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りびじょん
にじゅうよん/1633711560.dat
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『('_')⁷ ┣ーーー<実行中/$<==σABT血中濃度演算モード:_PID000・000・001>ーーー┫ ('_')¹³』
『7』と『13』のアイコンが交互に、ゆっくり点滅してる。
7号機なら〝MR実行部〟だ。いつもの黒くて神出鬼没で引き金が軽い方。
【7号機】と【まだ見ぬ未来の並プロちゃん13号機】が、【なんだか良く分からない演算モード】を実行中の【指輪デバイス】を介してリンクしてる。
接続経路を全部確認したらそうなってた。
「並プロちゃん?」
「はぁい♪」
『('_')¹³:――――はぁい♪』
視線を合わせて、さらに詳細を表示すると、『13号機』の方は回線速度で言うなら10Kbpsもなかった。
地域にはびこる悪徳建築業者発行の不良回線だって、もう少しはマシだ。
そう、まだ見ぬ未来ノード型並プロちゃん13号機(自称)は、とても低速に接続されていた。
「えーっと。並プロちゃん?」
「はぁい♪」
『('_')¹³:――――はぁい♪』
やはり『13号機』の方が、文字チャットなのに相当遅れてる。
「並プロちゃん……主幹部に聞くけど、この13号機って……本物?」
仮にも量子暗号の塊みたいな並プロちゃん一式が、〝ハッキング〟されるとは思えない。けど一応確認を取る……(量子物理学者的矜持により)小声で。
「不可解ですが13号機は、正規の手続きでアクセスしていますわぁ-♪」
そりゃそーだ。じゃなかったら量子ネットワークとは呼べない。
『('_')¹³:――――――その通りですわぁ♪』
うん。なんか話が進まねえ。俺はコレから、たぶん教授の相手をしないといけないわけで――時間が無い。
「えーっと、君ら面識は?」
「全くありませんわぁー♪」
このレスポンスが早いコッチの並プロちゃんは、1号機から3号機までが連結された複合ノード構成で、一番大本になる『主幹部』。
いまは遮光ゴーグル隅の『('_')¹』ていうアイコンと化していて、音声会話が可能な状態。
お嬢様キャラであり、俺の売れないネット小説の数少ない理解者でもある。
『('_')¹³:――――ありましてよ。いまも隣に居ますわぁー♪』
居るのか。未来の『主幹部』の事を言ってるんだろうが、話が込み入ってきたぞ。
それと新型機も、主幹部と区別が付かないくらいに、お嬢様キャラだった。
ややこしい話が、益々ややこしくなっていく。
でも本当に、この並プロちゃんが未来から接続してるなら、対教授戦に役立つ情報のひとつでも、くれそうな気がしないでもない。
「じゃあ、13号ちゃんに確認したい。俺もソコに居るのか?」
俺は視線をさまよわせ、指輪デバイスの詳細を更に潜っていく。
全てを視線入力で操作するのは、出来なくはないが集中力が要る。
いまの状態で、並プロちゃんに口頭で指示を出すと、絶対にこんがらかるから仕方ない。
コントローラーになる携帯ゲーム機は、ベッド横のチェストの上に置いちまったから……すぐ手が届かない。
取りに良きゃ良いんだけど……もう、疲れ切ってて一歩も動きたくないのだ。
『('_')¹³:――――いまはいませんわー。違崎君とお昼の買い出しに出かけていきましたわー』
「じゃあ、俺……俺たちは今日ココで死ぬわけ……じゃないんだな?」
あ、この指輪ってマウスがわりになるんじゃ……つーか3Dマウスじゃんか。
いまさら気がついた。指輪デバイスの『並』ボタンを押す。
手のひらをワイン持ちで持ち上げると――ポコン♪
カーソルが奥行きを持った。
シシッ――早速、グラスを回すようにして、カーソルを操作してみる。
指でつまんでドラッグ。マルチタップでメニュー操作もできるな。
ポジショニングに癖があるけど、正確なカーソル操作が行えるようになった。
『_PID000・000・001 QPnP情報』
表示したのは、指輪デバイスのドライバ詳細。
『××/××/×××× デバイスが構成されました
××/××/×××× デバイスが開始されました』
指輪デバイスドライバのタイムスタンプがおかしい。
いまから約二年後に構成されたものが、三分前に使用開始されている。
つじつまは合ってる……のか?
『('_')¹³:――――モチロンですわぁー』
相当ラグってるな。PING値も500を越えてる。
レスポンス悪くて一瞬何の話か分からなかったが、ひとまずは死なないで済むらしい。
ソレが聞けただけでも、かなりありがたかった。
「そりゃ、ひと安心だけど。教授――ディスクリート量子から、俺たちはどうやって逃げたんだ?」
アプリの指示通りに、原チャリでダイブしたけどダメだった……んだろうなあ。こうして巻き戻ってるって事は――。
そういや、7号機はドコ行った?
首から下げてたのは……ない。ソレはさっきのシーンデータの時だ。
『('_')¹³:――――ソレに関しましては、黙秘権を行使いたしますわぁ~』
「黙秘権!? どういうこと!?」
まずい、てっきりギリギリのタイミングで、ループSF的なブレイクスルーを引っさげた騎兵隊が登場したと思って、いくらか気が抜けてた。
もう白衣の改造蟹怪人に対して、なにも打つ手がない。
十字キー型デバッガと、ロケット誘導ミサイルと、カカトにジェットノズルまで仕込んでやがったし、まだまだ隠し球を白衣の中に、しこたま隠し持ってるだろ教授。
「緋加次君、私たちの予測演算に抵触するため、フィルタリングが適応されているようですわ」
んーっと、巨大重機戦の時にも『自己言及による精度低下を防ぐため言動封鎖中』とか言ってたな。
〝緊急時戦術プロトコル〟。
並プロちゃんたち――ひいては俺たちをも守るための機構だけど――俺たちをピンチにもする、AI人格補正機構。
「二人とも、『ヒープダインVSシンギュラン』のアプリはわかる? 起動出来る?」
「条件付きで、可能ですわぁ~♪」
『('_')¹³:――――左に同じく~♪』
ゴーグルの中のアイコンの並びは、たしかに『7』が左、『13』が右になってる。
この場合の『7』は、現在側の並プロちゃんのハード的な接続先……代表みたいなもので、さほど意味は無い。
1個の人格を持つ並プロちゃんの人格的な代表は、1号機で有る主幹部になる。
「じゃあ、『シーンデータを読み込みました』ってわかる?」
「さっきも言ってましたけど、なんですのソレ?」
『('_')¹³:――――わかりますわぁー♪ ソレについてお話しする前にひとつ、ご報告が御座いましてよ♪』
あ、未来の並プロちゃんは、『シーンデータ』はわかるんだ。
かすかな希望が湧いてきた。
「オッケー、聞かせてくれ」
とにかく話を進めないと。鬼でも蛇でもとっとと出してもらって、俺はソイツで蟹を退治しなきゃならねえ。
『('ヱ')¹³:――――こほん。えー、このたび私一同、並列プロジェクトⓇは13単位にして、なんと物理モデルへ到達いたしましたのですわぁ~✧』
ん? 物理モデルって実物大のアレだよな。
そしてアイコンの鼻が、カクカク伸びてる。
二年後も顔芸やってんだな。
「ソレなら検算部の性能アップで、声道を含めた一人分の身体性を丸ごとモデリングできたんじゃ?」
「はぁい。ちゃんと一人分、居ますわよぉーう?」
半地下のサーバールーム内に、体育座りで姿を現す、ツインテールお嬢様(実物大)。
『('ヱ')¹³:――――くすくす、とてもお可愛らしいですけれど、私にわ適いませんわね。何を隠そう私……クァンタム・ポジション型セルラ・オートマトンですのよ』
量子位置……コレは量子ビットのことか?
