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第2章

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キャトリンヌは、有言実行で花のことをフィオレンティーナに教えていた。染め物に使えるのと駄目なものをハンカチをもらった後から、熱心に教えていた。


「フィオレンティーナ。これ、使える」
「このお花、確かに指に色がついて大変でした」


キャトリンヌは、こくんと頷いた。


「しばらく、取れない」
「えぇ、取れなくて困りました」
「ん。キャトリンヌも、やった。これ、少なくても、色綺麗。でも、注意」
「そうですね。注意です」
「ん」


キャトリンヌが、たどたどしくも説明するのをフィオレンティーナは理解していた。ジョスランは側にいたが、補足はしていなかった。

交換だからとキャトリンヌが自分でやると張り切っているからだ。

フィオレンティーナは、真剣にメモを取りながらキャトリンヌの言葉を書きとめていた。

それをジョスランは嬉しそうに見ていた。そんな姿をジョスランは、一度も見たことがなかった。ただですら、妖精の血が濃すぎるキャトリンヌが何かにずっと集中し続けるのは難しいはずだが、それでも自分が交換すると決めたことだからと頑張っていた。

リュシアンは、それをぼんやりと見ていた。もう、この面子で過ごすことが日課のようになっていた。

フィオレンティーナは忙しくしていて、時間を区切って毎日会っていた。それは、キャトリンヌにも丁度よかった。集中し続けることが難しいのだが、短時間で教えることで何とかなっていた。

キャトリンヌは、何を教えたかをチェックしていて、補足が必要なのを思い出した時はメモまでしていた。それは見たことない光景だった。文字を書くのも、ノートをつけることも、彼女には難しいことだったが、約束を果たすために抜けがあってはいけないととても真剣だった。

妖精たちは、注目を浴びている花の妖精たちがフィオレンティーナにアピールしていた。それを邪魔することなく、他の妖精は見守っていた。それは、あり得ない姿だった。

染め物に使える花の紹介なため、それに使われない妖精たちはしょぼくれていたが、注目されて紹介される妖精たちは、そんな妖精たちに意地悪をしていなかった。普段なら、それを自慢してはしゃいでいるが、それを全くしていなかったのだ。

それどころか、慰めていた。次があると励ましてすらいた。

リュシアンだけでなくて、ジョスランも、それを見て吹き出しそうになっていた。妖精たちには申し訳ないが、そんなことができるとは思っていなかったのだ。

キャトリンヌは、妖精の血が濃すぎるため、妖精たちをよく見ていればよくわかるが、ここに来てフィオレンティーナが関わると違うことがわかった。とんでもなく成長していた。


「凄い光景だな」
「そうですね。……初めて見る風景です。何よりキャトリンヌの説明で、あんなに真剣に聞いてくれる人間がいるとは……」


キャトリンヌのことを理解してくれる人間にジョスランは、感激していた。二人は、婚約者であり、幼なじみだ。

リュシアンは、キャトリンヌとは従兄妹で、二人はキャトリンヌのことを理解できていた。でも、妖精の血を引いていても、理解ができない者も、それなりにいた。見ているとイライラするとまで言うのもいた。

合わない同士の妖精たちのように平行線なままで、フィオレンティーナのように人間でも、真剣に応対をしてくれていると思うと嬉しくて仕方がなかった。

それこそ、キャトリンヌが喜んでいて、妖精たちも幸せそうにしているからだろう。

つくづく不思議な人間だとリュシアンは思っていた。


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