。それにガッツリしたメニューより、魚が好みなはずだ。でも、昔から兄のやることなすことを真似ようとしているようで、それをリュドミラは微笑ましそうに聞いていた。
体型も、ヴァシーリーがガッチリしている。それに比べたら、王太子はすんなりしている。かといって、なよなよしているわけではない。
まだ、昼食まで時間があるのに食べものの話をしていた。
アナスタシアは、なんだかんだ言っても、両親よりも見てくれている存在がいることに自分は恵まれていると思っていた。
「アナスタシア」
「ん?」
「そんな顔をするな」
「?」
「食べたくなる」
「……」
ぼそっと言うヴァシーリーの声にアナスタシアは、きょとんとした。腰に回されたヴァシーリーの腕にアナスタシアは気づいて、逃れようとした。でも、びくともしなかった。
「ヴァシーリー様。デザートは、食後になさってね」
リュドミラが助け舟を出してくれた。バッチリ聞こえていたようだ。それにアナスタシアの頬が赤くなる。
だが、王太子は文字通りに捉えて、こんなことを言った。
「? 兄上が、甘い物を食べたがるなんて珍しいですね」
「病みつきになるのに出会ってな」
ヴァシーリーが図に乗ってアナスタシアのことを触る手を抓った。
「っ、」
「兄上?」
「何でもない」
リュドミラは、それにくすくすっと笑っていた。他の生徒たちも、微笑ましそうにしていたから、バレていたはずだが、アナスタシアはこの日だからと言って離れることはしなかった。
いつもなら、警戒して離れるが、色々と助けてもらったのもあり、再確認したこともあって、ヴァシーリーの側にいた。
それに気づいて嬉しそうにしているヴァシーリーを見てはいなかった。
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