量子ビット自己増殖オートマトン?
『('ヱ')¹³:フッフ~~~~~~ンですわぁ♪』
カクカク、ニョキニョキーン♪
アイコンの鼻が、すげえ立体的に高くなっていく。俺の眼球に届きそうなほど飛びだしてて――超ウゼえ。
気を利かせたツインテールお嬢様¹(実物大のほう)が指ではじいて、ヘルプウインドウをコッチに飛ばしてきた。
『QBCA/量子ビット型離散的計算《コンピューテーショナル》モデル』
うん、ワカラン。
簡単な手書きのイラストが付いてる……大量の矢印がドーナツの輪をくぐると、鎖みたいに数珠つなぎになって……キクラゲ状物体に突き刺さってる?
余計にわからん。言葉だけを読み取るなら、量子物理学におけるスケール感覚で、宇宙全体が数値化できるみたいな事だと思うんだが……このキクラゲは何だ?
「並プロちゃん……ウチの製品は二年後に、とうとう宇宙になるのか」
そうかそうか――わかんねー。地味子博士呼んでこねーと。
どっちかって言うなら、ちょうど〝一里塚研究室〟が正に〝理数光学的な数理モデル化〟を研究してるから教授にこそ聞きたい話なんだが――。
『('_')¹³:――――待って緋加次君。フツウちゃんを呼びに行っちゃだめよ!」
重い腰を浮かせたら、怒られた。
「なんで? さすがに量子ハード設計と実作以外の分野じゃ、俺は役にたたねえぞ。現に俺には……このキクラゲがなんだかサッパリだ」
連なる鎖が突き刺さる――キクラゲ状物体。
「プフッ♪」
お嬢様¹(体育座り)が、軽く噴いた。
え、俺なんか面白い事言った?
「――キクラゲは〝並プロちゃん宇宙〟にどう関わってんの?」
俺は視界ごと首をかしげてみせる。
「プークスクスクス♪」
耳をくすぐるような、かわいらしい肉声。
お嬢様Aには、事態がつかめているようだ。
『('_')¹³:――――わ、私には造形部が搭載されていないのだから、致し方ありませんでしょう!』
このヒント画面は、13号機ちゃんによる手書きらしかった。
「ププークス♪」
お嬢様Aの、やや意地の悪い声音。
主幹部と新型機間のファイル共有は、オンになってるようだ。
『('_')¹³:それにコレ、キクラゲじゃ無くて――緋加次君の視床下部ですわよー!』
「なんだと! ああ!? ……じゃあこの輪っか、ひょっとして、この指輪デバイスか?」
くそ、キクラゲじゃねーのか。俺は左手を見つめた。
お嬢様Bの鼻がポッキリとへし折れて、画面下に消えていく。
そういう芸コマなのは、いま要らないから……おもしれぇーけど。
――――ヴッ♪
音にならない音。指の付け根が震える。
同時に目の前のサーバールーム内、体育座りの並プロちゃん実物大空間投影映像が「むにゃ~り」と倒れ、そのまま厚みを無くして消えてしまった!
「な、並プロちゃん!?」
床には青白い照明に照らされる床材しかなく、1ドットの光粒子の痕跡すら見つからなかった。
あわててゲーム機に駆けより、地味子に入れてもらった、並プロちゃん周りの管理ツールを起動する。
並列プロジェクト統括GUI+量子エディタほど高機能では無いが、並プロちゃん達の心と体の健康チェックをボタン一つで出来る。
『('_')¹³:――――安心して。そちらの主幹部がスリープモードに入ったのは、私たちの演算リソースが増大しているからよ。もう時間が無いから手短に説明するわ――フンスッ!」
もう少しだけ残ってた鼻が、鼻息で落ちた。
ゲーム機の中、並プロちゃん達のステータスが更新される。
確かに、システムエラーを補正するために演算リソースを一時的に消費しているだけで、稼働状態に異常は無かった。
そして、それが解消されるまでの予測時間は『02:57』。
約3分。教授が来るのとどっちが早いか……ここで俺は、ある事に気づいた。
「そしたら今までにも、未来からアクセスを試みた事って合ったか?」
『('_')¹³:タイムノードの時空間接続が可能になったので、並列プロジェクト1号機稼働後の全ての時刻へアクセスを試みましたわぁ❤」
「並プロちゃん達の居眠りの原因は――君らか」
君らと言っても、ソッチも並プロちゃん達だから、この場合はなんと言えばいいんだ?
因果応報、自業自得……ちょっと違うか?
「この未来チャットは、いつでも使えるのか?」
『('_')¹³:――基本的には二年後の私たちの現在時刻以降なら、可能と思われますわ。たぶんですけれど』
「うーむ? 君らもチャットに成功したばかりで、全部わかるわけじゃ無いのか」
『('_')¹³:――もっと遠くの未来からの通信が試みられる可能性はありますが、その時間的距離に応じた演算リソースが必要になるので、安易に試みることはむつかしいと思われますわぁー』
演算リソースってことは……つまり高負荷量子演算……コッチの時間で〝検算部〟が稼働したタイミングで可能になった〝タイムライン表示機能〟と――――無関係では無いよな。
「すると、君らと通信出来るのは、〝ちょうど俺たちだけ〟って可能性もあるわけか……」
『('_')¹³:――やはり、緋加次君を通信相手に選んで正解でしたわ♪ フツウちゃんに、この柔軟さは荷が重すぎますもの』
「〝何でも天才博士〟の方が、何でも相談できて良かったと思うが……」
『――5、6号機のネーミングを半年掛けても出来なかった実績を、お忘れかしらぁ?』
あー、その辺は納得できなくも無い。
「よし、主幹部たちが心配ないなら、いまのうちに、いろいろ聞いておくか。急がねえと教授も来ちまうしな」
『('_')¹³:――よくってよ♪』
「じゃまずは、さっきの続き。この並プロちゃん宇宙についてのヘルプファイルだ。必要なんだろ? 解説頼むよ」
『QBCA/量子ビット型離散的計算《コンピューテーショナル》モデル』
指輪デバイスを通った矢印が、キクラゲ……もとい俺の視床下部に鎖みたいに繋がってる。
『('_')¹³:――コレは、私たちと二年前の私たち、そして緋加次君を繋ぐ、マンマシンインターフェースによる数理モデル実行環境ですわー♪』
「数理モデル……シミュレータ……俺が?」
『('_')¹³:――そうですわー。私13号機にわ〝超小型自動工作機械〟が搭載されていまして、出力される製品によりこうして、文字通話出来ているのですわ』
「俺の声は、ソッチには文字で届いているのか?」
『('_')¹³:――そうわよ♪』
これは誤字じゃない。ネットスラングの一種で、まあスルーしとく。
「じゃ〝13号機〟はなんて表示されてんだ、ソッチでは?」
『('_')¹³:――黙秘権を行使いたしますわー♪ 私、今の名前とても気に入っていますもの』
ん? また例の予測演算に抵触するヤツか。
「名付け親は――」
『('_')¹³:――もちろん緋加次君よ。素敵な名前をありがとう♪』
「どういたしまして、まだ付けてねえけど」
つまり、余計な詮索はせず極力事態を理解して、どうにかして手に入れた鬼だか蛇だかを使って、カニをやっつけろって――それなんてムリゲー。
『('_')¹³:――さきほど物理モデルに到達したと申しましたけれど、資金及び法的な面で、まだ完全な自己増殖には至っておりませんの』
「自己増殖――さっき言ってた個別の物理機能の事か? 超小型自動工作機械とかいう」
