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序章
第四話 自己紹介からはじまる衝撃と告白
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「この人の名前はカドゥーン、私の名前はさゆり、今井さゆり。元々は日本人ですよ」
さゆりさんの告白は、由緒正しく自己紹介から始まった。
「二ノ宮ヒロトと申します。子供たちの名前はハルとハナ。ハルは八歳、ハナはもうすぐ三歳になります」
俺も自己紹介を返す。元々、ということは、やはりここは日本ではないのだろうか。
「ええ。日本どころか、地球ですらないの」
そんな馬鹿な、という言葉が口をついて出る。
「だって地球には、こんな耳のある人はいないでしょう?」
そう言ってさゆりさんは、キツネ耳をピコピコと動かしてみせた。
「本物だって言うんですか?」
「よく見て下さい。触ってみる?」
さゆりさんが俺に頭を差し出そうとすると、爺さんが、
「ダメ、俺の耳にしろ」と言って遮さえぎり、自分の頭を指さした。
耳は生えていた。カチューシャのようなつけ耳でも、貼り付けてあるわけでもない。髪の毛と同じ色で地肌から続いて、自然にそこにある。
そっと摘つまむと暖かい。ペラっとしたその感触は、昔飼っていた猫の耳そのものだった。
本物、かも知れない。本物なのだろうか。
ネコ耳もキツネ耳も本物で、地球じゃなくて、さゆりさんは元日本人? どれもこれも、荒唐無稽すぎて、とても信じる気にはなれなかった。
「熊谷市の自宅近くのスーパーでキャベツを手に取って、顔を上げたらこの荒野だったの」
同じだ。俺たちは信号待ちをしていた。
「だれもいないし、携帯も通じない。怖くて泣きながら歩いたわ。だって道しかないんだもの」
同じだ。あの状況で一人はキツイ。
「日が暮れて、途方に暮れて座り込んでいたの。もう歩けなかったし。その時、この人に会ったの」
なんともドラマチックな出会いだ。嫁が一時ハマっていた、恋愛小説のオープニングのようだ。目の前の、キツネ耳の人が話しているのでなければ。
「あの、その耳は……」
「一年半くらいたった頃に生えてきたの。尻尾もね」
「……」
思わず言葉に詰まった。尻尾もか。いや、今はソコジャナイ。
早回し映像のキノコのように、耳や尻尾が生える様子が頭に浮かぶ。ニョキニョキと生えるのか、それとも少しずつ成長するのか。いや、それも後でいい。
「なぜ、でしょう」
「この姿になった理由かしら?」
「はい、すみません」
「わからないの。この人と夫婦になったせいか、食べ物なのか、時間経過なのか。なぜ、この世界に飛ばされてしまったのか、帰る方法があるのかどうか、何もわからないまま、三十年以上過ぎてしまった」
ほんの少しだけ、遠くを見るように目を細める。
「他に同じような人に会った事は?」
「ないわ」
「私はこの人に助けられて、恋をしたから、耳と尻尾が生えてきた時は嬉しかったの。ここで生きてゆこうと決めたから、帰る方法も探さなかった。子供も授かって、けっこう幸せだったのよ」
さゆりさんは、ふふふっと笑った。
「とても身体能力が上がったわ。この姿でも、日本にいた頃より早く走れるし、高く飛べる。キツネの特徴がそのまま現れてるみたい。耳も凄く良いし、夜目もきくのよ」
得意そうに胸を張って言う。確かに素晴らしい能力だ。だが――。
「キツネ、そのものの姿にもなれるの」
笑い飛ばす気にはなれなかった。この穏やかに笑う人が、なんの悪意を持ってしたらそんな嘘をつく理由になるのか。この人すらも、誰かに騙されているのではないだろうか。三十年以上? それはもう取り返しのつかない年月だ。
信じるとしたら? 俺たちと同じように、訳の分からない現象に巻き込まれた元日本人。一年半の月日が過ぎたら、耳と尻尾が生えてきたと言う人。この人の話を信じるとしたなら。
