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第1章
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しおりを挟む見る人に幸せになってもらえる憩いの場として癒しを提供できたら、そんなフィオレンティーナの純粋な想いに応えるようにガーデンパーティーを繰り返すうちに益々魅力溢れるようになっていった。
そんな庭が評判となり、子爵家の庭をわざわざ隣国から見に来たとある男性が、子爵家のガーデンパーティーに紛れることになった。
彼は、隣国の学園の理事長をしていて、名前はオギュスト・ルデュック。公爵家の当主であり、国王の弟でもあった。隣国のフォントネル国に住む者は、見目麗しい者たちが多かったが、彼もその1人だったが、その魅力を彼は自分で抑えることができたため、トゥスクルム国に来ても、更には子爵家のガーデンパーティーに紛れても騒ぎになることはなかった。
オギュストは、祖国で学園の理事長なんて気乗りしない仕事をこなしていた。祖国の子供たちの支援を惜しむ気持ちはなかったが、他国であるトゥスクルム国への学生たちの留学についての話し合いほど気乗りしない仕事はなかった。
それでも、若い者たちの学びになることは、やりたくなくとも我慢してこなしていた。オギュストは無類の子供好きなわけではないが、それをしていることで喜ぶ人のためにやっていることが多かった。
その中でも、トゥスクルム国へ行くことは彼にとって最大の苦痛とも言えるものだった。そんな苦痛なことをわざわざ彼が己の足で確かめようとしたのは、とても珍しいことだった。
いつもなら、隣国に行くと疲れ切ってしまって、帰宅すると食事も取らずに愛してやまない妻とも大して話すこともなく早々に部屋で休むのだが、この日の彼は違っていた。
彼は目を輝かせて帰って来て、機嫌がいい時にするハグを出迎えた妻にしたのだ。もちろん、ハグはいつもしているが、隣国から帰って来た時にすることは、これまで一度もなかった。
「クラリス。ただいま!」
「お帰りなさい」
妻のクラリスは、それに驚きを隠せなかった。隣国に行くと聞いていたのに機嫌よく帰って来て、ハグまでしたことに目をパチクリとさせた。久しぶりに物凄く機嫌の良い夫を見て、クラリスはよくわからなかったが、すぐさま笑顔となった。
しかも、機嫌のいいままオギュストは、クラリスに隣国の話を聞かせ始めた。トゥスクルム国の話題を彼が自ら妻に意気揚々と話し始めたのは、初めてのことだった。そのため、妻が夫ほど隣国に対して嫌悪感を持っていないこともあり、興味を持ったのもすぐのことだった。
「そんなに素晴らしいお庭だったのですか?」
「クラリス。あぁ、本当に素晴らしかったよ。君にも見せたかった。私だけでなくて、あそこでガーデンパーティーが開かれるとなるとトゥスクルム国の貴族たちも都合をつける者が多いようだが、それも理解できる。あんな素晴らしい庭を見れるなら、他の予定なんていくらでもずらす」
オギュストは、夢現のまま妻に語った。まるで覚めない夢を未だに見ているようにクラリスには見えてならなかった。若い頃ですら、こんなに感激した状態のオギュストを見たことはなかったため、益々クラリスも興味を惹かれた。
フォントネル国で、そんな素晴らしい庭があるとなれば、大変なことになるのは間違いない。そんな庭を手掛けられる庭師が現れたら、大騒ぎどころではなくなる。
だが、それが隣国で絶賛される庭があると聞いて、クラリスですら驚きを隠せなかった。トゥスクルム国で、そんな庭師がいることにも驚かずにはいられなかった。
「そうなのですね。私も、一度この目で見てみたいものですわ。さぞかし素晴らしいのでしょうね」
「っ、」
それを聞いていたオギュストは目を丸くした。病気にふせってから、体調が1日中よい日が少なくなった妻のクラリスは、パーティーに呼ばれても、どこで具合を悪くするかと気が気でない状態のため、どこにも出かけなくなって、久しいかった。
そんな妻が、自分の目で見たいと言い出したことに夫が喜ばないわけがなかった。そんなことをクラリスが言葉にしたのをここ数年、聞いたことがなかったのだ。だから、嬉しくないわけがない。
「なら、今度、一緒に……」
「でも」
旅行にでも行かないかと言おうとしていたが、遮られてしまった。
「私が隣国まで行ってもご迷惑になりますわよね」
「……」
そんなことを言われて、そんなことはないとオギュストは妻に言えなかった。苦しくなると見ているのも辛くなるのだ。
それこそ、夫がそんな風に興奮して戻って来る庭を一目見たいと思ったのだが、すぐに自分の今の状態を思い出して諦める方が早かった。
普段なら、言葉にしないところだが、本当に心から見たいと思ってしまったせいで、ついついクラリスは言葉にしてしまっていた。それを後悔しているような表情をしていた。
だが、それを聞いていたオギュストは、別の感激をしていたことにクラリスは気づいていなかった。
できることなら、妻に見せたいと思っていたオギュストは、クラリスが行きたがったことに喜んだのだ。つかの間のことだったとしても、素晴らしい庭をその目で見たいと思う気持ちがあることに感激していた。
それにあの庭を見たら、血が騒ぐはずだとも思っていた。そうすれば、今より元気になれるはずだとオギュストは、何故か確信めいたものがあった。
オギュストは、そんな期待を持って妻に話していたが、隣国まで行くのに辛い思いをすることになるのは、クラリスだ。そう思うと予定を早急に立てるなんて、どうしてもオギュストにはできなかった。
それでも、オギュストは愛してやまない妻に庭を見せることを諦めることはなかった。
そして、妻だけではなかった。未来ある学生にも何としても見てほしいと思わずにはいられなかった。
彼の中に流れる血が、騒がしくオギュストを突き動かすことになるのだが、その理由がどこから来るのかをこの時の彼にもわからなかった
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