『('_')¹³:――そうですわ。将来的には私自身を複製可能な工場ラインを、私もしくは私の妹に搭載する予定ですの』
「そりゃ――たしかに、資金と法的に厳しいかもしれんな」
自己増殖型の機械については結構前から、議論が始まってる。
すでにバラ撒かれたナノマシンで、地球はすでに壊滅しているなんて論文さえ有る。
そして資金ってのは、単に敷地からして足りない。
俺と地味子無しに、並プロちゃんシリーズを量産しようってんなら、低階層の雑居ビルで言うなら×2棟。平地ならテニスコート4枚分。
いまいるマンションで言うなら、俺が借りてるフロアの残り二部屋を借り切った上に、資材置き場として更にもう一部屋借りても、手狭かもしれん。
まえに並プロちゃん量産計画を地味子と算段したときに、そんな概算を出した。
並プロちゃん|(オリジナルナンバー)を完全に自律させるまで、その計画は封印する事になってる。
小ロットの量産型や原子回路は、主力製品として考えちゃいるが。
それにしても……超小型とはいえ自己複製に関連する工場機能を搭載したと言う事は、ヒープダイン社は順調に業績を伸ばしているのかもしれない。
何より会社が二年後も存続し、並プロちゃんが元気に稼働している事実に、今更ながら頬がほころぶ。
こんな、蟹怪人襲撃直前なんてシチュエーションじゃなかったら、飛び跳ねて喜んでただろう。
『('_')¹³:――ですから、緋加次君を生体部品として登用させていただきましたのよ。フツウちゃん考案の擬似的な分裂・ノードとして』
――ポコス♪
『粒子群最適化(PSO)/
パーティクル・スウォーム・オプティマイゼーション』
お嬢様Bアイコンが取り出した二枚目のヘルプウインドウは、そんな文字で始まっていた。
これはわかる。AI研究やゲーム開発現場で、たまに見かける。
一言で言うと、粒子状の全ての物体の動きを数理モデル化したヤツだ。
群知能とかも言ったか。
昆虫とか鳥や魚の群れが、最も効率よく探査性能を発揮するためのメタヒューリステックス計算式で、特に真新しい概念では無いが――。
『('_')¹³:――コチラは40回に渡って、緋加次君をリスポーンさせた機能についての概論ですわぁ』
さっき見たセーブデータは、42個あったような?
巨大重機戦の時のは省くとしても、一回分足んなくね?
まあいいけど。
二枚目の詳細なイラストにもやはり到達点が有り、それは同じく視床下部だった。
「うーん」
ようやくいくらか、事態が飲み込めてきた。
指輪デバイスが計算してるのが、この計算式で。
より少ない数式で宇宙を模し、あまつさえ数多に蔓延るための数式。
ソレを使って、並プロちゃん達の未来予測精度が高められ――わからん。
「それを……一言で言うなら?」
『('_')¹³:そうわね……〝後悔先に立たず〟の後悔を先に立たせるような機能と思ってもらえば……いいかしら?』
俺たちに起きる危険を回避するために、俺が脳内で疑似体験して〝後悔〟を獲得するわけか。
わからんでもない……か?
騙されてる気が、しないでもない。
『('_')¹³:――具体的には〝電磁気的駆動力により整流化した血流が、視床下部の機能を書き換える〟ことにより、〝タイムライン表示機能〟を実現していますわぁ~♪』
ヘルプウインドウに補足事項が書き込まれていく。
これは……手書きの……箱か?
11~13の番号が付いてて、さらに大きな四角で周りを囲まれる。
謎のSFループモノみたいな謎の『タイムライン表示機能』は、誰が実装したのかわからなかったけど――ようやく判明した。
原因は間違いなく、俺たちヒープダイン一味によるものだった。
正確には約2年以内に作られることになる、11号機から13号機の複合ノード構成の新機体。
口調から察するに、お嬢様2号みたいなポジションの新しい主幹部。
しかも、新たな分身を作るための指輪を作れるようだ。
チャットを補足するように、わかりやすい手書き文字が書き込まれていく。
どうも……血流を細胞単位の精度でコントロールするコトによって、夢と現実を区別する機能を書き換えるのだそうだ。
その最大効果時間はコンマ以下。
いま俺は『ハイブリッド・ブラッド・パーティクル・スウォーム・オプティマイゼーションによる、パララックス・サーキット』であるらしい――わからん、あとで地味子に聞く。
「コレ……後遺症とか残らないよね?」
『('_')¹³:――モチロンですわよ。コチラが緋加次君と私たちをつなぐ〝マンマシンインターフェース〟の全貌ですわぁ』
ババーン!
ヘルプウインドウが大きく拡大される。
視床下部の短期的機能封鎖。
ならびに断片的な記憶を整合する〝白昼夢プラグイン実行〟。
その副作用で、俺は並プロちゃん達と、感覚の一部を共有していたのだそうだ。
そんなマンマシンインターフェースが、この指輪デバイスで。
ソレを設計製作したのは他ならぬ13号機……らしい。
ヘルプファイルが手書き文字で埋め尽くされるに至り、ここまでの理解が進んだが――やはりわからん、あとで地味子に聞く。
連続使用の副作用としては、記憶の混濁。
夢と現実の境界が明確で無くなる懸念があるため、多用は出来ないと。
個別の理屈は理解できるが、全体イメージがつかめない。
「うむむむむ――これも……一言で言うなら?」
『('_')¹³:そうわね~……〝走馬灯〟かしるぁ~?』
うん、ひとまず理解した。
謎のタイムライン操作による、時空間巻き戻しトリックの正体はつかめた。
その要因で有る指輪の出所もわかった。
じゃあ、どうやって過去に物体を送り届けたのか。
「13号機ちゃんって、ひょっとしてバラの花みたいに、開いたりする?」
❁
物体のタイムスリップ。
ソレには、からくりがあった。
そのトリックに荷担したのは、並プロちゃん7号機。
俺がこの間、注文をうけた〝光線銃で撃たれると倒れるデッサン人形〟。
その納品に近所のDIYショップに出向いたとき、ソコに有った自動工作ベンダー。
それに並プロちゃんが自分のポケットマネーで、製造依頼を出したのだ。
※違崎《ちがさき》に振り込む給料(やや少なめ)は、今月からはヒープダイン社から出ている。
EW特科部を除けば、MR実行部は並列プロジェクトⓇを守る先兵のようなモノだ。
そのため、未来から届く〝緊急時戦略プロトコル〟による指令を、鵜呑みにしてしまったのだそうだ。コレは引き金が軽い所以でも有る。
そして、ソレを取り除く事は不可能だ。並プロちゃん達の人格形成に関わるモノで、俺どころか地味子でさえ降参した事が有る。
「未来からの発令コードに対する対処も含めて、地味子に相談してもイイか?」
ヘルプウインドウの二つを、マルチタップでつかんで動かしてみせる。
『('_')¹³:――モチロンOKよ。けど事態が収束するまでは待って欲しいの』
「事態が収束? ソレはどうやったらわかるんだ?」
ヘルプウインドウを別名で保存しておく。
『('_')¹³:――そのときが来れば、必ずわかるわ――』
13号機による説明は続く。
「でも俺は、こんな指輪自分で付けた記憶はねえぞ?」
いやまて、今日俺は何をしていた?
