上 下
50 / 99
第2章

24

しおりを挟む

フィオレンティーナは、なぜか留学生たちに何かと声をかけられていた。特にキャトリンヌから、好かれているようだ。それはフィオレンティーナにもわかった。なぜかまではわからないが。


(染め物って難しいし、大変なはずよね。それも、自分で育てた花で染めたんだもの。それと交換して気に入ってもらえるものがあるといいけれど……)


フィオレンティーナは、そんなことを思っていた。そんなことを思っていたら、料理をすすめられるままに食べて、その美味しさに驚いていた。

この国の料理は、特に貴族が食べる物は味付けが大雑把なのだ。見た目だけが豪華なものばかりだ。豪華に見えるだけで大雑把な分、あとから自分好みの味で誤魔化して食べるのだ。そして、あまり美味しくないから全部を食べずに途中で終わらせるのが一般的になっていた。

それに比べて平民の食事は、見た目が地味だがヘルシーで美味しいものがあった。最初フィオレンティーナは平民と間違われたところから、この学園の食堂で平民の食事を食べていたが、そこから貴族のものを食べることになった時にびっくりしてしまった。あれには驚かされた。


(ここの貴族は、食べきらずに残して食事を終えたがるのもよくわかるわ。私でも、残さず食べるのに苦労したもの。あんなもの食べるくらいなら、平民と一緒の方が断然いいわ。今は、貴族たちにも、そっちが人気になっているようだし。貴族たちも、あれを美味しいと思っていないのがわかって、ちょっとホッとしているのよね)


ここでの食事を食べて、そんなことを思っていたフィオレンティーナは、他所の国の食事に感激していた。

前世の料理に慣れ親しんでいて、覚えているフィオレンティーナにとっては、貴族の食事は残念でならなかったが、平民の食事で近づいていたが、更に美味しいものを口にできたことに懐かしさを更に感じていた。

そこに留学生を探していたフィオレンティーナの双子の妹のチェレスティーナが現れたのはすぐだった。


「こちらにいらしたのね」
「……」


チェレスティーナは、他では誰も話しかけてくれなくなっていて無視され続けて、プライドの無駄に高いチェレスティーナも、自分からは話しかけなくなっていた。

そこで留学生と仲良くしているとアピールできたら自慢できると思って探し回っていたところだった。

それなのになぜか、中々見つけられずにいたのだが、ようやく見つけたことに喜んでいたら、そこにフィオレンティーナが一緒にいるのを見て眉を顰めずにはいられなかった。

逆にチェレスティーナの登場に留学生たちの方が眉を顰めていたことには気づいていなかった。

妖精たちは、チェレスティーナが来た途端、どこかに行ってしまった。

その辺はお互いさまなところがあるが、チェレスティーナはそんなことで引き下がる令嬢ではない。


「フィオレンティーナ。何で、皆さんといるのよ!」
「えっと」
「迷惑なことして、恥をさらさないでよ。ただですら、我が家の恥なんだから!」
「むぅ!」


キャトリンヌは、フィオレンティーナが酷いことを言われたことに怒っていた。わかりにくいが、物凄く怒っていた。キャトリンヌが誰かのために怒ることは、とても珍しいことだった。

リュシアンも、ジョスランも、同じく怒りが込み上げていた。フィオレンティーナを侮辱することが許せなかった。血が騒いで仕方がなかったのだ。

妖精たちも、同じく騒いでいた。さっきまで、どこかに行ったのにすぐさま戻って来て、プンスカ怒っていた。

チェレスティーナを周りが親の敵のように睨んでいたが、フィオレンティーナは妹にそんなことを言われるのはいつものことになっていて怒るなんてことをすることはなかった。


「私たちが誘ったんですよ。今日は、このメンバーでピクニックしたい気分でしたので、あなたこそ邪魔しないでいただけますか?」
「っ、」


ジョスランは、すぐさまそんなことを言っていた。それも、珍しいことだった。

留学生たちに睨まれていることに気づいて、チェレスティーナはたじろいだ。留学生に嫌われては元も子もない。

それでも、すぐに引き下がるわけにはいかなかった。


「なら、次の時は……」
「その時の気分で決めますので、約束したくはありませんね。何より、次があろうとあなたをわざわざ誘う気はありません」
「っ、」


フィオレンティーナは、ジョスランの言葉に目をぱちくりさせた。


(えっと、怒ってる……?)


そんな態度をフィオレンティーナはされたことがなかった。

悔しそうにしながら、フィオレンティーナを睨んでチェレスティーナはどこかに行ってしまった。睨まれることも、色々と言われることにもすっかり慣れていたが、フィオレンティーナは、妹が一人でいる姿に首を傾げずにはいられなかった。


(いつも、友達といたはずなのに。一人でいるなんて珍しい)


それこそ、最近は一人でいるというのにそれにすらフィオレンティーナは気づいていなかった。

チェレスティーナがいなくなっても、留学生と妖精たちの苛立ちが消えることはなかった。

リュシアンは、気にしているのではないかとフィオレンティーナを心配げに見ていた。それは、彼にはとても珍しいことで、本人も気づいていないことだった。


「あの、妹が申し訳ありません」
「え?」
「あの方、妹さん、なんですか?」
「はい。双子の妹です」
「似てない」
「よく言われます」


フィオレンティーナは、困ったように笑った。

ふとリュシアンは、子爵家の庭と子爵令嬢のフィオレンティーナとが、何かしら関係性がありそうに思えてならなかった。

フィオレンティーナが悲しげにしていないのを見て、ホッとしていた。ポカポカした暖かい気持ちになるのだ。

キャトリンヌが、フィオレンティーナを気に入る理由が側にいるだけでよくわかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜

白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」 はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。 ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。 いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。 さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか? *作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。 *n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。 *小説家になろう様でも投稿しております。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

処理中です...