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しおりを挟むルカは熱を出している。
息は荒く、全身は熱い。
医師は今は薬を飲ませることが出来ないから、絶対安静しかないと
ベッドからはみ出す熱くなった手を握って体の上に置いてやる
「……ルカ、あれは…どういう事…?」
僕の妻になるはずだった
ルカは確かにそう言った。そして、ルカからされた事も含め俺には分からないことしかない
イーサンも何か隠しているとは思ったけど、ルカもだなんて思わなかった。
次第に、この兄弟は2人して何を抱えてるんだと見当違いの苛立ちまで湧いてきて、頭を冷やす為に廊下に出ようと、扉を開けた時
「ルカ様…!!」
俺を押しのけて部屋に入ってきたのは、ナラだった。俺は驚きと共に体が硬直する
その後ろから現れたのはマルコ。
俺とルカを見つけたのは当然、部屋の前で待機していたマルコだ
「…外でルカ様に会わせろと騒いでいました。どこから何を聞いたのやら」
聞きたげな俺に返事をしたマルコは、またもや珍しい表情を見せている
「ルカ様!ルカ様!」
「っ、ねぇ…まって。眠っているだけだから…」
ナラがあまりにも取り乱すので、俺は落ち着かせようと思わず声をかける。
震える肩に手を伸ばして、ナラ と声をかけた時振り向いたナラに手をはたかれそうになった。
マルコが直ぐに俺の腕を後ろに引いてくれたから当たらなかったが、それよりもナラの表情に目を開く
「なんでぇ、!どうしてよっ」
屋敷からとんで来たのだろうか、美しく着飾っていた姿は見る影も無く、涙で化粧は崩れて、悔しげに口元は歪んでいる、目から涙を零していた。
それを拭う事すらせず、ナラは続けた
「なぜ…!どうしてルカ様を受け入れなかったの!?貴方はルカ様の妻でしょう!初めからそうだったじゃない!何故裏切ったの!なぜ忘れたの!何故ルカ様をお1人にしたの!!」
何を言っているんだ、受け入れなかった?
なにが、なにを
混乱する俺をマルコは背中に庇う。
「たかがメイドが無礼だぞ。」
「うるさい!お前が邪魔をしたんじゃない!!全て完璧だったらきっとこんな事にはならなかったのに!」
怒り狂うナラの姿に、俺はなんの話しをしているのか頭の中で必死に組み立てようとする。受け入れる?妻?ナラはルカと同じ事を言ってる。ナラはルカが大事で、それならなんで妻だって言う俺に屋敷であんな扱いをしたか分からない。
イーサンは?イーサンはルカの言ってる事を知っている?そして、俺はイーサンに似ていると先日話したばかりの男の背中を見る。
「マルコ…何の話…?前、自分が言うことじゃないって、それは…何?」
「、私の口からは…」
「話しなさいよ!もう終わったこと!いいえ、私がっ」
マルコはナラから目をそらさないまま、迷ったような返事をする。被せるようにマルコの体越しにナラのヒステリックな声が聞こえたと思ったら、途端に困惑したようなナラの様子に、俺はマルコの背から覗き込むと、ルカの手が、ナラの手を掴んでいた
「ルカ様!」
「……やめ……ろ」
体が相当辛いのだろう。熱のせいで涙を零す目はまだぼんやりとしているのに、眉間は寄せられて息は荒い。
「す、すぐに医師を…!」
俺はルカが目を覚ましたら呼ぶように言われていた事を思い出し、慌てて出ようとするとマルコに腕を掴まれる。
突然触られるなんて事初めてで、俺はびっくりしてマルコを窺うと、マルコはやはり目線をナラやルカに向けたまま、
「…ルカ様が、何かおっしゃってます」
そのまま視線をずらすが、この位置からでは聞こえない。俺は頷いて、ルカの傍に行く
マルコは前を行ってナラの肩を叩く
ルカが目を覚ました事で一気に我に返ったのだろうか、マルコに医者を呼んでこいと言われて何も言わず部屋から出た
俺はルカにされた事と、俺に向けた憎しみの目を思い出す。もし、またあの目で見られたらと恐る恐るベットを覗き込んだ
「……ルカ」