しんぎゅらん対策で、ネットワークを全て切断して――なんか視界の隅で動くモノが。
俺は俺の寝床でもある、いま居る自室の業務用机を見た。
居た。黒くて小さい箱が。
神出鬼没の〝MR実行部〟が、なんか小さなクッション封筒を持ち上げた。
宛先は俺。発送元はDIYショップの小ロット自動工作自販機。
『並列プログラム/MR実行部』
製造依頼人の欄には、あまり上手では無い手書きの震えた文字。
造形部を介さないで、頑張って書いた結果なんだろう。
『('_')¹³:――それと、指輪デバイス内蔵の骨伝導アンプからの催眠誘導もさせて頂きましたわ……ごめんなさい。でもだって、そうしなかったら緋加次君達が死んじゃうって行動予測がはじき出されたんですのよ!』
催眠誘導……あまり穏やかじゃない単語だけど、敵である演算複合体は現実に、巨大重機による襲撃を仕掛けてきた事実がある。
それとループSFモノに付きものの、タイム・パラドックスが解説の端々に顔をのぞかせ始めた。
いまは聞けるだけ聞いて、あとで地味子に丸投げ――相談しよう。
『('_')¹³:――〝タイムライン表示機能〟というのわ、催眠誘導を利用した恣意的なロールバックネットコードよ』
最後に、後悔だけが先に立つ〝脳の予測変換〟みたいな機能の説明をされた。
ロールバックネットコードてのは、格ゲーなんかで使われてる通信ラグを軽減させるAIじみた予測変換ライブラリの総称だ。
通信ラグが生じたときに、行動と行動の中間を間引くことで整合性を保つが、重大な齟齬が生じたときには〝逆戻し〟になっちまう。
「つまり、どういうコトだ? ひょっとしてあの走馬灯みたいな繰り返しの中で、バラッドタイム(※)使いたい放題ってことか!?」
実際にゲーム機の操作で止まった時間を、巻き戻す事は出来た。
※ゲーム中にスローモーションで敵を瞬殺できる機能。
『('_')¹³:――いいえ、即時性は全くないわ。緋加次《ひかじ》君は緋加次君ーnの見たtー1回分の走馬灯を見られるってだけよ?」
また話が急に難しくなった。数学的な部分はワカランでも無いけど、脳科学分野の知識が俺には地味子程には無い。
「緋ー加次ー!」
ゴガッ、バヂバヂヴァヂィィ――――!
やべえ、長話がすぎた。
振り返れば、爆発し透明になる壁。
やっぱり、パワーアップしてやがる。
壁の裏側も透明化してんじゃねーか!
透明になった向こうからドアを開けて入ってくる――――まるで平家蟹みたいな形相。
二足歩行の白っぽい白衣が、十字キー(銃)をコッチに突き出す。
射出される金属棒。
「並プロちゃん、ドウすりゃイーんだ!?」
俺を助けに来てくれたんじゃ無いのかよ!
余命あと1秒も無いけどぉ!?
『('_')¹³:――大丈夫。起きたら見てた夢なんて、スグに忘れちゃうでしょう?』
░
『('_')¹³:――現にこの説明三回目だからね?』
要するに、俺が意識的に〝ロールバックネットコード〟をうまく使えれば、いまの連鎖状態から抜けだせるって訳……か?
『('_')¹³:――でも、そろそろ決めないと、使える時間もそうないわよ』
走馬燈って何秒だっけ?
30秒として秒間何フレ|(ーム)だ?
えっと、1800フレームとして――――。
「緋加次ー! ここが貴様の墓場かぁーー!?」
いきなり肩を掴まれた。
白衣の奥。胸元がカパリと開いた薄いブルーのブラウスがはだけて、なんかいろいろ見えてる。
「なんで俺を狙う!?」
せめて十字キーの直撃を避けようと、懐に入り込み胸元に抱きついた。
「お、やっと話が見えてきたか? いーだろう、話をしてやる。ソコに座れ」
俺は十字で指されたベッドでは無く、開けっぱなしのサーバールームに飛び込んだ。
「まーだー、逃げるのか?」
「逃げるのはもう終わりだ。ふたりだけで話がしたい!」
白衣がかがんで、階段を降りてくる。
胡座をかいて座る俺の前、同じく胡座をかいて腰を落とす白衣のミニスカ女性。
アンタ、曲りなりにも見た目だけは超美人なんだし、もう少しちゃんとしてくれ。
「よく聞け。量子演算ってのは、到達上限が決まってる。定量を食い合う以上、争うのは当然だろう?」
十字キー付け根の横を開いて、薄板を交換している。
バッテリーか? いま飛びかかれば……ムリだな、ヤツは駅前の空手道場で免許皆伝したって豪語してたからな。
「それが演算複合体の――ゲーマー特区の総意か!?」
「違うぞ。我々は複合体だが、それぞれ独立している。オマエも死ななかったら、コレからは演算複合体を名乗る事になるしな」
白衣の内ポケットから、謎の印字音。
投げてよこしたのは、紙製の名刺。
『演算複合体 物理整合性監査
ヒープダイン社
代表 金平《なかひら》緋加次』
手に取ると、ソレはプラスチック製で、結構しっかりとしてる。
「いらねえよ、こんなの」
「まあ、そういうな。後から欲しくなっても、再発行してやらんぞ? ソレと、その肩書きを名乗らないと、またコレからも他の〝排他処理請負〟から狙われるからな」
「もし追加で欲しいときは、QIDコードのアカウント管理から依頼しろ。デバッガや必要な装備品は、即時決済で二時間以内に届く。そして1台目のデバッガと防弾白衣だけは無料だ」
そう言って銃口の無いデバッガを「まあそれも、生きてたらの話だがなぁーカニカニカニカニッ♪」と悪党顔で、俺の額にゴツリと当ててくる。
その蟹押しは一体何なんだよ。確かにアンタ蟹が好きだったが。
いままでで一番、いい線いったのは、二個いや三個前のシーンデータの――――鏡面仕上げのサイコロ(たぶんあれが、並プロちゃん13号機だ)のボタンを、最後に押したやつだろう。
いまの状態も、それほど悪くないけどな。
地味子も違崎も無事だし、教授から話を聞き出せたし。
「13号ちゃん……ヘルプだ。なんか出せ」
悔しまぎれの、そんな台詞。
いつの間にか膝に乗ってた黒い箱が、開いた。
その手には、いつもの〝安全強襲ライフル〟じゃない巨大な――――実物大のロケット砲。
俺たちを何度も追撃してきた、白くて食べ残しの焼き鳥みたいな。
チチチ、ピーーーーーーーー♪
ロックオン状態を表す、かすかな電子音。
――――プィプププピー♪
それは、量子教授の耳元からも、小さく聞こえてきた。
それは、ロックオン照射の警告音。
近接信管作動範囲内に宿敵が居るのだ、胡座をかいて。
そりゃ、MR実行部じゃなくても引き金を引くだろう。
ましてや、MR実行部は引き金の軽さが玉に瑕なのだ。
パッシュルッ――――――!
