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忘年会と真実達

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 泉のいない食卓で、ぼんやりと夕飯を食べる。

 …泉がいないとやっぱり寂しいし、気が抜けてしまう。

 …一人だとやはり夕飯作りも適当になってしまう。

 …あ、でも帰ってきたら泉が何か食べるかも!!

 少しやる気が戻ってきて、帰ってきた泉に食べさせる物について考える。

 何かお茶漬け的な…でも少し具を豪華に…。

 冷蔵庫の中身を確認しながら用意を始める。

 


 ★
 


 ふと携帯が鳴っているのに気づく。

 …泉か!?

 …でもまだ少し早いような…。

 画面を見ると泉の兄の真実からだ。

 「あ、もしもしシンジっ?どうしたの?」

 …少しだけお久しぶりな真実の声…少し怠そうだ。

 


 真実から電話を貰い慌てて泉を送り出したお店の駐車場に着く。

 急足で店の暖簾をくぐる。

 …やっぱり呑み屋さんだけあって活気があり、騒がしい。

 「透…こっちだ」

 店の端に座った真実が手を上げる。

 「シンジっ!泉は?」

 知った顔を見てホッとしながらも、泉の姿がないことに不安になる。

 「あっ、透クン久しぶりねっ★」

 真実の隣に座った女の子に声を掛けられる。

 …誰だろう?

 オレにはこんな子…知り合いには居ないぞって…!!

 「浅川さん!!どうしたの!?すごい久しぶりだね?!」

 よくよく見れば高校の時の同級生だ!

 高校3年の時、クラスが一緒になってよく泉と真実4人で連んでたよな…。

 「どうしたのって、今私もシンジの会社にいるのよっ…まあまだ入ったばっかりだけどねっ★」

 浅川さんはご機嫌にお酒を呑んでグラスを開ける。

 懐かしい顔を見て少し驚いてしまったが、我に帰る。

 「それより泉は?」

 浅川さんに絡まれている真実が店の奥を指差す。

 「トイレ行きたいって…女子社員が付いてくれてる…。動けそうなら連れ帰ってやってくれ…俺は浅川連れて帰らないといけないしな…」

 真実が面倒くさそうに浅川さんを宥めている。

 「あ、言っとくけど私が水野さん酔わせたわけじゃないわよっ!まあ酔った水野さんもかわいかったけど…」

 …浅川さんもだいぶ呑んでいるようだ。

 「浅川…酒はいいからほら…お茶飲めよ…」

 少しでも酔いを醒まさせようと真実がお茶を飲ませようとしていた。



 店の奥のトイレに向かう。

 途中でワイシャツ姿の男がトイレの前に立ち塞がっている。

 …トイレは四つあって、三つは空いていた。
 
 …泉がいるのは今使用中になっている場所だろう。

 「ちょっと失礼っ!」

 男の横を通り抜けて声をかける。

 「泉、大丈夫?」

 トイレの中で女の子の声が聞こえて、ドアが開いた。

 「んっ…透…」

 「先輩、大丈夫ですか?」

 便器の前に蹲った泉と寄り添う女の子…。

 「後はオレ代わるから、付き添ってくれてありがとう。呑み会楽しんで?」

 付き添ってくれた女の子に声を掛けてなんとか笑いかける。

 「あ、先輩の旦那さん!?」

 女の子は顔を赤らめるがその脇で泉の辛そうな姿が目に入る。

 「泉…大丈夫?…もう少し吐いておこうか。口の中に指入れるよ?オレの手は噛んでもいいけど、泉は舌は噛むなよ?」

 女の子を外に出してドアを閉める。

 泉は吐きながら苦しかったのか泣いてしまっていた。

 泉が落ち着くまで暫く抱きしめる。

 「透…ごめんね」

 「何言ってるの、全然だよ。歩けそう?真実がもう泉のこと連れて帰って良いって言ってるけどどうする?」

 「…帰りたいっ…」

 泉の涙も落ち着いたようだったのでそろそろ帰るか。

 持っていたハンカチで泉の涙と口元を拭く。

 「きまづかったら酔ったフリして下向いてな?真実にはオレ声かけるから黙ってていいよ」

 ハンカチを泉に手渡して、泉に笑いかける。

 「さあとっとと帰るぞっ★シンジも浅川さんに絡まれて大変そうだし、逃げるが勝ちだよっ★」

 泉が少しだけ笑ってくれた。



 泉の肩を抱いてトイレから出る。

 出口に向かって歩き出すとさっきトイレ前を塞いでいた男に声を掛けられた。

 「水野、もう良いんならもっと呑もうぜ?」

 あろうことか泉の肩を掴む。

 ビクッとして嫌がるそぶりを泉がする。
 
 泉の素振りからして…コイツか?

 以前から泉が嫌な同僚がいると言っていたが…

 泉を掴んでいる男の手を振り払う。

 「悪いんだけど、もう帰るから…」

 「っお前っ!」

 その男は怒ったようで、突然胸ぐらを掴まれる。

 「水野のヒモ旦那ってお前だろ?」

 そんなことを言い出した。

 …ヒモって…たしかにまあ世間からしたらオレは泉のヒモだろうな…

 「そんなことないっ!!」

 泉が泣きそうな声を上げる。

 「真鍋っ!お前いい加減にしろよっ!」

 横から真実が割って入ってくれた。

 「透…悪かったな。泉連れ帰ってやってくれ…」

 「…うん。連絡してくれてありがとう」

 泉を連れて店を出る。

 「真鍋、お前呑みすぎだぞ!」

 背後で真実の声が聞こえた。



 
 「透…ごめんなさいっ」

 助手席に泉を座らせてシートベルトを締める。

 再び泣き始めてしまった泉を宥めながら車を走らせる。

 泉は酔ってしまっているが無事に帰ってきてくれたし、ホッとしながら家に入る。
 
 「透…」

 縋るような声を出す泉の背中を抱く。

 「お疲れ様。疲れちゃったね。スーツ脱がせてあげるよ」

 わざと泉の可愛らしいおっぱいに触ったりしながらスーツを脱がせる。

 泉の綺麗な首筋をくすぐってっ…

 「んっ…透…くすぐったいよ…」

 身を捩った泉にキスした。

 「泉お腹空かないっ?泉が帰ってきたら食べるかと思って、少しスペシャルなお茶漬けを用意してみましたっ!ヒントはお魚ですっ!」

 「えっなにそれっ、食べたいっ!」

 少し元気になってくれた泉が微笑んだ。
 
 …笑ってくれて良かった…

 「じゃあパジャマ着てキッチンに行こうか?いやあオレも実は泉のこと気になってあんまり晩御飯食べれなくってさ…」

 泉と二人で笑う。

 ホッとしながら泉を抱きしめていた。
  

 
 
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