でも、そこに憎しみは無くてただ俺を焼き付けるみたいに見つめる目
ルカはじっと見つめてくるだけで、やっぱり相当辛いのだと、俺は早く医師が来ないかと扉を振り返る。
「……ロン、」
微かな声に、俺は体を緊張させる。
ルカはあの時、俺をこう呼んだ。
『僕のアーロン』
その言葉の意味を、今聞けるのかも知れない。一体何を隠しているのか、俺は何を知らないのか
「アーロン…僕の、アーロン…話さなきゃ、ならない事がある……」
-------------------
体が重い。
頭は割れるように痛み、身体中には管を通されているようだ。大量に痛み止めを投薬されているのか手が震えている。身に覚えのある副作用だった。
私はまともに焦点の合わない目でアーロの姿を探した
目線の入るうちにはいない
あの時、アーロは無事だったはずだ。
突然アーロの声に答えるように火竜が現れて私に噛み付いていた火竜に飛びかかったのだ。騎士達の声と、アーロの声を最後に私は意識を失ってしまった。その後の事は分からない、アーロ、本当に無事なのか
私の幻覚では無いのか。
「アーロ、」
私は管を引き抜き、ベットから起き上がった。
--------------
「なに…、」
俺は今、ルカから聞かされた内容に気を失いそうな程混乱している。
「…だから兄さんは、生きながらえたんだ。僕は、奪われたんだよ、心臓もアーロンも。どうして思い出してくれなかったの…?ずっと、待ってたのに…僕は……っずっと1人で…っ」
信じられなかった。
ルカや、イーサンの隠していたものに自分が関わっているなんて少しも思っていなくて、あまりにも壮絶な内容に息を呑む。自分が記憶障害だなんて、やっぱり信じられなくて俺は思わずマルコを見上げた。
マルコは幼少の頃のイーサンを知っている。
マルコは静かに俺を見て、頷いたんだ
「……うそ、…」
じゃあ、それじゃあ今、イーサンは
「イーサンの心臓は…」
「…うん。僕に帰ってきたよ」
ルカが自分の心臓の上に手を置いた姿を見た時、イーサンの痩せた姿と、薬品の匂いを思い出した。
俺の足は、勝手に動く
ルカのベットの傍に膝まづいて話を聞いていた俺は立ち上がろうとするが、ルカの手によって阻まれる。
「どこに、行くの……」
「離して…!ルカ!」
その弱った体の何処にそんな力があるんだろう。熱く火傷しそうな手に骨が軋むほど強く掴まれる。
「……兄さんの所に?…っ僕はずっとアーロンを待ち続けたんだ…!…ずるい、兄さんはずるい…!僕はずっと1人で戦ってたのに!今の話を聞いてどうして…!?何とも思わない!?言ったじゃないか!!僕が好きだって…!僕と結婚するんだって…!どうして僕を置いていくの…!」
「俺はイーサンの妻だ!!!」
まるで幼子が駄々をこねるようなルカの様子に引っ張られるように声を張り上げた俺は、混乱でいつの間にか呼吸が荒くなっていたのか、肩で息をしている。ルカも同様だ
途端静まり返った部屋で、俺は緩くなったルカの手を振りほどいて外に出ようと、マルコすら押しのけてドアノブを握った。
だけど、俺が開けるまでも無くその扉は開き、隙間から手が伸びてきた。
「アーロン様!!」
バタンッと扉は閉められ、鍵を閉める音
俺は首にあたるヒヤリとした感触にどこか冷静でいた。いつか、彼女に殺されるんじゃないかと夢で見ていたからだろうか
「ナラ…お医者様は…?」
「……」
「貴様…!」
殺気立ち、何処から出したのか剣を抜き取るマルコにナラは「来ないで!!」と更にナイフを俺の首に押し付ける。
外からドンドンと扉を叩く音と、男の声がする、医者は本当に呼んで来たんだろう。けど俺達の話、というより俺が言った言葉がナラに聞こえていたんだ。
「そんな事をしてなんになるんだ、お前達が屋敷でやった事も全てなんの意味もない」
「うるさい!!その計画に頷いたのは当主様でしょう!!中途半端に投げ出すからよ!どうしてルカ様だけがこんな目にあわなきゃならないのよ…!!どうして…っ」