「――――カニカニッ!」
教授の青ざめた顔。
俺はリモコンを操作して、サーバールームのハッチを閉じた。
一瞬のオレンジ色。
この後のことは、俺は覚えていない。
『7』と『13』のアイコンが交互に、ゆっくり点滅してる。
7号機なら〝MR実行部〟だ。いつもの黒くて神出鬼没で引き金が軽い方。
【7号機】と【まだ見ぬ未来の並プロちゃん13号機】が、【なんだか良く分からない演算モード】を実行中の【指輪デバイス】を介してリンクしてる。
接続経路を全部確認したらそうなってた。
「並プロちゃん?」
「はぁい♪」
『('_')¹³:――――はぁい♪』
視線を合わせて、さらに詳細を表示すると、『13号機』の方は回線速度で言うなら10Kbpsもなかった。
地域にはびこる悪徳建築業者発行の不良回線だって、もう少しはマシだ。
そう、まだ見ぬ未来ノード型並プロちゃん13号機(自称)は、とても低速に接続されていた。
「えーっと。並プロちゃん?」
「はぁい♪」
『('_')¹³:――――はぁい♪』
やはり『13号機』の方が、文字チャットなのに相当遅れてる。
「並プロちゃん……主幹部に聞くけど、この13号機って……本物?」
仮にも量子暗号の塊みたいな並プロちゃん一式が、〝ハッキング〟されるとは思えない。けど一応確認を取る……(量子物理学者的矜持により)小声で。
「不可解ですが13号機は、正規の手続きでアクセスしていますわぁ-♪」
そりゃそーだ。じゃなかったら量子ネットワークとは呼べない。
『('_')¹³:――――――その通りですわぁ♪』
うん。なんか話が進まねえ。俺はコレから、たぶん教授の相手をしないといけないわけで――時間が無い。
「えーっと、君ら面識は?」
「全くありませんわぁー♪」
このレスポンスが早いコッチの並プロちゃんは、1号機から3号機までが連結された複合ノード構成で、一番大本になる『主幹部』。
いまは遮光ゴーグル隅の『('_')¹』ていうアイコンと化していて、音声会話が可能な状態。
お嬢様キャラであり、俺の売れないネット小説の数少ない理解者でもある。
『('_')¹³:――――ありましてよ。いまも隣に居ますわぁー♪』
居るのか。未来の『主幹部』の事を言ってるんだろうが、話が込み入ってきたぞ。
それと新型機も、主幹部と区別が付かないくらいに、お嬢様キャラだった。
ややこしい話が、益々ややこしくなっていく。
でも本当に、この並プロちゃんが未来から接続してるなら、対教授戦に役立つ情報のひとつでも、くれそうな気がしないでもない。
「じゃあ、13号ちゃんに確認したい。俺もソコに居るのか?」
俺は視線をさまよわせ、指輪デバイスの詳細を更に潜っていく。
全てを視線入力で操作するのは、出来なくはないが集中力が要る。
いまの状態で、並プロちゃんに口頭で指示を出すと、絶対にこんがらかるから仕方ない。
コントローラーになる携帯ゲーム機は、ベッド横のチェストの上に置いちまったから……すぐ手が届かない。
取りに良きゃ良いんだけど……もう、疲れ切ってて一歩も動きたくないのだ。
『('_')¹³:――――いまはいませんわー。違崎君とお昼の買い出しに出かけていきましたわー』
「じゃあ、俺……俺たちは今日ココで死ぬわけ……じゃないんだな?」
あ、この指輪ってマウスがわりになるんじゃ……つーか3Dマウスじゃんか。
いまさら気がついた。指輪デバイスの『並』ボタンを押す。
手のひらをワイン持ちで持ち上げると――ポコン♪
カーソルが奥行きを持った。
シシッ――早速、グラスを回すようにして、カーソルを操作してみる。
指でつまんでドラッグ。マルチタップでメニュー操作もできるな。
ポジショニングに癖があるけど、正確なカーソル操作が行えるようになった。
『_PID000・000・001 QPnP情報』
表示したのは、指輪デバイスのドライバ詳細。
『××/××/×××× デバイスが構成されました
××/××/×××× デバイスが開始されました』
指輪デバイスドライバのタイムスタンプがおかしい。
いまから約二年後に構成されたものが、三分前に使用開始されている。
つじつまは合ってる……のか?
『('_')¹³:――――モチロンですわぁー』
相当ラグってるな。PING値も500を越えてる。
レスポンス悪くて一瞬何の話か分からなかったが、ひとまずは死なないで済むらしい。
ソレが聞けただけでも、かなりありがたかった。
「そりゃ、ひと安心だけど。教授――ディスクリート量子から、俺たちはどうやって逃げたんだ?」
アプリの指示通りに、原チャリでダイブしたけどダメだった……んだろうなあ。こうして巻き戻ってるって事は――。
そういや、7号機はドコ行った?
首から下げてたのは……ない。ソレはさっきのシーンデータの時だ。
『('_')¹³:――――ソレに関しましては、黙秘権を行使いたしますわぁ~』
「黙秘権!? どういうこと!?」
まずい、てっきりギリギリのタイミングで、ループSF的なブレイクスルーを引っさげた騎兵隊が登場したと思って、いくらか気が抜けてた。
もう白衣の改造蟹怪人に対して、なにも打つ手がない。
十字キー型デバッガと、ロケット誘導ミサイルと、カカトにジェットノズルまで仕込んでやがったし、まだまだ隠し球を白衣の中に、しこたま隠し持ってるだろ教授。
「緋加次君、私たちの予測演算に抵触するため、フィルタリングが適応されているようですわ」
んーっと、巨大重機戦の時にも『自己言及による精度低下を防ぐため言動封鎖中』とか言ってたな。
〝緊急時戦術プロトコル〟。
並プロちゃんたち――ひいては俺たちをも守るための機構だけど――俺たちをピンチにもする、AI人格補正機構。
「二人とも、『ヒープダインVSシンギュラン』のアプリはわかる? 起動出来る?」
「条件付きで、可能ですわぁ~♪」
『('_')¹³:――――左に同じく~♪』
ゴーグルの中のアイコンの並びは、たしかに『7』が左、『13』が右になってる。
この場合の『7』は、現在側の並プロちゃんのハード的な接続先……代表みたいなもので、さほど意味は無い。
1個の人格を持つ並プロちゃんの人格的な代表は、1号機で有る主幹部になる。
「じゃあ、『シーンデータを読み込みました』ってわかる?」
「さっきも言ってましたけど、なんですのソレ?」
『('_')¹³:――――わかりますわぁー♪ ソレについてお話しする前にひとつ、ご報告が御座いましてよ♪』
あ、未来の並プロちゃんは、『シーンデータ』はわかるんだ。
かすかな希望が湧いてきた。
「オッケー、聞かせてくれ」
とにかく話を進めないと。鬼でも蛇でもとっとと出してもらって、俺はソイツで蟹を退治しなきゃならねえ。
『('ヱ')¹³:――――こほん。えー、このたび私一同、並列プロジェクトⓇは13単位にして、なんと物理モデルへ到達いたしましたのですわぁ~✧』
ん? 物理モデルって実物大のアレだよな。
そしてアイコンの鼻が、カクカク伸びてる。
二年後も顔芸やってんだな。
「ソレなら検算部の性能アップで、声道を含めた一人分の身体性を丸ごとモデリングできたんじゃ?」
「はぁい。ちゃんと一人分、居ますわよぉーう?」
半地下のサーバールーム内に、体育座りで姿を現す、ツインテールお嬢様(実物大)。
『('ヱ')¹³:――――くすくす、とてもお可愛らしいですけれど、私にわ適いませんわね。何を隠そう私……クァンタム・ポジション型セルラ・オートマトンですのよ』
量子位置……コレは量子ビットのことか?