それは、俺たちにも、耳と尻尾が生えてくる、ということなのだろうか。
さゆりさんの告白は、由緒正しく自己紹介から始まった。
「二ノ宮ヒロトと申します。子供たちの名前はハルとハナ。ハルは八歳、ハナはもうすぐ三歳になります」
俺も自己紹介を返す。元々、ということは、やはりここは日本ではないのだろうか。
「ええ。日本どころか、地球ですらないの」
そんな馬鹿な、という言葉が口をついて出る。
「だって地球には、こんな耳のある人はいないでしょう?」
そう言ってさゆりさんは、キツネ耳をピコピコと動かしてみせた。
「本物だって言うんですか?」
「よく見て下さい。触ってみる?」
さゆりさんが俺に頭を差し出そうとすると、爺さんが、
「ダメ、俺の耳にしろ」と言って遮さえぎり、自分の頭を指さした。
耳は生えていた。カチューシャのようなつけ耳でも、貼り付けてあるわけでもない。髪の毛と同じ色で地肌から続いて、自然にそこにある。
そっと摘つまむと暖かい。ペラっとしたその感触は、昔飼っていた猫の耳そのものだった。
本物、かも知れない。本物なのだろうか。
ネコ耳もキツネ耳も本物で、地球じゃなくて、さゆりさんは元日本人? どれもこれも、荒唐無稽すぎて、とても信じる気にはなれなかった。
「熊谷市の自宅近くのスーパーでキャベツを手に取って、顔を上げたらこの荒野だったの」
同じだ。俺たちは信号待ちをしていた。
「だれもいないし、携帯も通じない。怖くて泣きながら歩いたわ。だって道しかないんだもの」
同じだ。あの状況で一人はキツイ。
「日が暮れて、途方に暮れて座り込んでいたの。もう歩けなかったし。その時、この人に会ったの」
なんともドラマチックな出会いだ。嫁が一時ハマっていた、恋愛小説のオープニングのようだ。目の前の、キツネ耳の人が話しているのでなければ。
「あの、その耳は……」
「一年半くらいたった頃に生えてきたの。尻尾もね」
「……」
思わず言葉に詰まった。尻尾もか。いや、今はソコジャナイ。
早回し映像のキノコのように、耳や尻尾が生える様子が頭に浮かぶ。ニョキニョキと生えるのか、それとも少しずつ成長するのか。いや、それも後でいい。
「なぜ、でしょう」
「この姿になった理由かしら?」
「はい、すみません」
「わからないの。この人と夫婦になったせいか、食べ物なのか、時間経過なのか。なぜ、この世界に飛ばされてしまったのか、帰る方法があるのかどうか、何もわからないまま、三十年以上過ぎてしまった」
ほんの少しだけ、遠くを見るように目を細める。
「他に同じような人に会った事は?」
「ないわ」
「私はこの人に助けられて、恋をしたから、耳と尻尾が生えてきた時は嬉しかったの。ここで生きてゆこうと決めたから、帰る方法も探さなかった。子供も授かって、けっこう幸せだったのよ」
さゆりさんは、ふふふっと笑った。
「とても身体能力が上がったわ。この姿でも、日本にいた頃より早く走れるし、高く飛べる。キツネの特徴がそのまま現れてるみたい。耳も凄く良いし、夜目もきくのよ」
得意そうに胸を張って言う。確かに素晴らしい能力だ。だが――。
「キツネ、そのものの姿にもなれるの」
笑い飛ばす気にはなれなかった。この穏やかに笑う人が、なんの悪意を持ってしたらそんな嘘をつく理由になるのか。この人すらも、誰かに騙されているのではないだろうか。三十年以上? それはもう取り返しのつかない年月だ。
信じるとしたら? 俺たちと同じように、訳の分からない現象に巻き込まれた元日本人。一年半の月日が過ぎたら、耳と尻尾が生えてきたと言う人。この人の話を信じるとしたなら。
それは、俺たちにも、耳と尻尾が生えてくる、ということなのだろうか。
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