マルコに向けられていた言葉は次第に俺に向き、耳元でナラの悲鳴にも近い声が鳴る。次第に首に食い込んでいくナイフは、遂に皮膚を切ったようで、ルカは焦ったようにベットから起き上がろうとするが、高熱で上半身を起こすのがやっとだ
「ナラ、やめろ…っ」
「いいえ、いいえ……!!」
ルカの言葉すら聞かないなら誰が何を言っても無駄だろう。
俺は、やはりどこか冷静なままどうするべきかを考えていた。一刻も早くイーサンの傍に行ける方法を
「ナラ?こんな事したら雇い主のルカにも迷惑がかかるし、ナラ自身にも」
「うるさい!!もうその程度の話じゃない!!ルカ様が幸せになるんだったら…!!死んだっていいもの…!!」
こんな事をして、ルカが幸せになるわけないのに。余計拗れるだけだ。
ナラの死で得られるものなんて無い
それが分からないのだろうか。人間っていうのは追い詰められると正常に脳が働かなくなるって心理学の本で読んだ
俺は仮にも伯爵家の人間だ。
あの屋敷でされてきた事を俺が実家に言わないのは、当主の妻が屋敷の人間にいじめられてるなんて、よっぽど威厳が無い人間だと、それを教育した家ごと大きな恥だからだ。それは夫である当主も同様にそう思われる。
それに俺は、実家に簡単に泣きついてまた昔みたいに何もせず、苦労せず生きていくのは嫌だった。
ただ、今みたいな状況では話は大きく変わってくる。
ここにいる人間だけならまだしも、外には騒ぎを聞きつけて人が集まっているようで。多くの声がする
こんな場面を見られたら、ナラだけでは無く、雇い主のルカ、ルカの兄であるイーサン。尚且つイーサンと俺は夫婦だ。
ややこしい事になるに決まっている
どんどん焦ってきた俺に同調するように、ナラの手に力が籠る。怒りと緊張で筋肉が強ばっているんだ。軽い過呼吸も起きているようで、指はナイフを強く掴んだ状態で固まって開かないだろう。どんどん首に食いこんでいく感覚。血が流れるのが分かる
ふと、外の騒ぎが一瞬静まったかと思うと、扉が叩かれた。
「アーロ!アーロ!無事か!何が起きてる…!」
イーサンの声が聞こえる。
目が覚めたんだ、良かったと俺はこの状況にも拘わらず嬉しくて泣きそうになる
そして、一刻も早く心臓の事は本当なのかと事実を聞きたい。
ガチャガチャとドアノブが動く音がする「もう少しだ」「外れるぞ」きっと壊しているんだろう。
「……ッ」
ナラは狼狽える。頭が冷えてきたのか、自分がやっていることのまずさに気付いたのか。
引けない、と思ったのだろうか
ナラは完全な殺意を持ってナイフを動かした
多くの人の声が俺の名前を呼んだ気がする。
「ぁ…」
俺の目にはへたりこんで腕を震わせ、涙をこぼすナラ。そのナラの首に剣を当てるのはマルコで、俺に向いたままのナイフの刃の部分を血を流しながら掴んでいる大きな手はイーサンだ
そして、俺の体を守るように、ナラから盾になるようにして抱き着いている熱い身体はルカだった。
「アーロ、無事だな」
「イーサン、手が…っ」
扉は開いていて、廊下には騒ぎを聞きつけたものが群がっていた。結局こんな所を見られてしまった
イーサンの顔色は最悪で、俺は心臓の事を本人に聞かずとも信じてしまいそうになる
それに今は火竜の傷もあるのだ、あれだけでも致命傷になりうる。
ナイフから滴る血が今のイーサンを左右してしまいそうで、護衛騎士がナラを引き剥がしほっとしたが、医師が血を流す手を見ようとしたのに、鬱陶しそうに払いのけて俺の傍に来た。背中越しに、その気配を感じたのかルカのこもる力が強くなった
そして、まるで縋るように声を出す
「……兄さん…お願い、アーロンを取らないで……お願い……」
「…それは、私の決めることじゃない」
向けられた複数の視線。俺の答えを欲しがっているんだ
俺の意思は初めから決まっているけど、知らないまま答えたくは無い
「全部話して。まだ話してない事、全部」
「……奥様…」
マルコの心配そうな声。