量子ビット自己増殖オートマトン?
『('ヱ')¹³:フッフ~~~~~~ンですわぁ♪』
カクカク、ニョキニョキーン♪
アイコンの鼻が、すげえ立体的に高くなっていく。俺の眼球に届きそうなほど飛びだしてて――超ウゼえ。
気を利かせたツインテールお嬢様¹(実物大のほう)が指ではじいて、ヘルプウインドウをコッチに飛ばしてきた。
『QBCA/量子ビット型離散的計算《コンピューテーショナル》モデル』
うん、ワカラン。
簡単な手書きのイラストが付いてる……大量の矢印がドーナツの輪をくぐると、鎖みたいに数珠つなぎになって……キクラゲ状物体に突き刺さってる?
余計にわからん。言葉だけを読み取るなら、量子物理学におけるスケール感覚で、宇宙全体が数値化できるみたいな事だと思うんだが……このキクラゲは何だ?
「並プロちゃん……ウチの製品は二年後に、とうとう宇宙になるのか」
そうかそうか――わかんねー。地味子博士呼んでこねーと。
どっちかって言うなら、ちょうど〝一里塚研究室〟が正に〝理数光学的な数理モデル化〟を研究してるから教授にこそ聞きたい話なんだが――。
『('_')¹³:――――待って緋加次君。フツウちゃんを呼びに行っちゃだめよ!」
重い腰を浮かせたら、怒られた。
「なんで? さすがに量子ハード設計と実作以外の分野じゃ、俺は役にたたねえぞ。現に俺には……このキクラゲがなんだかサッパリだ」
連なる鎖が突き刺さる――キクラゲ状物体。
「プフッ♪」
お嬢様¹(体育座り)が、軽く噴いた。
え、俺なんか面白い事言った?
「――キクラゲは〝並プロちゃん宇宙〟にどう関わってんの?」
俺は視界ごと首をかしげてみせる。
「プークスクスクス♪」
耳をくすぐるような、かわいらしい肉声。
お嬢様Aには、事態がつかめているようだ。
『('_')¹³:――――わ、私には造形部が搭載されていないのだから、致し方ありませんでしょう!』
このヒント画面は、13号機ちゃんによる手書きらしかった。
「ププークス♪」
お嬢様Aの、やや意地の悪い声音。
主幹部と新型機間のファイル共有は、オンになってるようだ。
『('_')¹³:それにコレ、キクラゲじゃ無くて――緋加次君の視床下部ですわよー!』
「なんだと! ああ!? ……じゃあこの輪っか、ひょっとして、この指輪デバイスか?」
くそ、キクラゲじゃねーのか。俺は左手を見つめた。
お嬢様Bの鼻がポッキリとへし折れて、画面下に消えていく。
そういう芸コマなのは、いま要らないから……おもしれぇーけど。
――――ヴッ♪
音にならない音。指の付け根が震える。
同時に目の前のサーバールーム内、体育座りの並プロちゃん実物大空間投影映像が「むにゃ~り」と倒れ、そのまま厚みを無くして消えてしまった!
「な、並プロちゃん!?」
床には青白い照明に照らされる床材しかなく、1ドットの光粒子の痕跡すら見つからなかった。
あわててゲーム機に駆けより、地味子に入れてもらった、並プロちゃん周りの管理ツールを起動する。
並列プロジェクト統括GUI+量子エディタほど高機能では無いが、並プロちゃん達の心と体の健康チェックをボタン一つで出来る。
『('_')¹³:――――安心して。そちらの主幹部がスリープモードに入ったのは、私たちの演算リソースが増大しているからよ。もう時間が無いから手短に説明するわ――フンスッ!」
もう少しだけ残ってた鼻が、鼻息で落ちた。
ゲーム機の中、並プロちゃん達のステータスが更新される。
確かに、システムエラーを補正するために演算リソースを一時的に消費しているだけで、稼働状態に異常は無かった。
そして、それが解消されるまでの予測時間は『02:57』。
約3分。教授が来るのとどっちが早いか……ここで俺は、ある事に気づいた。
「そしたら今までにも、未来からアクセスを試みた事って合ったか?」
『('_')¹³:タイムノードの時空間接続が可能になったので、並列プロジェクト1号機稼働後の全ての時刻へアクセスを試みましたわぁ❤」
「並プロちゃん達の居眠りの原因は――君らか」
君らと言っても、ソッチも並プロちゃん達だから、この場合はなんと言えばいいんだ?
因果応報、自業自得……ちょっと違うか?
「この未来チャットは、いつでも使えるのか?」
『('_')¹³:――基本的には二年後の私たちの現在時刻以降なら、可能と思われますわ。たぶんですけれど』
「うーむ? 君らもチャットに成功したばかりで、全部わかるわけじゃ無いのか」
『('_')¹³:――もっと遠くの未来からの通信が試みられる可能性はありますが、その時間的距離に応じた演算リソースが必要になるので、安易に試みることはむつかしいと思われますわぁー』
演算リソースってことは……つまり高負荷量子演算……コッチの時間で〝検算部〟が稼働したタイミングで可能になった〝タイムライン表示機能〟と――――無関係では無いよな。
「すると、君らと通信出来るのは、〝ちょうど俺たちだけ〟って可能性もあるわけか……」
『('_')¹³:――やはり、緋加次君を通信相手に選んで正解でしたわ♪ フツウちゃんに、この柔軟さは荷が重すぎますもの』
「〝何でも天才博士〟の方が、何でも相談できて良かったと思うが……」
『――5、6号機のネーミングを半年掛けても出来なかった実績を、お忘れかしらぁ?』
あー、その辺は納得できなくも無い。
「よし、主幹部たちが心配ないなら、いまのうちに、いろいろ聞いておくか。急がねえと教授も来ちまうしな」
『('_')¹³:――よくってよ♪』
「じゃまずは、さっきの続き。この並プロちゃん宇宙についてのヘルプファイルだ。必要なんだろ? 解説頼むよ」
『QBCA/量子ビット型離散的計算《コンピューテーショナル》モデル』
指輪デバイスを通った矢印が、キクラゲ……もとい俺の視床下部に鎖みたいに繋がってる。
『('_')¹³:――コレは、私たちと二年前の私たち、そして緋加次君を繋ぐ、マンマシンインターフェースによる数理モデル実行環境ですわー♪』
「数理モデル……シミュレータ……俺が?」
『('_')¹³:――そうですわー。私13号機にわ〝超小型自動工作機械〟が搭載されていまして、出力される製品によりこうして、文字通話出来ているのですわ』
「俺の声は、ソッチには文字で届いているのか?」
『('_')¹³:――そうわよ♪』
これは誤字じゃない。ネットスラングの一種で、まあスルーしとく。
「じゃ〝13号機〟はなんて表示されてんだ、ソッチでは?」
『('_')¹³:――黙秘権を行使いたしますわー♪ 私、今の名前とても気に入っていますもの』
ん? また例の予測演算に抵触するヤツか。
「名付け親は――」
『('_')¹³:――もちろん緋加次君よ。素敵な名前をありがとう♪』
「どういたしまして、まだ付けてねえけど」
つまり、余計な詮索はせず極力事態を理解して、どうにかして手に入れた鬼だか蛇だかを使って、カニをやっつけろって――それなんてムリゲー。
『('_')¹³:――さきほど物理モデルに到達したと申しましたけれど、資金及び法的な面で、まだ完全な自己増殖には至っておりませんの』
「自己増殖――さっき言ってた個別の物理機能の事か? 超小型自動工作機械とかいう」
