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マティアスが留学して来て、学園で会うたび、何の気兼ねなく話せることにシーラはにこにことしていた。それこそ、挨拶することも躊躇われ、会釈で済ませていたことも向こうではよくあったのだ。

段々と酷くなり目も合わせることを差し控えて、後ろ姿をチラッと見ることで元気そうだと思っていた日々を思えば、ここでの学園生活は楽しくて仕方がなかった。

それこそ、マティアスがシーラの実姉のアルヴァ・ヘイデンスタムの元婚約者だとわざわざ嫌味を言う者もいない。それが、こんなにありがたいこととは、シーラは思ってもみなかった。

未だに姉の婚約者のままで、一方的に迷惑かけていると思っていたというのにそれが、とんでもない理由で破棄になっていたのだ。もう迷惑をかけていない状況なことにシーラは心から安堵していた。


(一番常識がないのは、あの人だったみたいね。よりにもよって、浮気していたなんてね。……そんな継母に懐く姉と妹にもびっくりするわ。まぁ、いないところでは、ボロクソに言っているのだろうけど)


喪が明けてから結婚すればいいのに生まれて来る子供が、今度こそ息子だと期待しているのだろう。

それこそ、男の子を産めそうもないと思って、他の女性と浮気していたのかも知れない。


(再婚を早めたのが生まれて来るのが、そろそろなんでしょうね。お母様が一番辛い時に何をしていたんだか。最低な夫で、父親がいたものだわ)


シーラは、そんな父親だからすぐに喪に服す必要がないと言ったのかも知れない。みんな、誰が喪に服しているかなんて覚えていないと思っているのか。本当に時代遅れだと思っていたのかはわからないが。


(再婚相手を見たいような、見たくないような……。お養母様が、これを知ったらキレそうね)


その辺のことを王女から小耳に挟んだとヴァジムが、両親に手紙を書いて出していた。養父が、詳しく調べてくれるはずだと義兄は教えてくれた。


(腹違いの弟か、妹が生まれるってことよね? 父は男の子って、信じて疑ってないようだけど、生まれてくるまではわからないんだもの。凄く複雑な気分だわ)


生まれて来る前から、色々言われて生まれてからも色々と言われることになるのだ。子供に罪はないはずだが、それを一生背負うことになるというのにそんなことより血を分けた息子がほしい父をシーラは理解しきれなかった。

彼にとっては息子でなければ意味がないのだろう。息子でさえあれば、どんなのでも跡継ぎだと認めるのかと思うと男に生まれなくてよかったとすら思えてならなかった。


(男だったら、あんな常識も欠片も持ち合わせていない上に妻と娘に対する愛情もないようなのの跡を継ぎたくなんかないわ)


そんなことを思ってげんなりしてしまった。


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