過去を話す事を拒絶していたイーサンにルカから既に聞いていると言うと、またここで一悶着あり、話が進まないと一喝したのは、ルカとイーサンの状態だけを確認し、少しだけなら大丈夫と許可した医者。この人は屋敷で大声を出した俺の事でイーサンをからかっていた老年の医者だ。口ぶりからするに、やっぱりこの人も過去を知る1人のようだった
ナラを騎士に引き渡し、ルカはベットに戻り、イーサンはソファに座らせる。俺も椅子に座って、マルコにも椅子を進めたけど普通に断られた。
俺が聞く体勢でいると、イーサンは俺の姿をじっと見つめて、目元を手で覆った。
そして、口を開いた。
「私は、」
イーサンの口から、時々ルカの口から告げられた内容は彼らの計画だった。
そして俺は今、過去最高にぶちぎれている。
2人の話はこうだ。
俺がルカを忘れてイーサンを好きになって結婚をしました。
ルカは怒って俺との結婚の約束を果たすためにイーサンに俺との関係を終わらせるようお願いしました。
イーサンは過去の事からルカの願いは当然の事だと、俺は元々ルカが好きだったと話を聞き入れましたが、ルカはただで終わらせるのでは俺の心が動かないと心配し、俺がルカに縋る状況を作るように言いました。
それが屋敷でのあの日々に繋がり、イーサンは痩せていったり耳に傷を負う俺の姿を見てやはり間違っているとルカには秘密裏に俺を別荘に逃がしました。
そしてそのまま俺と離婚してルカが帰ってくるまでに俺の実家である伯爵家の庇護下に置こうとしました。
イーサン曰く、自由にしたかったのだという。ルカの心臓を奪って俺も奪った自分は、選ぶどうこうの権利がそもそも無いから、ルカから守れないと。
伯爵家の庇護下に置かれた俺になら、ルカも正統な方法しかとれない。と
そして、イーサンの心臓がルカに戻ったという事。イーサンは今人工心臓だと言うこと。
ここは計画通りで、イーサンは当主の座をルカに譲り、どのみち俺の前から姿を消すつもりでいたらしい。
「……っかじゃないの」
震える拳は今にも暴れ回りそうだ。
ナイフで切られた傷を包帯で巻いて貰ったが、力が入って首が締め付けられるのを感じる。小さな俺の声はどうやら嘆きに聞こえたようで、イーサンが「本当にすまない」と頭を下げる。
俺は耐えきれず、大きく音を立てて椅子から立ち上がった。
「ほんっとばっかみたい!!じゃあ何!俺はそんな計画の為に振り回されてたって事かよ!?」
駄々では無い、怒りに震える姿。
そんな俺の姿見た事ないイーサンは少しだけ驚いてるように見える。俺も自分自身で驚いてる、俺ってこんな風に怒るんだ
「……僕にはそんな方法しか無かった…2人は結婚して、アーロンは既に兄さんを好きだった、見ればわかる…そんな中で僕がアーロンに何かを言ったとして何が変わるの……?」
「諦める!!俺なら好きな人を苦しめてまで自分の物にしようなんて思わない!!そんなの、違う!!」
「アーロンが僕を裏切ったんじゃないか!!約束、したのに…!僕はずっと1人…!同じ立場で寄り添ってくれる人間がいない中、アーロンの事だけを思って耐えて来たんだ!!身体中に管を繋がれて歩くことすら出来ない…!声を出すことすら出来ない日だってあった!!それなのに、兄さんは!!」
「それはイーサンだって同じだったんじゃないのかよ!!!」
今のルカの姿は、少し前の俺だ。いや、幼い子供のままとも言える。
長い間眠っていたと言うのならば、いくら勉強をしてもその間普通の子が遊びや失敗の中で学ぶ物はどうなのだろう。経験すること無く、大人になったのだろうか
ルカを忘れてしまったことを謝れと言うのなら謝る。でもその頃の俺は走ることも覚束無い子供で、それ以降にも誰かが俺にルカの事を知らせるタイミングなんて山ほどあったはずだ。その選択をしなかったのは俺のせいじゃない。
俺は、イーサンと結婚した事、
イーサンを好きになった事を謝るつもりは無い。ルカが薄情な俺を許さないと言っても
