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第2章
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しおりを挟むフィオレンティーナは、周りの殆どの貴族が妹のチェレスティーナに媚び売るのに必死な面々ばかりだとは思っていなかった。
いや、そういう面々ばかりだろうともフィオレンティーナは、それを知ったところで、はっきり言ってどうでも良かった。
それよりも、花の世話ができないことの方が嫌だった。フィオレンティーナの頭の中は花のことでいっぱいいっぱいとなっていて、周りで何を言われているのかもわかっていないほどに花のことばかりを考えていた。
部屋に閉じ込められていた頃よりも、それは強くなっていた。
(お庭の花たちは、どうしているかな。……このお花を見ると思い出してしまうわ。全部が枯れ果ててはいないと思いたいけれど、荒れ放題になってる頃かな)
そんなことを思って、学園の花を見ないようにしようとしたが、それもできなかった。やはり、花を見ていると和むのだ。フィオレンティーナの世界から、花を追い出すなんてことは不可能だったようだ。
ただですら、花の世話をさせてもらえなくなっているのだ。フィオレンティーナには、数日でも花に触れ合えなければ、気が変になりそうだった。身体が元気になろうとも、心が壊れてしまいそうだった。
触れあえなくなっても、見るだけでもしなければ、心が癒されないで荒んでしまう。
(やっぱり、ここの花たちって、不思議だわ)
気のせいかも知れないが、フィオレンティーナが見ると風もないのに揺れているのをよく見かけるのだ。そんな花が可愛くて、微笑ましくて、フィオレンティーナはにこにこしていた。
フィオレンティーナは学園に来てから、いつの間にか以前のように笑うようになっていた。それが続いて、フィオレンティーナは学園の花たちが気になり始めていた。
それこそ、そんなことに気づくなら、自分のことで色々と言っているのを聞いて、嫌な思いをしていてもいいところのはずだが、そんなことにはなっていなかった。
フィオレンティーナのすべては、食事と花に振り分けられていた。その中でも、花が一番の癒しとなっていた。
学園に来ているというのに勉強はその中に含まれていなかったのは、授業についていけないからではない。フィオレンティーナには物足りないものばかりだったせいで、つまらないとすら思っていた。
そのため、全ての授業には難なくついていけてしまっていて、余所事ばかりを考える余裕がたくさんあった。
(あの花って、あそこより、日陰が好きなのよね。あっちは、お日様が大好きでお水をたっぷりあげると長持ちするのよね。前世のお花に似ているから、あの花たちを見ていると懐かしい気分になるな。子爵家の庭は、こうして見ていると珍しい花が多かったみたいね。世話が難しそうなのばかりだった気がしてならないわ)
そうならば、あの庭師が世話をしていたとしても大変なことになっていそうだ。そう思うだけでフィオレンティーナの胸は張り裂けそうだった。
世話をして来た庭を台無しにされることで、フィオレンティーナのしてきた努力を無駄に終わらせることにではなくて、せっかくの花が駄目になることにフィオレンティーナは悲しんでいた。
誰に認められなくとも、花たちが変わりなく咲き誇っていてくれれば、それでよかった。フィオレンティーナは、あの庭を台無しにしようとしたと周りに疑われていても、そんなこと今更どうでもよかった。
最初は、そんなことで疑われて信じてもらえなかったことにショックを受けたが、今更だと思ってしまったのだ。
あの人たちにそう思われるのは、今更なのだ。あの人たちにそう思われたから、何だと言うのだろうと思った。
それを広められようとも、広めたことを信じられて疑われても、よく知りもしない人たちに何を言われても、どうでもいいと思うようになっていた。
疑われても、自分は一切そんなことをしていないのだ。それが事実だ。
ただ、疑われて引き離されたせいで、本当に台無しにされることになったことに悲しんでいた。そんなことをしたと決めつけた家族にも、世話などしてもいない庭師にも怒りを向けて憤慨するより、フィオレンティーナはただただ悲しみの方が強かった。
自分の方ができるとか。庭師に向いているとも思ってはいなかった。それを自慢に思うこともなかった。
ただ、花たちがストレスなく、特性を活かして他の花と咲いているなら、それでよかった。
そのためなら、フィオレンティーナが悪く言われることになろうとも、花たちがまともな世話をされているなら、フィオレンティーナは誰にも信じてもらえずとも構いはしなかった。
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