公爵様のわかり辛い溺愛は、婚約を捨る前からのようです

奈井

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宣言通り、あれから毎日、公爵は時間を作って我が家に足を運んだり、贈り物を送ってくれたりと、本当にマメに私に気遣ってくれた。
いいえ、それは私へではない。
足しげく通うアンドレア・ユーゴ公爵は、傷心のエルヴィナ・ウォルトン伯爵令嬢に言い寄っている、と世間に思わせるためだ。
公爵が考えている何かを成功させるために、この結婚を怪しまれないよう運ぶためだ。
婚約を解消したばかりの娘との噂は、公爵の利益にはならない、むしろ醜聞になってしまうのでは、と心配して公爵に問えば

「それは無いだろう。現に、今日も城ですれ違ったご婦人方に、今まで独身だったのはエルヴィナ嬢に恋焦がれていたからなのか、問われた。もちろん、そうだと答えれば、夢見る乙女の目をしていた。」

いくつになってもご婦人方は恋物語を好むんだなあ、と機嫌良さげに答えてくれた。
私が言われたわけでもないのに、聞いてるだけで恥ずかしくなって私はすぐに頬を染めた。
公爵の周りだけでなく、私の回りも、見事に成功していて、友達から”エルとユーゴ公爵のことがすごい噂になっているわ!”と興奮した様子の手紙が届いた。
公爵が言った通り、私とジェラールとライラの話は、1週間もしないうちに小さなモノとなっていた。
できるなら、静かに2人には幸せを掴んでほしいと願うしかない。
でも、完全に無くなったわけでもなく、燻っている熾き火のようで、何か新しい2人の話題が登れば、また大きい炎のようになっていまうだろう。
もっともっと小さくなって無くなるためには、更に大きい噂が出れば人の目はそちらへ引き付けることができる。
だから、公爵は私との結婚を急ぐのか・・・。

「今夜は月が綺麗だ。・・・庭を少し歩かないか?」

仕事が忙しかったのだろう。
昨日は珍しく我が家への訪れがなかった公爵。
毎日あったものが無いというのは、私自身も物足りなさを感じるもので・・・。
たった1日見ない顔を見れば、安心が胸に広がった。
いつもは窓から見るだけの庭へ誘われたのは初めて。
腕を出され、少し躊躇したが、公爵の目がいつもより優しく見つめていたので、安心しておずおずと自分の手を絡めた。
そのため急に公爵との距離が近くなり、公爵の香りを強く感じた。
きっと男性が使う香油の香りだろう。
お兄様ともジェラールとも違う、この国の物では無いのかもしれない甘くない男性的で爽やかな香り。
その香りに、私の心を揺さぶられ、どこか落ち着かなくなる。
お兄様から、公爵との結婚の話が出た時から、急に公爵を意識し始めた私。
それまで1度も公爵を、そんな風に思った事がなかった。
お会いすれば、魅力的な容姿にほのかな憧れは抱いていた。
でも、憧れは憧れで、自分の人生にそれほどの意味を持たないものだった。
それなのに今は、会うだけで、名前を聞くだけで、ドキドキと勝手に胸が鳴る。
婚約者の浮気現場を見てしまって、婚約を解消したばかりというのに、こんな風になってしまうなんて。
私は情が薄く、世の中で言う軽い女なのかと自分に問いたくなる。
ジェラールとの婚約者時代は、まだ日が高い公園を歩いた事はあった。
幼い頃からのように、しっかりと手を繋ぎ、他愛のない話をし・・・それが楽しかった。
今は、だんだん遠くなる事で屋敷の明かりは僅かになっていく、月明かりに照らされている暗い庭。
あの頃のような楽しさではなく、緊張と高揚で高鳴る自分の胸をおさえることができない。
仕事着でもある、黒い騎士服は銀のボタンに同じく銀の組み紐の縁取り、とても簡素だ。
それは、任務につく上で目立たぬようにとの配慮から。
王族の特殊な任務、それに付随する貴族の私的な事を調べる上でも目立たぬ事は必要なこと。
簡素なのに、とても洗練されていて、長身の公爵にはそれがよく似合う。
公爵を迎えるために、家の者がいろいろ飾り立ててくれている今の自分は、まるで子供のようで恥ずかしい。
盗み見れば、公爵の髪が月明かりに照らされ、黒く鈍く輝いていた。
しばらく黙って歩いていた公爵が口を開く。

「・・・本日は婚姻許可願書に君のサインがほしい。」

その言葉に足を止めた。

「婚姻許可願書?・・・婚約ではなく、婚姻ですか?」

私を振り向いた公爵は、大きく1つ頷く。
そして、ゆっくりと視線を今夜は大きく輝く月へと戻す。

「・・・証人3名を選び、婚姻に必要な両家の書類がそれぞれ揃った。最後に君の、エルヴィナ嬢のサインを得て、議会に提出する。その後、議会の承認を得て、国王の判が婚姻承認書に押されれば、婚姻が認められる。それでも、も婚姻が認められるまで通常は時間がかかるもの。・・・婚約などまどろっこしい事は必要ない。そんなことをしているから、あの男は君を逃がした。・・・私は約束がほしいのではない。君自身がほしい。」

その言葉から、どこか追い立てられるような公爵の雰囲気を感じた。
それでも、今は・・・。





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