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しおりを挟む「っと、ちょっと話しすぎたわ。ダヴィット様、これはシーラのことを気にかけてくれていたから聞かせただけで、また話すなんてしたくなかっただけですから。他言なんてしないで」
「しないよ。……したところで、信じてもらえないと思うし」
王女の言葉に王太子だけでなくて、他のメンバーも遠い目をしていた。
「それで、あの留学生と口論していた令嬢は何なの?」
「婚約されたんですよ」
「婚約……?」
「利害の一致から、お互い嘘ついて婚約したのにどっちの嘘が酷いかで揉めてるところさ」
王太子の言葉に王女は、物凄く不愉快そうに眉を顰めていた。
「そんなのが、まだ勘当もされていないの?」
「そろそろ、勘当されるはずだよ。君たちが来る前に片付けたかったんだけど、留学生たちが来るのが早まったからね。見苦しいものを見せて悪かった。でも、どうして、早めたりしたの?」
「それは、王女が……」
ガタン。
「私が、何だというの? マティアス」
王女が立ち上がった勢いで椅子が倒れた。その目は射殺されそうな目をマティアスに向けていた。
向けられていないヴァジムが、それに身体を震わせていた。王太子は、そんな殺気立つ王女すら、素敵だと見ていたが、視線を独占しているマティアスに何とも言えない顔を向けていた。
「あ、いえ、天候が荒れては何かと大変だからと出発を早めてくださって、留学生の我々に配慮してくださったおかげだと言おうと思ったんですが……」
「そ、そうよ。留学生たちが風邪引くと大変だもの」
「アウギュスタ様は、お優しいですからね」
それこそ、濡れたりすれば、それをどうにかしなければ誰とも会いたがらないだろう。特に婚約者のダヴィットに無様な姿を見せるなんて王女は嫌がるはずだ。
シーラも、マティアスの言葉を聞いて付け足しておいた。
ダヴィットは、スッと何事もなく王女の椅子を直して座らせていた。その手を握ってにっこり笑っていた。いつもなら、そんなことをアウギュスタは簡単に許していないだろうが、まだ動揺したままのアウギュスタは気づいていないようだ。
「そうだね。アウギュスタは、本当に優しいよね。そんな人が、私の婚約者でとても鼻が高いよ」
「っ、」
にこにこと早く着きたい理由など、気づいていそうな王太子は気遣い上手だと褒めてみせたのだ。
褒められて嬉しそうにしていたが、落ち着いたアウギュスタは、ダヴィットが自分の手を掴んでいることに気づいて慌てて手を振り払っていた。王太子は、それを物凄く残念そうにしていた。
アウギュスタは、留学していた子息のことを聞きたがった。物凄く慌てていて、顔も真っ赤になっていたが、誰もが見て見ぬふりをした。
マティアスも、それが気になるようだ。
シーラは、掻い摘んで話したが、王太子が補足してしまい、ヴァジムがゲラーシーの幼なじみだとわかり、王女の殺気が凄まじいことになったのをシーラがフォローするのが大変だった。
ヴァジムは、腰を抜かさんばかりに震え上がっていた。
チラッと見ると王太子が、肩を竦めていた。
(あとで、バレるより補足しておいた方がいいわよね。この場合だと王太子もとばっちりを受けることになるだろうし)
マティアスは、王女の気質を知っているから、それに震え上がるなんてことはなかった。
ヴァジムも、ボリスにしごかれて殴られたりすることもあるが、それよりも王女の方が恐ろしいようだ。
「男の友情より、義妹を選んだのなら、及第点ね。あっちについていたなら、シーラの義兄でも許してなかったわ」
「っ、」
シーラは、義兄に勘違いされて出来損ないだと思われていたことは伏せていた。それを知っていたら、こんなものでは済まなかっただろう。
(その通りだと思っていたのは、私だし。王女の恐ろしさは身をもって知ったようだから、そこまで言う必要はないわよね)
何はともあれ、留学生だった男子生徒が王弟の一人息子だとわかった王女は……。
「あれをどうこうしようとして留学させる時点で、どうかしているわね。こっちで、どうにもならないものを押し付けられたんじゃ、いい迷惑だわ」
王女の言葉に王太子は、胸をおさえていた。
それを見て、シーラはマティアスと目があって苦笑していた。
ヴァジムは、苦笑する余裕もなく、自分から王太子に矛先が向いたことにホッとしていた。
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