でも俺だって、ルカが俺にした事を 簡単にいいよ許すよなんて言えない。大切なものを沢山壊されて、失ったんだ。
「…ルカが屋敷に来てから、俺はずっと俺の事、自分の事しか考えない幼稚な人間だって思ってた。変わらなきゃって思った。帝都の前に過ごしたルカとの時間、凄く楽しかったし、嬉しかったんだ。でもそれも、全部俺を騙す為のものだったんだろ?屋敷でメイド達がしてきた事も含めて、うん、……上手くいってたと思うよ」
あの時の事を思えばルカの計画は順調だった。俺はイーサンがいない寂しさを、確かにルカで埋めていたから。
あの時屋敷でイーサンと完全に接触しなかったり、髪留めの事や、別荘での事や、マルコが居ないままに、屋敷で1人耐えて、そのまま本当にイーサンが消えてしまっていたら、ルカに手を差し伸べられたら、
俺はどうしていたんだろう。何も知らないままイーサンを見捨てていたんだろうか
「アーロン…僕は本当に……」
無意識に自嘲していたようだ。こんな表情、出来たんだな。俺
ルカは今更焦ったような様子だ。
俺を見て瞳を揺らし、温度の高そうな涙を零した。
限界を迎えたのかもしれない、元々高熱だったのに無理をし過ぎたんだ
それを言えばイーサンの方がやばいかもしれない。俺はやっぱり一旦話を切り上げて医者を呼び戻そうと席を立った。
「待って…!アーロン……!」
「ルカ、俺が憎いんだろ。俺の事許さなかったらいいよ、俺もルカを許さない」
「アーロ、待ってやってくれ」
イーサン、どこまでいっても弟が大事なんだな。過去を聞いてしまえばそうなるのも分からなくは無いけれど。今の俺が怒ってるのはルカだけじゃない
俺はツカツカと引き返してイーサンの側まで歩き、思いっきり ひっぱたいた
小気味のいい音が部屋に響き、マルコがあんぐりと口を開けているのが目の端に入る。
「ばーか!!ばーかばかばか!!イーサンのばか!!!」
いつだったか、ばかと言ってイーサンに怒られた事を思い出す。あの時は寂しさで当たって言ったが、今は心底そう思う。
「なんも話さないからこんなぐっちゃぐちゃになるんだろ!!自分の言いたいこと飲み込んでルカの事ばっかり考えてさ!?俺の事守ろうとしたんかもしれないけど、黙ったまま消えるなんて結局それって俺の事蔑ろにしてんじゃん!!俺の気持ち全然考えてないじゃん!!!ばか!!!ほんっとばかばか!!!」
「アーロ……」
1度開いた口は止まらない。
俺、イーサンに対して自分でも知らないうちに溜め込みまくってたみたいだ。
喉のつかえが取れたみたいにスルスルと出る言葉達は結構な具合でイーサンを罵倒している気がするが、そんなの知ったこっちゃない。
俺は、妻として
夫を叱っているんだ
「お父様に言われたから仕方なく俺と結婚したのか?初めからいずれは俺と別れるつもりだった?だから俺に何もしなかった?何もさせなかった?でも、それならなんであの夜、俺に触ったの、俺に優しくしたの!なんで…!」
途中でマルコが咳き込んで後ろを向く。
相変わらずイーサンの顔色が悪い。ルカも辛そうだし本当に切り上げないと
あと、俺もまともに食べてなくて痩せた体が感情についてこない。
さっきから視界がぐるぐる回っているのだ。
「アーロ、一度座れ…顔色が悪い」
「一番具合悪い人が何いってのさ!!心臓が、イーサンの心臓が…なんで何も言ってくれなかったんだ…
イーサンになら、俺の心臓をあげたのに…!」
「アーロ…!」
地面が近づいてくる…?いや、俺が倒れていってるのか
イーサンのあせる声と共に誰かが体を支えてくれる。多分マルコだろう
タイミングよく入ってきた医者が呆れた顔で「急に倒れる方しかいませんな」ともぞもぞと動く口髭を最後に見て、俺は意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さあ、当主様も早く戻ってくだされ。本来なら立つこともお辛いでしょうに」
私は当然のように着いていこうと席から立ち上がるが、見透かした医者によってやんわりと止められる。