『('_')¹³:――そうですわ。将来的には私自身を複製可能な工場ラインを、私もしくは私の妹に搭載する予定ですの』
「そりゃ――たしかに、資金と法的に厳しいかもしれんな」
自己増殖型の機械については結構前から、議論が始まってる。
すでにバラ撒かれたナノマシンで、地球はすでに壊滅しているなんて論文さえ有る。
そして資金ってのは、単に敷地からして足りない。
俺と地味子無しに、並プロちゃんシリーズを量産しようってんなら、低階層の雑居ビルで言うなら×2棟。平地ならテニスコート4枚分。
いまいるマンションで言うなら、俺が借りてるフロアの残り二部屋を借り切った上に、資材置き場として更にもう一部屋借りても、手狭かもしれん。
まえに並プロちゃん量産計画を地味子と算段したときに、そんな概算を出した。
並プロちゃん|(オリジナルナンバー)を完全に自律させるまで、その計画は封印する事になってる。
小ロットの量産型や原子回路は、主力製品として考えちゃいるが。
それにしても……超小型とはいえ自己複製に関連する工場機能を搭載したと言う事は、ヒープダイン社は順調に業績を伸ばしているのかもしれない。
何より会社が二年後も存続し、並プロちゃんが元気に稼働している事実に、今更ながら頬がほころぶ。
こんな、蟹怪人襲撃直前なんてシチュエーションじゃなかったら、飛び跳ねて喜んでただろう。
『('_')¹³:――ですから、緋加次君を生体部品として登用させていただきましたのよ。フツウちゃん考案の擬似的な分裂・ノードとして』
――ポコス♪
『粒子群最適化(PSO)/
パーティクル・スウォーム・オプティマイゼーション』
お嬢様Bアイコンが取り出した二枚目のヘルプウインドウは、そんな文字で始まっていた。
これはわかる。AI研究やゲーム開発現場で、たまに見かける。
一言で言うと、粒子状の全ての物体の動きを数理モデル化したヤツだ。
群知能とかも言ったか。
昆虫とか鳥や魚の群れが、最も効率よく探査性能を発揮するためのメタヒューリステックス計算式で、特に真新しい概念では無いが――。
『('_')¹³:――コチラは40回に渡って、緋加次君をリスポーンさせた機能についての概論ですわぁ』
さっき見たセーブデータは、42個あったような?
巨大重機戦の時のは省くとしても、一回分足んなくね?
まあいいけど。
二枚目の詳細なイラストにもやはり到達点が有り、それは同じく視床下部だった。
「うーん」
ようやくいくらか、事態が飲み込めてきた。
指輪デバイスが計算してるのが、この計算式で。
より少ない数式で宇宙を模し、あまつさえ数多に蔓延るための数式。
ソレを使って、並プロちゃん達の未来予測精度が高められ――わからん。
「それを……一言で言うなら?」
『('_')¹³:そうわね……〝後悔先に立たず〟の後悔を先に立たせるような機能と思ってもらえば……いいかしら?』
俺たちに起きる危険を回避するために、俺が脳内で疑似体験して〝後悔〟を獲得するわけか。
わからんでもない……か?
騙されてる気が、しないでもない。
『('_')¹³:――具体的には〝電磁気的駆動力により整流化した血流が、視床下部の機能を書き換える〟ことにより、〝タイムライン表示機能〟を実現していますわぁ~♪』
ヘルプウインドウに補足事項が書き込まれていく。
これは……手書きの……箱か?
11~13の番号が付いてて、さらに大きな四角で周りを囲まれる。
謎のSFループモノみたいな謎の『タイムライン表示機能』は、誰が実装したのかわからなかったけど――ようやく判明した。
原因は間違いなく、俺たちヒープダイン一味によるものだった。
正確には約2年以内に作られることになる、11号機から13号機の複合ノード構成の新機体。
口調から察するに、お嬢様2号みたいなポジションの新しい主幹部。
しかも、新たな分身を作るための指輪を作れるようだ。
チャットを補足するように、わかりやすい手書き文字が書き込まれていく。
どうも……血流を細胞単位の精度でコントロールするコトによって、夢と現実を区別する機能を書き換えるのだそうだ。
その最大効果時間はコンマ以下。
いま俺は『ハイブリッド・ブラッド・パーティクル・スウォーム・オプティマイゼーションによる、パララックス・サーキット』であるらしい――わからん、あとで地味子に聞く。
「コレ……後遺症とか残らないよね?」
『('_')¹³:――モチロンですわよ。コチラが緋加次君と私たちをつなぐ〝マンマシンインターフェース〟の全貌ですわぁ』
ババーン!
ヘルプウインドウが大きく拡大される。
視床下部の短期的機能封鎖。
ならびに断片的な記憶を整合する〝白昼夢プラグイン実行〟。
その副作用で、俺は並プロちゃん達と、感覚の一部を共有していたのだそうだ。
そんなマンマシンインターフェースが、この指輪デバイスで。
ソレを設計製作したのは他ならぬ13号機……らしい。
ヘルプファイルが手書き文字で埋め尽くされるに至り、ここまでの理解が進んだが――やはりわからん、あとで地味子に聞く。
連続使用の副作用としては、記憶の混濁。
夢と現実の境界が明確で無くなる懸念があるため、多用は出来ないと。
個別の理屈は理解できるが、全体イメージがつかめない。
「うむむむむ――これも……一言で言うなら?」
『('_')¹³:そうわね~……〝走馬灯〟かしるぁ~?』
うん、ひとまず理解した。
謎のタイムライン操作による、時空間巻き戻しトリックの正体はつかめた。
その要因で有る指輪の出所もわかった。
じゃあ、どうやって過去に物体を送り届けたのか。
「13号機ちゃんって、ひょっとしてバラの花みたいに、開いたりする?」
❁
物体のタイムスリップ。
ソレには、からくりがあった。
そのトリックに荷担したのは、並プロちゃん7号機。
俺がこの間、注文をうけた〝光線銃で撃たれると倒れるデッサン人形〟。
その納品に近所のDIYショップに出向いたとき、ソコに有った自動工作ベンダー。
それに並プロちゃんが自分のポケットマネーで、製造依頼を出したのだ。
※違崎《ちがさき》に振り込む給料(やや少なめ)は、今月からはヒープダイン社から出ている。
EW特科部を除けば、MR実行部は並列プロジェクトⓇを守る先兵のようなモノだ。
そのため、未来から届く〝緊急時戦略プロトコル〟による指令を、鵜呑みにしてしまったのだそうだ。コレは引き金が軽い所以でも有る。
そして、ソレを取り除く事は不可能だ。並プロちゃん達の人格形成に関わるモノで、俺どころか地味子でさえ降参した事が有る。
「未来からの発令コードに対する対処も含めて、地味子に相談してもイイか?」
ヘルプウインドウの二つを、マルチタップでつかんで動かしてみせる。
『('_')¹³:――モチロンOKよ。けど事態が収束するまでは待って欲しいの』
「事態が収束? ソレはどうやったらわかるんだ?」
ヘルプウインドウを別名で保存しておく。
『('_')¹³:――そのときが来れば、必ずわかるわ――』
13号機による説明は続く。
「でも俺は、こんな指輪自分で付けた記憶はねえぞ?」
いやまて、今日俺は何をしていた?
