前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

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第2章

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「フィオレンティーナ。あげる!」
「え? そんな、大事なものを? 駄目ですよ!」
「いい! フィオレンティーナ、特別!」
「でも……」


リュシアンは、キャトリンヌがあげると言い出したことに目を見開いて驚いていたが、ジョスランは全く驚いていなかった。それどころか。婚約者の言葉を汲んだ。


「もらってあげてください」
「ん!」


フィオレンティーナは、思案した。普通なら、渋ることはないはずだ。

リュシアンは、じっとそれを見ていた。この人間は、何と言うのかが気になった。

妖精たちも、固唾を飲んで見守っていた。


「……なら、交換してもらえますか?」
「ん~?」


こてんとキャトリンヌは、首を傾げた。ジョスランも、意味がわからなかったようだ。不思議な顔をして、フィオレンティーナを見ていた。

リュシアンも、目をパチクリとしていた。ここで、そんなことを言うことは想定していなかった。

妖精も、キャトリンヌと同じく、こてんと首を傾げたりしていた。フィオレンティーナにどういうこと?と続きを聞きたがる者が多かった。


「刺繍したハンカチが、他にもあるんです。もちろん、未使用のものです。それを持ってきますから、それと交換してくれませんか?」
「交換! する!」


キャトリンヌは、交換なんてことをしたことがないのできょとんとしたが、フィオレンティーナの説明に目を益々輝かせた。フィオレンティーナの刺繍のハンカチは、キャトリンヌもほしいと思っていた。それを自分のハンカチと交換と言われて、にこにこどころか。飛び跳ねて大喜びした。

妖精たちも、全く同じことをしていた。


「よかったですね。キャトリンヌ」
「うん!」
「明日、持って来ますね。気に入ったのがなければ、新しいの作りますから」
「フィオレンティーナ。優しい。大好き!」


キャトリンヌは、フィオレンティーナに抱きついていた。勢いあまってよろけたのをジョスランが支えた。

それにリュシアンが目を丸くした。キャトリンヌがただの人間に抱きつくだけでなく、そんなことを言うのも、あり得ないことだった。

それをジョスランも止めず、人間の娘にキャトリンヌが伝えきれないことを伝えてすらいた。驚くことばかりが、目の前で繰り広げられていた。

キャトリンヌは、ハンカチを交換してもらえることに浮かれすぎていて、食事どころではなくなっていた。

ジョスランは、そんな婚約者に苦笑していたが、フィオレンティーナにランチをすすめた。


「フィオレンティーナさんも、よければ、どうぞ」
「え? でも……」
「フィオレンティーナ! これ、美味しい!」


キャトリンヌは、ジョスランの言葉にハッとして、シュバッとフィオレンティーナの隣に座って、オススメを指さした。

妖精たちも、ご飯は食べなきゃ駄目だと言うようにしていた。


「これは……?」
「私の国では、ポピュラーなものなんですよ」
「へぇ~」


フィオレンティーナが、興味を持ったので、取り分けて渡したのは、ジョスランだ。そういうことがキャトリンヌが苦手なのをよく知っているからこそ、ジョスランがしていた。キャトリンヌがすすめたものとちゃっかり自分の好物も取り分けていた。

食べてみてと言わんばかりのキャトリンヌにフィオレンティーナは、見られながら食べることになって、何とも言えない顔をしていたが、それを指摘することはなかった。

キャトリンヌが、それを悪気があってしていないことをわかっているようだ。やめろと言われても、難しいのだから仕方がない。

周りの妖精たちも全く一緒だが、そんなことをすれば仲の悪い妖精同士が喧嘩になったりするが、そんなことにはなっていなかった。

キャトリンヌのこもを理解して食べにくそうにしながらも、フィオレンティーナは口にした。


「んっ、美味しい!」


美味しいと言われて、キャトリンヌはえへへと喜んでいた。

それをリュシアンは、呆然と見ていた。妖精の血を1滴も持っていない人間と同じ空間にいることに不快感を全く感じないのだ。そんなこと、彼も初めてのことだった。

妖精たちも、何やら楽しそうにしていて、フィオレンティーナの言葉にキャトリンヌと同じく一喜一憂していた。

キャトリンヌは、血がとても濃く現れていた。彼女みたいなのが、妖精そのものの本質とも言える。興味のあることがあるとそちらにふらふらと歩いていき、興味がないことは無視するのだ。特に人間に興味を示したことは、今まで一度たりとも見たことはなかった。

そんなキャトリンヌが、妖精たちと一緒にフィオレンティーナと呼ばれる人間に自分の国のことを話して、わかってもらえることに狂喜乱舞しているのだ。

それを見て、リュシアンも血が騒いでいた。フィオレンティーナが喜んでいるのを見ると和むのだ。それが不思議でならなかった。


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