この医者は、まだ私がルカの心臓を移植されてまもない頃、誰もが父を恐れて私の言うことに耳をかさなかった中唯一親身に話を聞いてくれた。
私はそのままルカのかかりつけの医師に指名したのだ。彼は釘を刺すと、ルカと私に気を使ったのかマルコと一緒に部屋から出て行った
アーロは軽度の栄養失調のようで、すぐさま看護の者たちによってつれていかれた。屋敷で一体どんな扱いを受けたのか、私の知っている時より更にエスカレートしたはずだ。あの痩せた体を見ればわかる、それに。あの髪、
美しかったアーロの髪が不揃いに切られていたのだ。ここに来た時は長さがあったが、火竜の時には既に短かった。自分で切ったのか、一体 どんな思いで
私は手術の影響で体重も筋力も落ち、誰が見てもわかるほどにやつれた。なんのプライドか、こんな姿アーロに見せたくなかった。それに、私はアーロの前から姿を消すはずだったのだ
私のこんな姿を見てしまえば優しいアーロは前に進めなくなってしまう。そんな事があってはならない。だが、その時にした決断が
いや、初めにした決断から間違っていたせいで、アーロも、ルカも傷ついたのだ。
何も話さないから全てがぐちゃぐちゃになったとアーロはいった。
本当にそうなのだろうか?醜い過去が露見した事によって狂ったのでは無く?
そしてアーロは全てを知ったというのに、私の恐れていた反応一つ返さなかった。
それどころかアーロは
「イーサンになら、俺の心臓をあげたのに…!」
嘘でもいい、何も知らないままでもいい。火竜に喰らいつかれている時浅ましくも私は、アーロに許しだけを縋った。手術を受けてから死が常にそばに居た。本来の私のあるべき姿だ。
アーロに私の姿を見せてしまったと悔いていたというのに、あの時アーロを抱きしめ、アーロを守って逝くことができるのかもしれないと気づいた時、なんて幸福な事かと
行く先は地獄だが、アーロの許しさえあれば。私は生きていた証を残せる気がしたのだ
それはきっとアーロを苦しめることになるというのに
私はどこまでも自分勝手な人間だ。
「ルカ、私は…」
「……分かってるよ」
「…死のうとした私を見て泣くなと代わりに泣いてくれた時から。
ルカ。私はお前に幸せになってほしい。その為になんでもしたいと思うのはずっと変わらないだろう。私はお前からアーロを奪い、母を奪い、人生を奪い…恨まれているのは当然分かっている。だが…心臓はルカに返り、私はあるべき姿に戻った。いずれ私は死ぬだろう。
それで全てが許されるとは当然思っていないが、その上で言おう。私が生きている間、それがどんな形であろうとアーロが望む限り守る役目は私だ。その為ならお前とも戦おう」
アーロは気付いていただろうか、痩せた体を怒りに震わせながら私に向かってくる時、ずっと泣いていた。そしてそれが私の為に流されているものだと
「…兄さんに心臓あげてもいいって、…ははっ、そんなの、勝てるわけない…」
ルカがずっと欲しかった言葉。そして私も、子供の時誰かに言われたかった言葉。
そんな事を言われる価値のない人間だと思っていた。だが、全てを知って尚アーロは私にそう言ったのだ。
「僕は兄さんを許さない。…自分のした事も、間違っているって思えない。…でも、アーロンが今僕を選ぶ事はないのは分かる、その理由も。……少し一人になりたい」
次第に震えてくるルカの声にないはずの心臓が絞られる。
椅子から立ち上がると、随分と体力を消耗していたようで足元がふらついた。
情けないことだが、元の私に戻っただけだと踏ん張る
アーロの傍にいたい。
「兄さん待って、」
振り向くと、ルカはベットに深く沈んで背を向けていた。
苦しいのかと一歩近づいた
「…僕は兄さんを憎んでいるけど、それはアーロンの事だけだよ。…それだけ」
「…ルカ、」
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