しんぎゅらん対策で、ネットワークを全て切断して――なんか視界の隅で動くモノが。
俺は俺の寝床でもある、いま居る自室の業務用机を見た。
居た。黒くて小さい箱が。
神出鬼没の〝MR実行部〟が、なんか小さなクッション封筒を持ち上げた。
宛先は俺。発送元はDIYショップの小ロット自動工作自販機。
『並列プログラム/MR実行部』
製造依頼人の欄には、あまり上手では無い手書きの震えた文字。
造形部を介さないで、頑張って書いた結果なんだろう。
『('_')¹³:――それと、指輪デバイス内蔵の骨伝導アンプからの催眠誘導もさせて頂きましたわ……ごめんなさい。でもだって、そうしなかったら緋加次君達が死んじゃうって行動予測がはじき出されたんですのよ!』
催眠誘導……あまり穏やかじゃない単語だけど、敵である演算複合体は現実に、巨大重機による襲撃を仕掛けてきた事実がある。
それとループSFモノに付きものの、タイム・パラドックスが解説の端々に顔をのぞかせ始めた。
いまは聞けるだけ聞いて、あとで地味子に丸投げ――相談しよう。
『('_')¹³:――〝タイムライン表示機能〟というのわ、催眠誘導を利用した恣意的なロールバックネットコードよ』
最後に、後悔だけが先に立つ〝脳の予測変換〟みたいな機能の説明をされた。
ロールバックネットコードてのは、格ゲーなんかで使われてる通信ラグを軽減させるAIじみた予測変換ライブラリの総称だ。
通信ラグが生じたときに、行動と行動の中間を間引くことで整合性を保つが、重大な齟齬が生じたときには〝逆戻し〟になっちまう。
「つまり、どういうコトだ? ひょっとしてあの走馬灯みたいな繰り返しの中で、バラッドタイム(※)使いたい放題ってことか!?」
実際にゲーム機の操作で止まった時間を、巻き戻す事は出来た。
※ゲーム中にスローモーションで敵を瞬殺できる機能。
『('_')¹³:――いいえ、即時性は全くないわ。緋加次《ひかじ》君は緋加次君ーnの見たtー1回分の走馬灯を見られるってだけよ?」
また話が急に難しくなった。数学的な部分はワカランでも無いけど、脳科学分野の知識が俺には地味子程には無い。
「緋ー加次ー!」
ゴガッ、バヂバヂヴァヂィィ――――!
やべえ、長話がすぎた。
振り返れば、爆発し透明になる壁。
やっぱり、パワーアップしてやがる。
壁の裏側も透明化してんじゃねーか!
透明になった向こうからドアを開けて入ってくる――――まるで平家蟹みたいな形相。
二足歩行の白っぽい白衣が、十字キー(銃)をコッチに突き出す。
射出される金属棒。
「並プロちゃん、ドウすりゃイーんだ!?」
俺を助けに来てくれたんじゃ無いのかよ!
余命あと1秒も無いけどぉ!?
『('_')¹³:――大丈夫。起きたら見てた夢なんて、スグに忘れちゃうでしょう?』
░
『('_')¹³:――現にこの説明三回目だからね?』
要するに、俺が意識的に〝ロールバックネットコード〟をうまく使えれば、いまの連鎖状態から抜けだせるって訳……か?
『('_')¹³:――でも、そろそろ決めないと、使える時間もそうないわよ』
走馬燈って何秒だっけ?
30秒として秒間何フレ|(ーム)だ?
えっと、1800フレームとして――――。
「緋加次ー! ここが貴様の墓場かぁーー!?」
いきなり肩を掴まれた。
白衣の奥。胸元がカパリと開いた薄いブルーのブラウスがはだけて、なんかいろいろ見えてる。
「なんで俺を狙う!?」
せめて十字キーの直撃を避けようと、懐に入り込み胸元に抱きついた。
「お、やっと話が見えてきたか? いーだろう、話をしてやる。ソコに座れ」
俺は十字で指されたベッドでは無く、開けっぱなしのサーバールームに飛び込んだ。
「まーだー、逃げるのか?」
「逃げるのはもう終わりだ。ふたりだけで話がしたい!」
白衣がかがんで、階段を降りてくる。
胡座をかいて座る俺の前、同じく胡座をかいて腰を落とす白衣のミニスカ女性。
アンタ、曲りなりにも見た目だけは超美人なんだし、もう少しちゃんとしてくれ。
「よく聞け。量子演算ってのは、到達上限が決まってる。定量を食い合う以上、争うのは当然だろう?」
十字キー付け根の横を開いて、薄板を交換している。
バッテリーか? いま飛びかかれば……ムリだな、ヤツは駅前の空手道場で免許皆伝したって豪語してたからな。
「それが演算複合体の――ゲーマー特区の総意か!?」
「違うぞ。我々は複合体だが、それぞれ独立している。オマエも死ななかったら、コレからは演算複合体を名乗る事になるしな」
白衣の内ポケットから、謎の印字音。
投げてよこしたのは、紙製の名刺。
『演算複合体 物理整合性監査
ヒープダイン社
代表 金平《なかひら》緋加次』
手に取ると、ソレはプラスチック製で、結構しっかりとしてる。
「いらねえよ、こんなの」
「まあ、そういうな。後から欲しくなっても、再発行してやらんぞ? ソレと、その肩書きを名乗らないと、またコレからも他の〝排他処理請負〟から狙われるからな」
「もし追加で欲しいときは、QIDコードのアカウント管理から依頼しろ。デバッガや必要な装備品は、即時決済で二時間以内に届く。そして1台目のデバッガと防弾白衣だけは無料だ」
そう言って銃口の無いデバッガを「まあそれも、生きてたらの話だがなぁーカニカニカニカニッ♪」と悪党顔で、俺の額にゴツリと当ててくる。
その蟹押しは一体何なんだよ。確かにアンタ蟹が好きだったが。
いままでで一番、いい線いったのは、二個いや三個前のシーンデータの――――鏡面仕上げのサイコロ(たぶんあれが、並プロちゃん13号機だ)のボタンを、最後に押したやつだろう。
いまの状態も、それほど悪くないけどな。
地味子も違崎も無事だし、教授から話を聞き出せたし。
「13号ちゃん……ヘルプだ。なんか出せ」
悔しまぎれの、そんな台詞。
いつの間にか膝に乗ってた黒い箱が、開いた。
その手には、いつもの〝安全強襲ライフル〟じゃない巨大な――――実物大のロケット砲。
俺たちを何度も追撃してきた、白くて食べ残しの焼き鳥みたいな。
チチチ、ピーーーーーーーー♪
ロックオン状態を表す、かすかな電子音。
――――プィプププピー♪
それは、量子教授の耳元からも、小さく聞こえてきた。
それは、ロックオン照射の警告音。
近接信管作動範囲内に宿敵が居るのだ、胡座をかいて。
そりゃ、MR実行部じゃなくても引き金を引くだろう。
ましてや、MR実行部は引き金の軽さが玉に瑕なのだ。
パッシュルッ――――――!
「――――カニカニッ!」
教授の青ざめた顔。
俺はリモコンを操作して、サーバールームのハッチを閉じた。
一瞬のオレンジ色。
この後のことは、俺は覚えていない。
0
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