20 / 99
第1章
18
しおりを挟む隣国となるフィオレンティーナたちが住むトゥスクルム国で、オギュストたちが住むフォントネル国の学園生を留学生として今年こそは預かりたいと理事長であるオギュストは再三、トゥスクルム国の学園の理事長に毎年のように言われていた。
それには、毎年のようにオギュストは同じ反応を返して難所を示していた。あの子爵家の庭を見る前のオギュストは、それまで同様の反応をしていたに過ぎなかった。
花に理解ある者が、めっきり少ないのがトゥスクルム国というところだった。そんなところで、わざわざ学ぶことなどフォントネル国の者にはない。むしろ、辛くなってしまい、長居なんてできなくなっていた。
トゥスクルム国に行けるなら、まだマシだ。オギュストは、隣国の話題を口にするだけでも気分が悪くなるほど、その身に宿る血が拒絶するかのように不快感を感じた。それほどまでの凄まじい抵抗感を感じていた。
それでも、理事長になってからオギュストは何度か行ったことはあるが、期待してもいないのに幻滅して疲れ切って祖国に帰ることになった。オギュストですら、そんな風になるのだ。学生を留学させようと思うはずがない。
彼が理事長なんてしているのは、妻が子供好きだからに他ならない。なのに病弱で、医者に子供は無理だと言われていて、それならばとオギュストは子供たちの話をできるようにと理事長になった。
それだけ妻を彼は心から愛していた。妻の喜ぶ笑顔のために嫌なこともやる男だが、妻のために隣国に行くことは我慢の限界を軽く超えることだった。それこそ、妻の具合を悪くさせるところでしかないと思っていて、トゥスクルム国の話題すら口にしないようにしていた。
もっとも、クラリスが隣国の話を口にしないのは夫であるオギュストが、その言葉を聞いただけでも辛そうにするから話題にしないだけだ、夫ほどクラリスは隣国への不快感は大きくはなかった。
そんな時に噂を耳にしたのは、オギュストだった。それは見事なガーデンパーティーをトゥスクルム国のとある貴族が開いていて、話題になっていると言うではないか。
それにオギュストは、すぐに食いついた。たとえ、それがトゥスクルム国の話題でも、気になる単語があったのだ。
「ガーデンパーティー? あの国で?」
オギュストは、それを耳にした途端、彼の血が騒いだのを感じた。なぜか、物凄く興味を惹かれてしまったのだ。
「とても魅力的な庭だそうだ」
それを聞いた途端、彼は物凄く庭を見たくなって、仕方がなくなってしまった。それこそ、フォントネル国でなら、そうなることはあった。
でも、トゥスクルム国の話題にのぼっている庭だ。言葉通りな期待などしても、期待しすぎていたと後悔することになると普段なら思うところだが、そう思うことはなかった。
そこから、わざわざオギュストはトゥスクルム国の学園の視察に自ら日程を組んで行った。そっちは大したことなかった。期待なんて、元よりさらさらしていなかったのだが、そんなもんだと思ったよりも酷かったのは確かだが、それで疲れることはなかった。
だが、評判となっているというガーデンパーティーは言葉に表せない程、オギュストは感激した。
なんて素晴らしいのだろうと思い、彼は庭を隅々まで堪能した。トゥスクルム国で、血が喜びに沸き立つなんてことは、初めての経験だった。更に出されたお菓子やお茶にも、おもてなしの心が感じられた。普段なら、トゥスクルム国で食べ物なんて口にしないのだが、食べただけでも心がホッとした。
自国でも、そこまでの感激をオギュストはしたことがなかった。その興奮が冷めないままに戻るなり、妻にその話をして聞かせた。それも、初めてのことだった。
周りにトゥスクルム国の貴族たちがいても、オギュストはイライラしたり早く帰りたいと思うことはなかった。ただ時間が許す限り、その庭を眺めながらお茶とお菓子を堪能して、ゆっくりした時間を過ごした。
その間に沸々と思ったのは、愛してやまない妻にこの庭をどうにかして見せてやれないかということと学園の生徒たちにも、どうにかして見せてやれないかというものだった。
本人は、理事長なんて向いていない仕事をしていると思っていたが、いつの間にか理事長らしいことを無意識に考えるようになっていたことに彼は気づいていなかった。
49
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
王国冒険者の生活(修正版)
雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。
雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。
そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。
※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。
両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです
珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。
その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。
そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。
その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。
そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。
辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです
くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は……
※息抜きに書いてみたものです※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる