49 / 99
第2章
23
しおりを挟む「フィオレンティーナ。あげる!」
「え? そんな、大事なものを? 駄目ですよ!」
「いい! フィオレンティーナ、特別!」
「でも……」
リュシアンは、キャトリンヌがあげると言い出したことに目を見開いて驚いていたが、ジョスランは全く驚いていなかった。それどころか。婚約者の言葉を汲んだ。
「もらってあげてください」
「ん!」
フィオレンティーナは、思案した。普通なら、渋ることはないはずだ。
リュシアンは、じっとそれを見ていた。この人間は、何と言うのかが気になった。
妖精たちも、固唾を飲んで見守っていた。
「……なら、交換してもらえますか?」
「ん~?」
こてんとキャトリンヌは、首を傾げた。ジョスランも、意味がわからなかったようだ。不思議な顔をして、フィオレンティーナを見ていた。
リュシアンも、目をパチクリとしていた。ここで、そんなことを言うことは想定していなかった。
妖精も、キャトリンヌと同じく、こてんと首を傾げたりしていた。フィオレンティーナにどういうこと?と続きを聞きたがる者が多かった。
「刺繍したハンカチが、他にもあるんです。もちろん、未使用のものです。それを持ってきますから、それと交換してくれませんか?」
「交換! する!」
キャトリンヌは、交換なんてことをしたことがないのできょとんとしたが、フィオレンティーナの説明に目を益々輝かせた。フィオレンティーナの刺繍のハンカチは、キャトリンヌもほしいと思っていた。それを自分のハンカチと交換と言われて、にこにこどころか。飛び跳ねて大喜びした。
妖精たちも、全く同じことをしていた。
「よかったですね。キャトリンヌ」
「うん!」
「明日、持って来ますね。気に入ったのがなければ、新しいの作りますから」
「フィオレンティーナ。優しい。大好き!」
キャトリンヌは、フィオレンティーナに抱きついていた。勢いあまってよろけたのをジョスランが支えた。
それにリュシアンが目を丸くした。キャトリンヌがただの人間に抱きつくだけでなく、そんなことを言うのも、あり得ないことだった。
それをジョスランも止めず、人間の娘にキャトリンヌが伝えきれないことを伝えてすらいた。驚くことばかりが、目の前で繰り広げられていた。
キャトリンヌは、ハンカチを交換してもらえることに浮かれすぎていて、食事どころではなくなっていた。
ジョスランは、そんな婚約者に苦笑していたが、フィオレンティーナにランチをすすめた。
「フィオレンティーナさんも、よければ、どうぞ」
「え? でも……」
「フィオレンティーナ! これ、美味しい!」
キャトリンヌは、ジョスランの言葉にハッとして、シュバッとフィオレンティーナの隣に座って、オススメを指さした。
妖精たちも、ご飯は食べなきゃ駄目だと言うようにしていた。
「これは……?」
「私の国では、ポピュラーなものなんですよ」
「へぇ~」
フィオレンティーナが、興味を持ったので、取り分けて渡したのは、ジョスランだ。そういうことがキャトリンヌが苦手なのをよく知っているからこそ、ジョスランがしていた。キャトリンヌがすすめたものとちゃっかり自分の好物も取り分けていた。
食べてみてと言わんばかりのキャトリンヌにフィオレンティーナは、見られながら食べることになって、何とも言えない顔をしていたが、それを指摘することはなかった。
キャトリンヌが、それを悪気があってしていないことをわかっているようだ。やめろと言われても、難しいのだから仕方がない。
周りの妖精たちも全く一緒だが、そんなことをすれば仲の悪い妖精同士が喧嘩になったりするが、そんなことにはなっていなかった。
キャトリンヌのこもを理解して食べにくそうにしながらも、フィオレンティーナは口にした。
「んっ、美味しい!」
美味しいと言われて、キャトリンヌはえへへと喜んでいた。
それをリュシアンは、呆然と見ていた。妖精の血を1滴も持っていない人間と同じ空間にいることに不快感を全く感じないのだ。そんなこと、彼も初めてのことだった。
妖精たちも、何やら楽しそうにしていて、フィオレンティーナの言葉にキャトリンヌと同じく一喜一憂していた。
キャトリンヌは、血がとても濃く現れていた。彼女みたいなのが、妖精そのものの本質とも言える。興味のあることがあるとそちらにふらふらと歩いていき、興味がないことは無視するのだ。特に人間に興味を示したことは、今まで一度たりとも見たことはなかった。
そんなキャトリンヌが、妖精たちと一緒にフィオレンティーナと呼ばれる人間に自分の国のことを話して、わかってもらえることに狂喜乱舞しているのだ。
それを見て、リュシアンも血が騒いでいた。フィオレンティーナが喜んでいるのを見ると和むのだ。それが不思議でならなかった。
69
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる